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コスプレなんてありえない

多分セーフ!

きっとセーフ!

ネッキーだけはマジ怖いです。

「うぐぐぐぐぐぐ……」


 放課後。手芸部改めコスプレ部(仮)にて。マツリちゃん含む5名の前で、衣装を片手に唸るオレ。

 着ぐるみと楽しい撮影会のはずが、どうしてこうなったのだろう……。




「お姉様、コスプレに興味はあるですよ?」


「あまりないなー」


「かわいい服がいっぱいですよ?」


「うちにもいっぱいあるよ」


 母さんが追加でぽこぽこ買ってくるので。



「お姉様にかわいくてセクシーな服を着せたいのですよ、お願いしますですよ」


 頭を下げられた。なんでこんなに必死なんだ……。



「自分で着れば良いじゃない、マツリちゃん可愛いし」


「マツリにセクシーな服を着ろと……ですよ?」


 あ、すいませんごめんなさい。



「えーっと、サイズとか合わないかもしれないし」


「それは大丈夫ですよ? 伊達に更衣室で抱きついたり、毎日近づいて見つめてはいないのですよ」


 なにそれちょっと怖い。オレのスリーサイズ、把握されてるの?



「最近また大きくなったのですよ、すごいのですよ」


「マツリちゃん、こっち見ないでくれるかな?」


「えぅ……」


 えぅりたいのはこっちだと言いたい。腕で胸を隠しながらちょっとだけ後ずさる。なんで女の子相手にこんな行動を取らなきゃいけないんだ。



「もしかしてコスプレって聞くとオタクっぽくてイヤなのですよ?」


「いや、別にそういう訳じゃないけど」


 どっちかというとオタク趣味だし、偏見はないけど。

 そういえば雑誌で見たクランドのコスプレは格好良かったな、師匠の大好きな大剣背負ってたし。



「じゃあちょっとだけでいいので着て欲しいのですよ!」


「んーっと……ごめん、いやだ」


「むー……」


 マツリちゃんが頬をプクッと膨らませた。

 人が着ているのを見るのと、自分が着るのとでは違うしなー。マツリちゃんには悪いけど、家で着せ替え人形にされて、学校でも着せ替え人形になるなんてまっぴらだ。

 見つめ合う事、数秒。

 マツリちゃんがポンッと手を叩いた。



「お姉様、着ぐるみには興味ないですよ?」


「着ぐるみ?」


「はいですよ。タリックマとか、わんぱいやの着ぐるみがあるのですよ」


「ほー……」


 タリックマは、いつもだるそうにしてるローテンションな熊で、背中のジッパーが見えちゃっている脱力系ファンシーキャラ。子タリックマにジッパーを狙われている。

 わんぱいやは、捨てられて弱っていた子犬が通りすがりの吸血鬼に助けられるんだけど、その代わりに吸血犬になっちゃったという萌えキャラだ。血ぃくれワン。

 どっちも可愛いんだよな……。



「着ぐるみの中の人やってみたいですよ?」


 中の人なんていない!

 でも一度くらい入ってみるのも良いかも……。



「他の部員に入ってもらって、握手とかどうですよ?」


 そんな子供っぽい事はしない!

 本当はネッキーやロナルドと握手したかったけど……ネズミー帝国に行った時の事ね。



「抱きついたりしてもおっけーですよ?」


 え、そんな事してもいいの?

 デパートのイベントで、スーニーズーの着ぐるみに抱きついて、怒られてた子がいたけど。



「もちろん撮影もおっけーですよ?」


 黙って聞いていたけど至れり尽くせりじゃないか。お金いくら払えばいいんだろ?



「ちなみにこんな感じなのですよ、なかなかの出来なのですよ?」


 携帯の液晶を見せてくるマツリちゃん。

 ………………………。



「マツリちゃん、着ぐるみ部ってどこかな?」


「コスプレ部なのですよ?」


「そうなんだ、それで場所はどこかな?」


「コスプレしてくれるですよ?」


「うん、なんでもする」


 だから早く行こうよ着ぐるみのトコに。




 ーーーーーーーーーーーー




 着ぐるみ部もといコスプレ部は、別棟2階の被服室だった。

 ちょっとだけ待っていて欲しいのですよ、と言うので大人しく待つ。

 まだかなまだかな~。 ふと入り口を見るとプレートがかかっている。部活の時間になると出すのかな? コスプレ手芸部と書いてある。どっちなんだ。



「お待たせしましたですよ」


「いえいえ」


 ちょっとドキドキしながら中に入る。ミシンの乗った机がひのふのみの……奥の方には更衣スペースのと、結構広いな。さて、タリックマとわんぱいやはどこだろう?



