ヤキソバパンなんてありえない
なにも考えずに書いた方が良い気がする今日この頃。
誤字脱字チェックは投稿したあとにしようヽ(。Д゜)ノ
モブAが邪魔。
ほぼオレ専用となっていた屋上だが、最近はそれなりに人を見かけるようになっていた。
4月下旬にもなると、ぽかぽかというより少し暑いくらい。ベンチに腰掛け、ブレザーを脱いで膝に置き、お弁当を食べていたのだけど……。
「DOMとJEYだと、DOMの方が新曲配信早いよね、映像も凝ってるし――」
なぜかモブAが通常の行動範囲を超え、オレの隣にずうずうしく座っている訳で。
「でもJEYはあの機能がいいのよ、ハモリ機能。対応曲は半分だけど、一緒に歌ってくれるからうろ覚えの曲でも――」
ベンチが埋まっていて、床にハンカチを敷いて座っている人がいる時でも、何故かオレの座っているベンチには人が寄ってこなくて、ちょっと切ない気持ちになったりもしてたのだけど。
「だけどさ、二駅先まで行くと、なんと一部屋に両方置いてある店があるのよ! さすが市の中心だよね」
隣に来たのがコレなので、かなりウザい。モブAに許されたセリフは、おはようの挨拶だけだったはずなのに。
「で、今度一緒にカラオケ行かない?」
「……ヒトカラなら行ってもいい」
今や専門店まであると言う。一人カラオケ、略してヒトカラ。お値段は600円からデス。
「…………………」
もぐもぐ。
「あ、そのカラアゲおいしそう! 自分で作ったの?」
「……冷凍」
なんだその顔は。おいしいんだぞ、ニツレイの冷食シリーズ。
ぱくぱく。
「オレ売店ばっかりだからさ、ヤキソバパンと一個交換しない?」
随分レートが違う気がするなー、こっちが大分お得な感じ。でも断る、炭水化物過多になるし。
キュッと体を捻って弁当箱を隠す。あげない!
勢い良く向きを変えたら、カラアゲがお箸から落ちた。
「カラアゲが……」
「ご、ごめん!?」
いやモブAのせいじゃないけど。うう、もったいない……。
「やってしまったようね」
いつの間にか目の前で林田さんが仁王立ちしていた。
「契約を破って、ずうずうしくも美里さんにカラアゲをねだり、しかもそれを落とす」
「え? あの!? その……!」
「これは副委員長四天王を呼び出すしかないわね?」
なんですか、その四天王とやらは。
と思っていたら、ギャラリーがざわめき始めた。
「副委員長四天王!」
「駅前を浄化と称して、チンピラやらヤンキーやらチャラ男やらを片っ端から病院送りにしたという……」
「青龍、白虎、朱雀、玄武の4人……それぞれが特殊能力を持っているそうよ?」
「公園の掃除をしたり、日曜日にはボランティアもしているらしいぜ」
「信号を渡るおばあさんの手を引いたりもしてたらしい」
丁寧な説明ありがとうございます、結構良い人達っぽいな。
「ヤキソバパンで許して下さい! お願いします!」
モブAが土下座を始めた。1個はオレに、もう1個は林田さんに向けて差し出している。モブA、ヤキソバパンいくつ買っているんだろうか。
「……命拾いしたようね」
林田さんがヤキソバパンを受け取り、オレにも渡してきた。いらないんだけどな……。
「ではオレはこれで失礼します! さーせんっしたっ!!」
体育会系の挨拶をして逃げるように去ろうとするモブA。その首根っこを林田さんがとっ捕まえた。
「待ちなさい」
「なんでしょうかー!」
「カラアゲと交換でしょ?」
眼鏡をクイッと持ち上げつつ、地面に落ちたカラアゲを指差す。鬼ですか……。
「ちょっとそれは酷いんじゃないかと……」
いくらNPCとはいえ、ここまでするのは……。というかイジメじゃないかな、これ。
「衣を剥がして中だけ食べれば良いのよ。でしょ? 美里さんのカラアゲですものね? そうするわよね?」
ええー……確かにそうすれば汚くはないけど。うーん……。
「あ、ありがとうございます! ごちそうさまです!」
涙目になりながら衣を剥がすモブA。ちょっと可哀そうすぎる。でもなんかうれしそう。
「んー……」
仕方ない、落ちてないカラアゲを1個あげよう。いくらなんでも酷すぎる。
「ごちそうさまでしたぁ!」と頭を下げて走り去ろうとするモブAを呼び止める。
「ちょっと口あけて」
「はい?」
「あーんってして」
「あーん?」
お箸を持ち替えて、お尻の方でカラアゲを1個つまんでと。それっ、ポイッと。
「ちょっと美里さん!?」
なんか林田さんが愕然とした顔をしている。大丈夫だよ、ちゃんとお箸は持ち替えたし口の中にも触れてないから。
モブAはぷるぷる震えている。そんなにカラアゲが美味しかったのだろうか? ヤキソバパンばかりじゃ飽きるしなー。
「ひゃあああああっほおおおおおおおおおうううううううっっっ!!!!!」
うわ、五月蝿い。モブAが屋上を走り回り始めた。
林田さんは人でも殺せそうな目で、その様子を見ている。
「あ、山下! オレは勝った、勝ったぞ!!」
「うわ、脂まみれの手で触るな」
モブAの友達が湧いた。便宜上、モブBにでもしておこう。って名前出てるな。気にしない。
「ドS眼鏡女のイジメに耐え抜いたら、天国が待ってたんだよ!」
「誰がドSですってぇ!?」
林田さんの事じゃないかな。
「うわっ、逃げるぞ山下! カラアゲありがとう、おいしかったよ!!」
