スマホなんてありえない
活動報告に書いた物を軽く加筆修正。
なんか流れて消える事もあると聞いたので……。
短めです。
携帯もらった。
正直必要ないんだけどな。
「僕と桜花さんの番号は既に登録してありますから」
ふんふん、チェックチェックと。
アドレス帳
『美しいお母様』
『大好きなお父さん』
うん、予想通りだな、名前変更と。カコカコカコ……
「どうしました? しぶい顔をして」
「だから言ったじゃない、今時のJKな子にはデコ電だって。私二十歳だから詳しいのよ」
なんだろう、母さんが凄く痛い。あとJK言うな。よし、変更完了っと。父母でOK。着信が表示されるからな。万が一『大好きな父さん』なんて人に見られたら目もあてられない。
「携帯ありがと。じゃ、出かけてくるね」
「どこへ行くのですか?」
「E-on、ちょっと見たい物があるから。4時までには戻る」
前も言ったかもしれないけど、E-onはショッピングモールね。その中のペットショップが今日の目的なのだ。
「僕が送りましょうか? ついでに一緒に買い物しましょう」
「いらない。一人がいい。ついてこないで」
「買い物良いわね。ありがとう楓さん、ちょうど四越で買い物したかったのよ」
「いらない……いらない……アキラちゃんが僕をいらないと…………」
虚ろに囚われた父さんを、母さんが引きずっていった。
この後お財布も囚われるんだろうな、合掌。
さて急がないと。
モール内のペットショップが今日の目的なのだ。
2時から3時までの1時間、店員のお姉さん付き添いの元だけど、自由に子犬や子猫を触っても良いという、素晴らしいイベントがあるのだ。しかもタダで!
キャットカフェや、最近ではドッグカフェというのもあるんだけど、この近くにはないし。
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最初の3通までは返信していた。
が、一分おきに届き、内容も意味不明になってきたメールに返信するのは、はっきり言ってめんどい。
最新のメールはこれだ。
『もしもし? 私、パパさん。今四越にいるの』
これに何と答えれば良いのか、と。
カコカコカコと、バスの席で携帯をいじる姿は、まるで今時のJKのようだ。別の理由で注目もされてるし……。
『は~い、アキラちゃんの大好きなパパからメールですよ♪』
まただ。
メールが来るたびに、これが再生される。
うう……。絶対に許さない、絶対にだ。
やっとのことで、迷惑メール設定完了。着信ボイスの解除は家に帰ってからにしよう。
その前に父さんには言ってやろう。
「父さんとオレの下着、一緒に洗わないで」
結構なダメージを与える自信がある。
「パパとワタシの下着、一緒にしないで!」
の方がいいかな?
これを言われると、世の中のお父さんは致命的なダメージをくらうそうな。
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目的のペットショップに到着。
う、結構並んでるな……。さすが子猫と子犬だな。大半が親子連れだが気にしない。
そそくさと列に並ぶ。ちょこっと背伸びをして、奥のふれあいコーナーを覗く。
アイリッシュにコーギー、アメショーにヒマラヤン、トイプードルに柴……。
やばいな、ここ天国じゃないか? お金を払わなくて本当にいいのかな?
思わず財布を開いてしまった。帰りに犬用のガムでも買ってお礼の気持ちとしておこう。
まだかなまだかなー。待つ事、約20分。
ついに順番まわってきた!
お姉さんがチワワを抱っこして、こっちに手渡そうとしてくれる。
「やさしく、お尻を支えるように持って抱きかかえて下さいね~」
緊張のあまり、こちらもチワワのようにプルプル振るえながら腕を伸ばす。
やさしく……やさしく…………。
『アキラちゃん! お父さんですよ! アキラちゃんの大好きな! お父さんですよ!』
電話の着信音も、お父さんボイスだった。
結構な大音量で、ひたすらループしている。
チワワがびっくり。涙目になってる。
オレもびっくり。涙目になった。
周りもびっくり。すごい注目してる。
お姉さんにペコリと頭を下げ、そのまま振り返って、泣きながら走って店を出た。
俗に言う泣きダッシュを、自分がやる破目になるとは思わなかった……。
外に出た。携帯はしつこく鳴っている。お父さんですよ! お父さんですよ! お父さんですよ!
通話ボタンを押す。
息を大きく吸ってー。
「お父さん大っキライ!!!」
携帯の電源を切るという選択肢を思い出したのは、帰りのバスの中だった。
泣きたい……。