「きゃーーーー!!」


 うわ五月蝿い。耳がキーンとなったぞ、なんだなんだ?



「なにこの美少女! スタイルもいいし! この娘がマツリちゃんのいい人なの!? ボクにちょうだい!」


「ちょっとヤナギ先輩うるさいですよ」


 超音波のように甲高い大声にくらくらしていたら、いつの間にか女の子が目の前に。

 まるで男子のようなベリーショートの髪に、ソバカスという活発そうな子だ。目がすごいおっきい。



「いいなあ! いいなあ! くんくん、すんすん、外見も匂いもいいなあ!」


 変態だー!



「先輩いいかげんにするですよ!」


 マツリちゃんが外見に似合わないパワーを発揮して変態の人を引き剥がしてくれた。



「ごめんなさぃ、部長の私が不甲斐ないせいで、本当にごめんなさぃ……」


 消え入りそうな声に振り向くと、日本人形のようなセミロングの人が。和風美人って感じだけど妙に暗い。



「部長は悪くないですよ? ヤナギ先輩が悪いのですよ」


「えへへー、ごめんね? ボクったらつい興奮しちゃって」


 この人達はコスプレ手芸部の部長さんと部員さんか。

 いえいえ、タリックマとわんぱいやを頂けるのでこれくらい気にしないです。



「ボクは2年生で副部長の、柳矢那岐です! ヤナギヤナギ! 名前も変だけど、漢字も無駄に多くて子供の頃は苦労したよー!」


「あ、初めまして、美里晶です」


 ペコリと自己紹介。



「晶ちゃんだね! 外見も匂いも名前もいいなあ! あ、ボクは女の子が大好きです!!」


 テンション高い先輩だなあ、それにボクっ娘ってヤツか。対抗して、自宅にいる時みたいにオレって言うべきかしら。



「私は御手洗祥子と申します。部長を務めております。ごめんなさぃ……」


 テンション低い先輩だなあ、そして(ワタクシ)。お嬢様ってヤツだな。それにしても暗い。



「手芸部がコスプレ部になったのも、部員が5名にまで減ったのも、全部私のせいです、ごめんなさぃ、ごめんな……ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」


 随分酷い咳だな……って血だ! 血を吐いた! ちょっとー!?



「だ、大丈夫ですか!?」


「部長は体の弱い、薄幸の美人というキャラを作ってるのですよ。ケチャップなので気にしなくておっけーですよ」


「ボクは2ヶ月前の、継母に苛められている美少女って設定のキャラが好きだったなあ!」


 ……うん、部員が減ったのは部長さんのせいに違いない。



「2学期までに……2学期までに部員を増やさないと……ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」


「大丈夫ですよ、その為にお姉様を呼んだのですよ」


「そうだね! こんなかわいい子が宣伝に協力してくれるなら、部員なんてすぐ増えるよ!」


「……宣伝?」


 なんの話だろう?



「モデルさんですよ?」


「あ、そう言えば……でも宣伝ってなに?」


 着ぐるみに我を忘れていたけど、コスプレしなくちゃいけないんだった。でも宣伝ってなんだ。



「部員募集ポスターのコスプレモデルになってくれるんだよね?」


「伝統ある手芸部を私の代でつぶすわけにはいかないのです。たとえコスプレ部に名を変えても……ゲホッ! あ……」


 ケチャップが切れた模様。

 ってポスター? コスプレうんぬんは思いだしたけどポスターって聞いてない。



「マツリちゃん、部員募集のポスターってなに? 聞いてない」


「……コスプレをしてもらうのに夢中で、忘れてたですよ」


 そういう肝心な事を忘れちゃいけないと思う。



「村野さん、ちゃんと伝えていなかったのですか?」


「あらー……」


「ううう、ごめんなさいですよ」


 むー、ポスターは流石に無理。何枚貼る気なのかは知らないけど、無駄に目立っちゃうじゃないか。

 マツリちゃんには悪いけど帰らせてもらおう。せめて着ぐるみは見たかったけど……。



「ごめんねマツリちゃん、ちょっとそれは無理だから帰らせて――」


「あ! タリックマにわんぱいやですよ!」


「もら……」


「さあ元気にご挨拶ですよ!」


「う……」


「ほらお姉様、タリックマが手を振ってるですよ?」


 うん、あのやる気の無さがとてもとてもいい。手に持ってるのは子タリックマのぬいぐるみかな?