「巻き込むなよ! 関係ないだろ!?」
「待ちなさいクズども!」
騒々しいなあ。
それにしても、このヤキソバパンどうしようかな。
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「ヤキソバパンとPNPを交換して下さい」
「おまえ案外しつこいな!」
カッキーの所に来てみたり。さすがにヤキソバパンでPNPは無理か、わらしべ長者的な何かを狙ったのだけど。
「JKのヤキソバパンいいなあ、お茶どぞ」
「ありがとうございマス」
「PNPと交換じゃ割に合わんわ」
白衣がお茶をくれた。ずずず……。
「買うてもらえへんのか?」
「それがですね……」
おねだりはしてみたのだ。
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「アキラちゃん、僕はSAGA派なんです。いや、信者と言ってもいい……」
「だからPNPは自分で買って下さい。あ、でも僕の目には触れさせないようにお願いします」
えっと、どういう事なんだろう? なんか怖い。
「サガサターンは名機でした……ドリームキャスターには夢がありました……音速ハリネズミはヒーローだったのです」
なにやら遠い目をしてぶつぶつと呟いている。
「だけどSAGAは負けました! ソミーの宣伝戦略とサードパーティの囲い込みによって! だがボクは信じています! いつかSAGAが、その技術力を結集してコンシューマーに戻ってきてくれると!!」
父さん怖い。本気で怖い。なんかよくわからない事を延々と叫んでいる。
とにかく買ってもらえない事はわかった。仕方ない、お小遣いを貯めよう……。
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「……という事がありまして」
「お父さんSAGA信者かいな、友達になれそうやな……」
なにそのSAGA信者って。
「FSOは神ゲーやった……でもFSO2でこけてもうた……PC版の毎晩メンテにも負けなかった自分やけど、アイテムデュープ野放しには心折れたで……」
やだカッキーも怖い。
「センパイ正気に戻って、JKが怯えてるでしょ」
白衣がハリセンでカッキーの頭をスパーンとはたいた。
「は!? すまんすまん、つい昔を思い出してな」
「怖かったです」
「お詫びにちょっと遊んでもええで、邪神ハンターP。メモリはコピーできるから新キャラ作って」
わーい。
「金髪ボサ頭が好きなん? どっかで見た事あるなあ」
獣人系のキャラがあれば、それにしたのに。まんま犬か猫でも可。このお助けキャラのニャイヌーでプレイできないかな……。
「武器は大剣がええで、漢なら大剣や」
「JKですよセンパイ」
大剣ですか、わかりました! ってどっかで聞いた事のあるフレーズだな。
「双剣のほうが使い勝手いいし、見た目も二刀流で格好良いからそっちを勧めたらどうです?」
「二刀流なんてワイは認めんぞばかたれぇ!!」
うわ、びっくりした。
「あれか? お前も忍者なんか? 手数で敵を圧倒して、おまけに避けまくるというバグジョブなんか? きたないで、流石忍者きたない!」
このセリフは師匠に「ついでだから忍者の職業クエストもやりたいです」って言った時に返ってきた言葉まんまなのだけど。
いやまさかなー。
じー。
「すまん、つい……ちょっと別のゲームで色々あってなあ」
「勘弁して下さいよセンパイ。あ、お茶菓子取ってきますね」
「それよりじいさん見てくれ、2時間くらい動いてへん」
あ、一応気にはしてるんだ……。
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「そこの雑魚インスマウス地帯を抜ければ、このマップのボスやで。回復忘れんようにな」
はい、師匠!
「初期マップのボスやから、ただのでかいインスマウスなんやけどな。△ボタンと〇ボタンの同時押し斬りだけで勝てるで」
なるほど、わかりました!
「細かいテクは追々覚えればええ、まずは大剣の格好良さを理解せんとな。美学ってヤツや」
美学ですか、流石です師匠!
って、あれ?
「美里は教え甲斐があるなあ、見所あるで」
うーん、なんか既視感が……。
「センパイ、次は特別教室でしょ? 早めに向かった方がいいですよ」
「そうやった。すまんな美里、今日はここまででええか?」
「あ、はい。ありがとうございました」
なんかもやもやする。まさか師匠なのかな……。
ま、いっか。教室に戻ろう。
「ところで! JKとゲームなんていいなあ! JKと一緒に遊ぶなんて! センパイクビになるべきじゃないですかね?」
「お前も遊べばええやろ、ついでに美里にPNP買うてやってくれ」
「……援助交際ってヤツですかね?」
「結構デス」
白衣がクビになるべきじゃないかな。
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「……放課後、四天王を全員集めなさい、あとゾンビにも連絡を」
教室に戻ったら林田さんの不穏な発言が聞こえた。
「ターゲットはB組のバカよ。ゾンビは仕事中のはず? この話をすれば飛んでくるわよ、いいわね!」
なんだろう? モブAの命が危ない気がするんだけど。
ま、いっか。




