いきなり女なんてありえない
ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!
目覚ましの音で目が覚める。休みの日でも規則正しく!がモットーの母さんの教育の賜物で、春休みとはいえ必ず7時には起きる事にしている。
が、正直つらい。昨日は引越しの片付けで色々と遅くまで荷物を上げ下げしたり、すぐ使う物を引き出したりでだいぶ疲れたし。目が覚めたとは言え半分寝てる状態だ。
ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!
う~っとうなり声を上げながら目覚ましをストップ。ふあ~っと大あくびをしながら起き上がって腕を伸ばす。ん?なんか黒くてさらさらした物が視界に入るな、髪の毛…?
まあいいや、それにしても眠いから下に行って顔を洗ってこよう。なんか体が変だな?半分寝てるし疲れてるのはわかるけど軽くて重い?訳がわからないと思うけど、自分でもわからない違和感がある。
階段をトントンと降りる。なんか胸の辺りがぽよんぽよん跳ねてるけど何だろう?う~ん、まあいいか。ふあ~~~~~、とまた大あくび。ん?なんか妙に声が高いな。ま、気のせい気のせい……。
洗面所に到着。大きな鏡に広い洗面台。まだ3月になったばかりで水は冷たい。手で触れた時点で、お湯を出すかどうか悩んだが覚悟を決めて、えいっと顔を沈めばしゃばしゃと洗う。
ひ~!死ぬ、死んでしまう~~!などとアホな事を思いながらって何だこの長い髪は。まあいいや、これでバッチリ目が覚めたな。タオルでごしごしを顔を拭いて鏡を見ると、何か女の子がいた。
たっぷり30秒ほど女の子を眺めた後、まだ目が覚めてないんだな、と判断した。おかしいな、すっきりさっぱりぶるぶるさむさむしたのにな。もっかい顔を洗おう。
冷たい!もう春なのに冷たい!こんなんぜったい死んでしまうわ~~!などとバカなことを思いながらって髪の毛邪魔だな。まあいいや、今度こそ目が覚めたな。で、鏡を見るとやっぱり女の子がいた。
この子おっぱい大きいな、って女の子の胸をじろじろ見ちゃダメだな。鏡の中の女の子も視線が胸に行ってる気がするけど気のせいだ。あれだな、歯を磨くと目が覚める気がする。そうだ、歯を磨こう。
ハブラシとって~、歯磨き粉つけて~、水をふくんで~。怖いので鏡を見ないように俯いて一心不乱に歯を磨く。ごぼごぼごぼ……、ぺっ!お口すっきり。さて、鏡を(略
じーっと見る。右手を上げると左手が上がる。にっこりしてみる。にっこりされた。グーチョキパー。グーチョキパー。うん、アイコだね。
さらにじーっと見る。よおぉぉぉぉく見ると顔のパーツはオレだ。少し線が細くなってるが15年つきあってきた自分の顔だ。女顔でよくからかわれたりいじめられたりもしたので、恥ずかしながら怖い顔の練習もしたことがある。結論としては怖い顔は無理だったので、表情を消して威圧的な雰囲気を出そうと努力して、こちらはプチ成功。オレに関わるなオーラを出せるようになった(つもり)のだ!ってどうでもいい。
髪の毛長いな……、腰まではいかないが背中の真ん中くらいまで伸びてるかな?正直バサバサとうっとおしい。一晩でここまで伸びるなんて何て非常識なんだ。いやそれ以前に……
「……なんで女の子になってるんだよ」
うげっ、声まで高い!高校生にもなるかってのに成長が遅いのか、声変わりもまだか?ってくらいオレの声は高かったのだが、これはマジで女の子の声だ。あっあー、あうあうあう。ダメだ、自分が出してる声だ。
次、胸。おっぱい。でかい。心なしか肩が重い。男の時は、というかつい昨晩までは自分の成長の遅さを気にして悩んでたのに何でこんなに育ってるんだよ!ホントにこれ自分のか?ちょっと触ってみよう。
ふにふに。ふにふに。やわらかいなこれ。ふにふに。ふにふに。触り心地はいいな。ふにふに。ふにふに。う~んくすぐったいな。ぐにぐに。ぎゅーっ。いててててっ!
堪能してしまった……。自分のだから興奮するとかは無かったけど。あったら変態だしな、うん。
次、下。あそこ。あそこっ!?うう、確認したくない。ここまでやっておいて今更だが実感したくない。もう確定だから絶望する必要ないじゃん、YOUもう女の子だって認めちゃいなYO!つか認めてたよNE?五月蝿いよ!
ぱんぱん!(ドラ〇ンボール風に) うん、無い。無いね……。さすさす。なんかすべすべしてるね……。ぱんぱん!あはっ……あはははは…………
「お母さん!?おかあさーーーーーーん!?ちょっときてー!助けてええええええええええええ!!!!」
もうすぐ高校生になる男?である所のオレは泣き叫んで母親に助けを求めた。