「わんぱいやちゃんがおねだりしてるですよ? 血ぃくれワンですよ」


 うん、いくらでも吸っていいよ。あの背中の羽どうやって動かしてるのかな?

 ってダメだ! これは罠だ帰ろうと頭ではわかっているのだけど、体が動いてくれない。むしろ足が勝手に着ぐるみの方へ……。



「祥子ちゃん、この子ちょろいねえ!」


「柳さん、ちょっと黙っていて下さい」


 なんか悪口を言われた気がする。

 しかし良い出来だなーと思いながらじっと見つめていると、愛くるしいポーズを次々とってくれる。

 一言もしゃべらずサービスに徹するなんて中の人はプロなのかな? いや、中の人なんかいない。

 あ、タリックマがこけた。

 この萌えキャラめー。



「さわってみるですよ? ふかふかですよ?」


「え……いいの?」


 と言いつつ既に近づいているのだけど。

 どうしよっかないきなり抱きついていいのかな最初は握手からかなどっちからにしよっかな……。



「おっとそこまでだよ!」


 とおせんぼされた!



「この着ぐるみどもの命が惜しければ……」


 なんだと。そんな事は許さない!



「間違ったよ! 着ぐるみをモフりたければ、わかってるよね?」


「ごめんなさいですよお姉様。ところで、これなんか似合うと思うのですよ」


「お願いします、人助けと思って……ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ! 2本目のケチャップがあって良かった」


