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ガールズトークなんてありえない

主人公は基本的に人の言う事を素直に信じます。

「村野、立ってなさい」


「はいですよ」


 なんかもう立たされる事に慣れてきているマツリちゃん。



「あと美里から席を離しなさい」


「それはお断りするですよ」


 ……すごいなマツリちゃん、普通に反抗したぞ。



「……村野、廊下で立ってなさい」


「ごめんなさいですよ」


 名残惜しそうにズルズルと机ごと離れていった。

 この光景がだんだん当たり前のようになってきているのが怖い、皆何事も無いように授業を受けてるし。

 しかし、マツリちゃんは普段そんなにベタベタしてこないのに、何で授業中は寄って来ようとするのかな? 不思議だ。



「古典の先生は厳しいのですよ」


「授業中は私語を控えようね、マツリちゃん」


「お姉様の近くに行くと、つい興奮しちゃうのですよ」


 彼女の為にもオレの為にも少し距離を置くべきだろうか? 興奮ってなんだ。

 白い目で見つつ、ちょっとだけイスをずらすと、マツリちゃんがあわあわと慌てだした。



「冗談なのですよ! 最近のお姉様は雰囲気も柔らかくなって、ついつい話しかけちゃうのですよ」


「むむ……そう……かな?」


 言われてみればそうかもしれない。少々構われすぎな感もあるけど、皆良くしてくれるし、なんだかんだでオレもペラペラしゃべってたりするし。少なくとも中学の時よりは全然楽しいかも。



「そうですよ! つーんとしたお姉様も良かったけど、優しく微笑んでいるお姉様は更に15倍増しで可愛いのですよ!」


 マツリちゃんが興奮しはじめた。この子は興奮すると腕をぶんぶん振り回すので、若干危険だなあ。



「確かに最近の美里さんは柔らかいわね!」


 林田さんが現れた。何故かイス持参で。



「こうやって少しずつ壁を取り払って、仲良くなって、友達になって、恋人になるのよ。若さよね? 青春よね? 愛よね?」


 後半が明らかにおかしい。

 隣はマツリちゃんが居るので、前の席を強引に押しのけ、正面に座った。狭そうで気の毒だな、前の人。



「と言う訳で、ガールズトークなんてどうかしら?」


 ガールズトーク!

 噂には聞いた事があるぞ。

 女の子同士で、主に恋愛の話とか、好みのタイプの事を話すって言うアレだな!

 正式にはパジャマを着て、皆でゴロゴロしながらするのが作法らしい。

 むつかしそうだ……未だに女子力二桁のオレで付いていけるかな?



