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村人その1なんてありえない

パンツ回です。

「や、おはよっ」


 気さくで明るい挨拶だね、たぶん爽やかな笑顔も浮かべているだろう。見てないからわからないけど。

 礼には礼を、挨拶には挨拶をと教育されているので、仕方なく返す。



「おはよう……」


「今日は朝練はやく終わったからさ、一年だけが後片付けっておかしくね? それとさ、昨日の世界丸見え大発見みた?」



 スルー。明後日の方向を見ながら教室へ急ぐオレに、特に気にした様子もなく、ひたすら話しかけてくる。

 こいつは例の『友達からでいいから!』のヤツだ。

 その後も教室にやってきては袋叩きにされたり、廊下で待ち伏せをしてたりと色々あり、最終的に以下のような関係になっている。


 彼女→友達→顔見知り→朝の挨拶だけはしても良い存在


 最初のうちは「おはよう!」だけしか発言しない、まるでRPGの村人その1かモブAとでも言うべき存在だったのだが、最近は一方的にごちゃごちゃと話しかけてくる。

 おかげで、こいつが1-B所属だの、バスケ部に入ってるだの、学力試験で9番だっただのと、いらない知識が増えた。名前は覚えてないけど。モブAでいいや。



「でさ、中国のパンダ牧場がすごかったのよ。なにがすごいって飼育係のおばちゃんがリーダーパンダの毛を……」


「あんた邪魔よ」


 ドカッっと音を立ててオレとモブAの間に割り込んでくる。正確にはモブAにショルダータックルをかまして。林田さんか。

 林田さんは副委員長見習いで、みつあみおさげメガネと非常に真面目そう。オレよりよっぽど副委員長にふさわしい外見をしている。

 が、性格は非常に強気で男らしい娘である。リーダーパンダの話は聞きたかったんだけどな……。



「F組の半径3クラス以内に入るなっていったでしょ? 殺すわよ? 私と、副委員長代理と、副委員長補佐と、影の副委員長が」


 なんか増えてるな。影の副委員長ってなんだ。あ、モブAが超怯えてる。友達らしき生徒が助け起こしてる。モブA友達いるのか爆発しろ。

 さ、いきましょとオレの腕をとる林田さん。ちなみにフルネームは林田由香里と言う。意外と林田さん胸があるなー、掴まれた腕にふにふにとした感触が。



「お前いい加減にあの子は諦めろよ、F組の連中もおっかないし」


「ばっか、これでも少しづつ距離は縮まってんだよ! オレは絶対に諦めないぜ!」


「……具体的にどう縮まったんだよ」


「明るく挨拶すると、イヤそうに挨拶してくれるんだぜ!」


「お前諦めろよ」



 よし、明日からは無言だな。



 教室に入ると、日課になりつつある、マツリちゃんの机の移動。今日はひどいな、ピッタリくっついてるぞ。ずるずるずると、元の位置に戻す。

 戻ってきたマツリちゃんが涙目になってるが、我慢してもらおう。先生に絶対怒られるし。



 朝のホームルーム。起立礼着席の掛け声は副委員長補佐が。司会進行は田中&副委員長代理が。オレの存在意義があまり見当たらない。



「……放課後の委員会には、副委員長mk2に出てもらいます。では起立!」


 つっこんだら負けな気がするが、言わせてもらおう。

 副委員長シリーズ何人いるんだよ!




 ーーーーーーーーーーーー




 今日も屋上で孤独を堪能しつつお弁当を食べ、その後すぐ教室に戻った。

 決して寂しかった訳じゃなく、ひまつぶしのラノベを持ってき忘れたからだ。

 珍しくマツリちゃんがいるな、なんか編み物に夢中になってるけど。普段はお昼休みでも部室でなにやらやってるらしい。今度、何の部活に入っているのか聞いてみようかな。



 教室の喧騒をBGMにパラパラとページをめくっていると、いきなり声をかけられた。



「ふーん、アンタが美里? ふーん?」


 じろじろと遠慮なく、品定めでもするように覗いてくる。誰だろう? 別のクラスの人かな?