 良くない。

 くー、卑怯な……。

 あ、タリックマが寝転がりはじめた。ジッパー丸見えですよ。うー、なにが3着だけでも良いだ。部長さんが着ればいいじゃないか。

 お、わんぱいやがお座りしてる。口の中の2本のキバがかわいい、八重歯にしか見えないけど。女の子の部員が欲しいからキワドイ衣装はない? うーんうーん……。




 ーーーーーーーーーーーー




「……なんで試着室の中まで入ってくるの」


「「えっ!?」」


「……出てって下さい」


 まったく油断も隙もあったもんじゃない。

 我慢、我慢だ。これも着ぐるみの為だ。

 あ、今の内にどっちから抱きつくか決めておこっかな。

 おっと着替え着替え、と。えーっと、下着は付けたままでいいんだよなと。

 スカート脱いでーブラウス脱いでー……。



「はい、祭ちゃんにはスカート。ブラウスはボクがもらうね!」


「ありがとうですよ!」


「返せ!!」


 まさか下から手を入れて服を盗みにくるなんて。……どうしよう、我慢できないかもしれない。




 ーーーーーーーーーーーー




 部長さんのリクエストは巫女服だった。

 髪型もそのままで良いとの事。



「次のキャラは巫女さんにしようかと思います。あっ、ゲホッ! ゲホッ!」


 心の底から自分で着ればいいじゃないかと思う。

 あとこの人は何本ケチャップを無駄にしているんだ、テレビ番組だったら速攻で抗議が入ると思う。


 単純そうに見えて結構面倒くさいな、これ。

 えっと、まず長襦袢を羽織って……腰紐を結んで……更に白衣を羽織ると……。

 う、おっぱいが苦しい。和服は胸が小さい方が見栄えが良いって言うしな。

 何故かマツリちゃんという単語が頭に浮かんだ。



「なんだかもやもやっとするですよ」


 気のせいですよ。

 こっから帯を巻いて……袴をはいて……袴ちょっと格好いいな! んで、また帯っぽい物を付けてと……。

 ちなみに簡単に着替えているように見えるかもしれないけど、実は本を見ながら悪戦苦闘している。

 たまに覗きが来るから気が抜けない。



「はらったま、きよったま~」


「おー」


「巫女さんのキャラだと語尾は、なになにじゃ、が良いのかしら。あっ、ゲホッ! ゲホッ!」


「はいはい撮影するですよ、巫女さんに手をふれないでですよ」


 タリックマとわんぱいやが拍手っぽく手を動かしてくれた。あっちを撮影してくれないかな……。




 ーーーーーーーーーーーー




 副部長さんのリクエストはサッカーのユニフォームだった。

 ワールドカップ便乗商法との事。

 着替えるのが楽でいいけど、これで女生徒が来るのかな。



「澤選手をサワりたい! なんちゃってなんちゃって」


 むむ、この先輩はオレのライバルかもしれない。

 なにかサッカーネタで一つ……。



「お姉様、早く着替えるですよ」


 怒られました。

 えっと、白いハーフパンツを穿いて……青いユニフォームを着てと……日の丸の入ったソックスにサッカーシューズと。

 小学校の時を思い出すなー。

 スポーツの格好だし髪の毛はポニーにするか。

 はい、終了。撮影はリフティングをしながらだそうな。昔取った杵柄!



「よっ、ほっ、はっと……」


「この前のドイツ戦は惜しかったよね!」


「お姉様、上手なのですよ」


「スポーツ少女のキャラは私には難しいです」


 えーっとダジャレダジャレ。

 ドイツに負けたのはどいつのせいだ。

 ……ごめんなさいごめんなさい、対抗心が空回りしました。

 あ、ボール落とした……。




 ーーーーーーーーーーーー




 マツリちゃんのリクエストは眠目ルコちゃんのステージ衣装。

 有名なバーチャルアイドル、別名眠るソフトウェア。元祖は初夢ミトちゃん。

 歌ってる最中にたまに居眠りをしてしまうらしい。



「ルコちゃんはかわいくてセクシーでお姉様そっくりなのですよ!」


 黒地に金の縁取りがされた大人っぽい服だ。なんかチャイナドレスっぽいスーツ。

 でも結構きわどいぞこれ。布の面積は多いんだけど深いスリットが入ってて太腿丸出しだし、デザイン的におへそや肩が丸出しなのだけど。

 衣装を片手に悩んでいたら無理矢理更衣室に押し込まれた。

 仕方ない、これで最後だし諦めて着よう……。


 服自体は単純だけど装飾品が多いなー。ヘッドフォンみたいなカチューシャかぶって……腕飾りを巻いて……ブーツなんて初めてかも、紐が多い。

 これすごくコスプレっぽいな。髪型はリボンを外してと……後ろ髪を一束とって左肩から胸に流す、と。

 あ、歌いながら登場するべきかな?



「せか~いで、いちばん、独裁者~♪」


 ワールドイズマインカンプというちょっと危険なタイトルの曲を歌ってみたり。

 今気付いたけど、女になったから女性ボーカル曲が歌えるな。

 でも男の時でも声変わりしてなかったしな……。

 深く考えないでおこう。



「お姉様、ダブルライオットも歌って下さいですよ!」


「いいなあ! いいなあ! 髪の毛ピンクに染めようよ!」


「その3、わたしの一言には、サーとハイルで返事する事~♪ ゲホッ!」


 冷静に考えるとかなり危険な歌だな、これ。

 ところでペンキを持って近づいてこないで下さい、せめてヘアカラーでお願いします。




 ーーーーーーーーーーーー




「ありがとね! おかげで良い物見せてもらったよ!」


「ありがとうございます、これできっと部は救われます……ゲホッ!ゲホッ!」


「さあ、存分にモフモフしてくださいですよ!」


 わーい。



「本当はマツリが中に入ってお姉様と抱き合いたかったのですよ、でも約束なので撮影で我慢するのですよ……」


「ねえねえ、ボクにも抱きついてみない?」


 そういえばモフる気マンマンになってたけど、中の人がいるんだよな……嫌がられないかな?



「えっと、抱きついてもいいですか?」


 中の人に話しかけるのはマナー違反だけど、ちゃんと許可をとらないと。

 少しだけ間をおいて、タリックマもわんぱいやもコクコクと頷いてくれた。

 断られてたら泣いてたな、うん。



「安心するですよお姉様」


「うん、よかったー」


 さあ、モフるぞ!



「中の人達はショタコンと二次コンなので、お姉様の身は安全なのですよ!」


 えーっと……。

 なんとなくだけど、普通の女の子が周りにいない気がする。

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