「じゃあ美里さん、どんな女の子が好みなの?」


「……え? 女の子?」


 あれ? オレの得ている情報と違うんだけど。



「何を不思議そうな顔しているの? 女の子同士で好きな女の子の話をするからガールズトークなのよ?」


「そう……なの?」


 マツリちゃんを見ると、コクコクと頷いている。

 ガールズトークってそういう意味だったのか、ネットの知識って当てにならないんだな……。



「で、どんな女の子が好み?」


「んー、好み……」


 なんて答えればいいんだろうか? うーんうーん……。



「あ、げーのーじんさんだと誰が好きですよ?」


「そうね、まずは有名人とか芸能人からで」


 うーんうーん、最近見て面白かった芸能人は……。



「……マリコデラックス?」


「それ男ですよ」


「若くて可愛い子限定でお願いするわ。……それともああいうのが可愛く見えるの?」


 ごめんなさい、何故か脳内で面白かった人に変換されてしまいました。

 うーんうーん、可愛い芸能人可愛い芸能人。



「鈴村奈々ちゃん!」


「モデルの鈴村奈々? 最近よくバラエティに出ている?」


「髪型がちょっとマツリに似ているのですよ、奈々ちゃん」


 ショートの髪を手櫛で少し乱すような感じ。正確にはショートレイヤースタイルだったかな? 奈々ちゃんの髪型。

 色も赤っぽい茶色だし、確かに少し似てるかも? でもマツリちゃんの方がふわふわしててボリュームあるな。




「どんなところが気に入ったの?」


「えーっと、クイズ番組に出てて、こういう問題があって……」


 ノートの端っこに書き書き。

『第三問、「板垣〇助」の〇部分に正しい漢字を入れなさい。』



「奈々ちゃんは『板垣タコ助』って書いてたの。超可愛い」


「……バカが好きなの?」


「はいはい! マツリもおバカなのですよ! 自信あるのですよ!」


 バカだなんて失敬な。あとマツリちゃん、そんな自信は持っちゃいけません。



「どうしよう……私バカじゃないわ。でも美里さんには好かれたいわ。村野さんはバカでいいわね?」


「ふふふん、おバカで良かったのですよ」


 いや良くないから。



「……彼女のそれはキャラ作りだと思いますよ、可愛いですけど」


「うん、土方歳三は答えられなかったのに海援隊は漢字で答えてたし」


 それも凄い達筆で。って田中が混ざってきた。机の周りの人口密度が無駄に高くなったなー。



「あんた何ガールズトークに混ざってきているのよ?」


「男の子はあっちに行くですよ」


 林田さんはジト目で睨んでいる。マツリちゃんは消しゴムをちぎり始めた。



「……この前の調理実習」


 ビクッ!

 ビクッ!

 あー、カッキー失神事件の。アレは酷かったな、トドメを刺したのはオレだけど。



「……あの後、河北先生に呼び出されてですね、何故か内申書がどうのこうのと言われたのですが」


 二人が目を逸らし始めた。……オレも目を逸らした。



「本当にお前一人で作ったんか? と聞かれて、その時は『はい』と答えたのですが」


「田中くんが混ざっても良いと思いマス」


「田中も好きな女の子の話する? したいわよね? してもいいわよ?」


「このリボンあげるですよ、これで女の子の仲間入りなのですよ」


 田中の頭にリボンが乗せられた。



「……お揃いですね」


 本当だ。結べる長さでもないのに無理矢理後ろ髪に括り付け始めた。似合ってないなー。



「じゃあ今度は、身近な人で好みの女の子を! 私は美里さん。断然美里さん。当然美里さん。あくまで美里さん――」


「……ボクも美里さんが好みですね」


「マツリもお姉様が好きですよ! 愛してるですよ!」


 なにこれ。嫌われてるよりは良いんだろうけど。

 で、3人とも期待に目をキラキラさせてこっちを見ている。えーっと……。



「マツリちゃんかな?」


 ちっちゃくてふわふわしてて子犬みたいで可愛いので。

 林田さんと田中が、がっくりと肩を落とした。

 どうでもいいけど田中は男だから今回の選択肢には入らないだろ。それとも本当は女の子なのか。



「うひひ」


 マツリちゃんが変な声をあげた。



「うひひひひひひひひひひひひ」


 口元に手を当て体を右に左にと揺するマツリちゃん。とても可愛らしい仕草なんだけど、とても変な笑い方だ。……正直怖い。



「はー……美里さんはロリコンなの? 残念だわ。ショックだわ。失恋だわ……」


「……思うに小動物的な可愛らしさで村野さんを選択したのでは? 子犬とかぬいぐるみ的な物で」


 誰がロリコンかと。あと田中がなかなか鋭くてビックリ。



「うひひひひひひひひひひひひひひひ」


「そう? そうに決まってるわね? そうに間違いないわね? あーもう村野さん五月蝿いわよ!」


「うひひひひひ……えへ」


 やっと変な笑いが納まった、体はまだゆらゆら揺すっているけど。それと妙に熱っぽい視線でこっちを見るのは止めて欲しい、なんか寒気がするぞ……。



「ふー……話題を変えましょうか、何かない?」


「……部活の話とかどうでしょう?」


 眼鏡をキラーンと光らせる田中。リボンがお間抜けですよ?



「……帰宅部だったのですが、最近空手部に入りました」


 うらぎりものめー。帰宅部万歳、オレは帰宅部を絶対辞めないぞ。



「意外ね、どうみても文化系なのに」


「……体を鍛える必要性を強く感じたので」


 この前三日くらい休んでいたな。体弱いのかな? 