 ギャル、まではいかないが少し派手な印象の子だ。少し茶色い長い髪に、色とりどりのシュシュ? マスカラ? つけまつげ? なんか唇もピンクだし、スカートも超短いぞ。



「大騒ぎするほどでもないじゃん、もうちょっとじっくり見ないとだけど……」


 ぐいっと顔を近づけてくる。近い近い、ちょっとドキドキするな。なんかすっごい観察されてる。なんなんだこの子は。



「ふん、まあ整ってはいるわね。でも吊り目でキツネみたいね!」


 そういうアナタはメイク? のせいでタヌキみたいな目になってますよ、かわいいけど。



「でも全然化粧っ気がないじゃない、きっとお手入れとか興味ないのね。探せば枝毛とかあるに違いないわ!」


「あの……そこ枝毛になってますよ?」


「えっ!? うそやだそんな……」


 あわあわと髪の毛チェックするギャル? な子。枝毛ひとつでそこまで騒がないでも。あ、クラスの皆が、何事かとこっちを見てる。



「ふ、ふん。顔や髪の毛くらいで調子に乗らない事ね! スタイルよ、スタイルも大事なんだから。アンタちょっと立ちなさい」


 言われるままに立ち上がる。スタイルねえ……。おっぱいの大きさでも競うんだろうか? いや、乳が全てじゃないしな。

 じーっと見てる。あ、なんか凄い不機嫌そうな顔。



「客観的な評価が欲しいわね。ちょっと! そこの小学生! アタシとコイツ、どっちがスタイル良い?」


 マツリちゃんが小学生呼ばわりされた。ふえ? って顔をしてるな。ごめんね変な事に巻き込んじゃって。

 5秒ほどこちらを見つめて一言。



「おねえさ……、アキラちゃんのほうが良いですよ?」


「もっと良くみなさい! 例えば……。そう、身長とか、脚の長さとか!」


「身長は同じくらいですよ? でも腰の位置はアキラちゃんのほうが高いですよ」


「ほら見なさい……、って! アタシの方が脚が短いって事!?」


「そうですよ」


 あー、スカート短いと脚が長く見えるのか。なるほど、だから皆頑張って短いのを穿いているのか。


 オレの女子力が4上がった!


 それはそうとギャル? の人はますます不機嫌に。苦虫を噛みつぶしたような顔ってやつに。



「ふん、小学生の意見なんてアタシの耳には入らないわ! アンタはもういいわ」


「失敬な、ですよ」


 マツリちゃんはプクっと頬を膨らませて編み物に戻った。ごめんね。



「ちょっと脚が長いからって頭に乗らないでよね。だいたい何? その無駄に大きな胸? 下品なのよ! チチウシ!」


 えぅ……。これはちょっと傷つく。気にしてるのに。好きで大きくなったんじゃないのに。

 思わず落ち込んでしまったら、いっきに教室が殺気立った。マツリちゃんは消しゴムをちぎり始めてる。

 落ち込んでないです! なんでもないです!

 ギャルの人は、そんな雰囲気にまったく気付かず、こちらの粗探しでもするかのように、オレの周りをグルグルまわってる。



「あ! その長いスカート! さてはアンタ脚が太いのね? ふふん、見なさいアタシのこの美脚!」


 机の上に脚を乗せるなんて行儀悪いなあ、母さんがいたら確実にゲンコが飛ぶぞ。どうでもいいけど男子の殺気が和らいだ。



「勝った! 勝ったわ! 完全勝利よ!」


 北条家の武将のように勝った、を連呼しているな。うーん、脚太いかな? あまり気にした事なかったからわかんないな。ちょっと比べさせてもらおうかな。


 隣に行ってと。流石に机に脚は乗せられないな。ついっと右脚を前に出してと。スカートを指でつまんでと。



「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」


 五月蝿いな。えっと、オレの方が細いぞ。この人も自慢してるくらいだから細い方なんだろう。結論、オレの脚は細いと。筋トレしてるのになあ……。

 ふと横を見ると、ギャルの人が涙目でプルプル震えている。あ、そうか。オレの方が脚細いから……。



「えっと、ごめんなさい」


 コメカミに怒りマークが見える。俗に言う青筋。なんでだろう? ちゃんと謝ったのにな……。



「バーカ! バーカ! ブース! うわああああああああああん!!」


 目から滝のように涙を流しつつ走り去って行った。ブスって言われたのは初めてだなー、新鮮だ。ちょっとうれしい。自分でも不思議な気分に。

 ところでギャルの人はいったいなんだったのかな?