 あと、お弁当作ってあげるつもりだったのを忘れていた。健康に良さそうな食材をチョイスするかなー。



「はいはい! マツリは手芸部なのですよ!」


 知ってた。なかなか熱心に活動していて、お昼休みもいない時が多いしなー。放課後も頑張ってるらしい。



「今度コスプレ部に改名するのですよ。お姉様には是非モデルとして参加して欲しいのですよ!」


 この学校の部活はフリーダムすぎると思う。なにそのコスプレ部って。



「今入ってる部活が忙しいので……」


「気が向いた時に少しだけでもいいのですよ? 部員じゃなくてモデルさんですよ?」


 気が向いたらね、とごまかす。マツリちゃん可愛いんだし、自分でモデルもやればいいじゃないか。



「……美里さんが部活に入っているなんて初耳ですね、何部なんですか?」


 田中が余計な事を。



 えーっと……。

 その……。

 なんて言えば良いやら……。



「……まっすぐおうちに帰る部」


 正式名称は帰宅部です。

 3人とも優しい目で見てくるのが辛いです。

 別にいいじゃないかよう……。 



「茶道に興味はないかしら? 私、茶道部なのよ」


「……サド部ですか? お似合いですね……」


「サド部ですよ?」


 え、そんな部活あるの? ムチ的な物を振り回すのが主な活動なのだろうか?



「茶道部よ! さ・ど・う! あんたら死にたいの!?」


「やっぱりサド部ですよ」


「……林田さんはともかく、美里さんをそんな道に引き込む訳には……」


 林田さんがそろそろマジ切れしそうで怖い。具体的には内ポケに手を入れている。

 ムチ的な何かが出てくる前にフォローしておこう。



「えっと、女王様とか興味ないです。ごめんなさい」


「美里さんまで!?」


「冗談です」


「……………………」


 フォローの方向性を間違った模様。

 落ち込ませてしまった、どうしよう?

 うーんうーん……。

 困った時は頭を撫でると良いっておばあちゃんが言ってた気がする。



 なでり。


「………………」


 なでり。


「…………」


 なでり。


「……美里さん、私と結婚しない?」


 立ち直った模様。あと結婚はしません。



「でも女王様ファッションのお姉様は見てみたいですよ」


 この子はオレに何を求めているのかな……。



「……女王様な美里さん、ですか」


 なんだろう? 田中の顔がなんだかいやらしい。



「だからサド部じゃなくて茶道! お茶の! 道の! 部活よ!」


 着物とか着て活動するのかな? 着付けとやらは大変だと聞くけど。



「ところでもうすぐ次の授業ですよ?」


 本当だ、短い10分休みとは言え、あっという間に過ぎちゃったな。

 充実したガールズトークだったのかな? でも女子力が上がった感じがしない。むむ……。



「疲れたわ。田中、私のイスを席まで運んでもいいのよ? 運びたいでしょ? 運ぶのよね?」


「……やっぱりサド部ではないのですか? 女王様はぶぅっ!?」


 田中がムチ打たれた。



「今の内に机を寄せるですよ」


 マツリちゃんは懲りないなあ。



「立って授業を受けると健康に良い気がするのですよ」


 立たされないように真面目に授業は受けようね。




 ーーーーーーーーーーーー




 次の休み時間。

 お手洗いに行こうと廊下をテクテク歩いていると、前方にミイラ男が。

 マミーって弱い割に経験値良いんだよなーとか思いつつ進んでいき、すれ違うくらいの距離で目が合った。


 ズザッ!

 凄い勢いで離れるミイラ男。

 え、なにこれなんか悪い事したかな?


 ミイラ男は、ダダダーっと3メートルくらい距離を取ると、こっちに向かって手をブンブンふってくる。

 むむ、謎だ。一応手は振り返しておいたけど。


 トイレに入る時、背中越しに会話? が聞こえた。



「お前ある意味すごいよな、でもオレを巻き込むのだけは止めてくれ」


「ふぁふぁっふぇるよ! ふぉれよりみふぁ? ふぇをふりひゃえひてふりぇひゃぜ!?」


「いいから行くぞ、あの女が来そうで怖い」



 そういえば今朝はモブA見なかったなー。

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