「お姉様! お姉様! パンツ! パンツですよ!」


 あ、やべ。母さんに怒られる。ところでお姉様は止めて下さい。




 ーーーーーーーーーーーー




 放課後。

 生徒玄関を出て、校門へ向かう途中。

 第二グランドで、サッカー部が練習している姿が目に付いた。

 アイツが好きだったな、サッカー。

 足をとめて、しばし眺める。全体練習が終わって、試合形式をやるみたいだな。



「気合いれてけよ!」「おうっス!!!」


 随分身の入った練習だなー。うあ、あのタックル受けて転ばないのか。すごいなー、ここサッカーの有名校だったりするのかな?

 あ、ゴール。雄叫びを上げている。まるでワールドカップの決勝で点でも入れたかのような喜び方だな。

 ところでなんでこっちを向いてガッツポーズしてるんだろ。一応拍手でもしておくか。



「ちくしょう早くボールまわせコラァ!」「いくぞおらこっちこっちー!」「うおおおおおおおお!!」


 更に熱が入った。かっこいいけど怪我するんじゃないか? 今のスライディングなんかどう見ても足首にいってたし。

 危ないなー、無理しないで欲しいなー、と不安で身を乗り出すように見ていると、ますます激しくなっていく。



「てめ、ボールよこせ!」「オレがゴールを決めるんだよ!」「いいカッコしようとしてんなコラァ!」


 おかしいな、殴り合ってるように見える。頭に血が上ったのかな? 練習でここまで熱くなれるなんて、少しだけうらやましい。

 あ、ボールがこっちに飛んできた。


 ゆるく山なりに来たボールを、まずは胸でトラップ。よし、上手く受けられた。膝で一回はじいて……。それっ!



 ヘタなりに覚えてるものだなー、ちゃんと返せたぞ。あれ? なんで全員こっちをボーっと見てるんだ?

 ぽん、ぽん、ぽんとグランドを転がるボール。なんか変な事しちゃったかな?


 いつまで経ってもサッカー部員が動かないので、ペコリと一礼して足早に帰る。もしかして練習の邪魔しちゃったのかな? 見てただけなんだけど……。



「ありあとあーっしたぁ!」「ありがとう!」「そのボールよこせコラァ!」「パンツ!!!」


 お礼の声が聞こえた。

 良かった、大丈夫だったっぽい。しかし気合の入ったサッカー部だなあ。アイツがいたらきっと入部してただろうな。

 あ、制服がドロで汚れちゃったな。ま、いいか。




 ーーーーーーーーーーーー




 よくなかった。

 家に帰ったら何故か父さんがいて、そして大騒ぎされた。



「そのドロ汚れはどうしたんですか!? ま、まさかイジメ!? それとも口では言えないような事を!? 大丈夫ですかちくしょう今から犯人ぶっころ……」


 ガタガタと肩を揺すられ、非常に答えづらい。つかしゃべれない。



「やっぱり車で送り迎えするべきでした! こんな事になるなんて……、アキラちゃん何とか言って下さい! 僕は何があろうとアキラちゃんを愛して……」


 だからしゃべれないって!



「楓さん、落ち着いて」


 母さんが指で、ピッっと体の一点を突くと、父さんの動きがピタっと止まった。なにそれ秘孔? ぐ……! がっ……! とか呻いてるし。



「はぁ、はぁ、いい加減にしてよ、父さん。サッカー部の練習みてたら、ボールが飛んできただけだよ」


「ぬぐぐぐぐぐぐ……、はぁっ!!」


「まあ、私の技を破るなんて」


 この人達は本当に何者なんだろうか? そのうち一子相伝の拳法とか習わされるのかなあ。



「わかりました。サッカー部のクズどもをSATSUGAIすればいいんですね?」


「ダメよSATSUGAIしちゃ」


「ぐあああああああああああ!!」


 世紀末なお茶の間からは、さっさと逃げて着替えよう、うん。




 ーーーーーーーーーーーー




 翌日の登校中。

 サッカー部が朝練をしていた。

 こんな時間まで練習してたら遅刻じゃないかな? と思いながら通り過ぎようとしたら、またボールが飛んできた。

 なんだろう、すごい邪なオーラを感じる。

 どうしよっかなーと考えていると、シュッ! 人が出てきてボールを蹴り返し、またシュッ! と消え去った。


 なに? なにこれ?


(私は闇の副委員長……、今日より貴女様をお守り致します)




 朝のホームルームで、オレは闇の副委員長解任の動議をあげた。

 いい加減にして欲しい。




引越しの為、しばらくお別れです。

ネットだけは早く引きたいのですが……。

(つд・)ノシ

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