告白ラッシュなんてありえない
やりすぎたかもしれず……。
今日は授業の説明。
必修は定番の数I、現代文、古典、現代社会、などなど10教科。なにげに家庭科も入ってたりする。料理はまかせろー。
選択が、音楽か書道か美術のうち一つ選ぶ。本日中に決めて提出だが、月曜まで変更は受け付けるそうな。
各教科の先生が、自己紹介と簡単な授業の説明。ちなみにカッキーは社会。どうでもいい。
その後、校舎案内。なんかやけに特殊教室が多い。一部は放課後、部室として使用するそうな。別の場所に部室棟もあるのに贅沢な話だ。
全て廻る時間はないので、主要教室以外は学内地図参照との事。
レッスン室ってなんだろう? バレエのお稽古でもするのだろうか……。
学食もあるが、そんなに配膳数は多くないらしく戦場になるとの事。弁当作るので関係ないけどな。
なお昼休みは、学外に出るのは認めないが屋上・中庭など校舎内ならどこに行っても良いそうな。
お弁当は人の少ない所で食べよう。まっさきに屋上に出てカギをかけるのはどうだろう? 無理か。
教室に戻って本日はほぼ終了。選択科目を決めて、提出したら帰っていいそうな。
えーと、音楽でいっか。ぱぱっと記入して、ささっと帰ろう。
隣の子が、身を乗り出して覗き込もうとしていたので、つい隠してしまった。
凄い落ち込みようだな、エサ抜きにされた犬のようだ。力なく垂れた犬耳の幻影が見える。
えーっと、ごめん。でもこういうのは自分で決めないと。
「おー美里は音楽か、キレイな声してたもんなあ」
このやろう。楽器の演奏だってあるし声は関係ないだろ。それよりなんでオレの選択科目を晒すんだ、晒しイクナイ!
後ほど知ったが、クラス全員が音楽を選んでいた。
すごい偶然だなあ……。
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そそくさと教室を出て、さあ帰ろうと生徒昇降口に着いたまではいい。
オレは超絶不機嫌になっていた。
なんか男子生徒に告白された。
ひとめ見た時からビビっときただの、こんな子に会えて幸せだのと、色々ごちゃごちゃ言っている。
左から右に流しながら、オレは思い出していた。
中学の時も、男に告白されたんだよな……。
何をとちくるったのか、当時はちゃんとした男だったオレに『好きだ、付き合ってくれ』と。
しかもそいつが、バスケ部のキャプテンとやらで、女子にもそこそこ人気だったのが災いした。
総スカンとまではいかないが、女の子には距離をおかれたし、男連中にはからかわれたりと、非常に不愉快な目に遭ったのだ。
腹立たしい、何が『えっ女の子じゃないの?』だ。女子が詰襟着るかと。
今は女だからシチュエーション的にはおかしく無いのだが、不愉快な事に変わりはない。
「ーーーーという訳で付き合って下さい!」
「お断りしマス」
さらばだ。さっさと帰ろう。そして忘れよう。
「そこをなんとか!!」
「結構デス」
なにが、そこをなんとかだ。ちょっと面白いけどお断りだ。そこにいられると靴が取れないから、どいてくれないかな。
「どけどけ、下駄箱の前で突っ立ってんじゃねー!」
「あんた邪魔よ」
「帰れねえだろモラァ!」
「……通行に支障がでます、すみやかに立ち去りなさい」
クラスの人達がぞろぞろ来た。なんかどんどん押し出されて行った。オレも邪魔だったと思うんだけどな……。
人の下駄箱の前でずうずうしいだの、ここはF組の縄張りだ、だのと皆口々に言ってる。そうか、みんな団結力が高いんだな。
オレが突き飛ばされなかったのはクラスメートだからか。ちょっと感動した。
「さ、さようなら……。えっと、また明日…………」
挨拶くらいはちゃんとするようにしよう。友達とまではいかないけど、せめてそれくらいはしなきゃな。
ちょっと照れくさかったので、ぼそぼそとつぶやくように挨拶。速攻で靴を履き替えて脱出。うーん、なんか恥ずかしい。
背中越しに歓声が聞こえるのは何故だろう?
また明日ですよ! という声は子犬ちゃんだな。ちっちゃくて気付かなかった模様。
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翌朝。
オレはスペシャル不機嫌になっていた。
なんか一目惚れだそうな。
五月蝿い、ひとめぼれなら近所のスーパーで5キロ1980円だ。買って存分に付き合えばいい。
こいつしつこい。自称イケメンだかなんだかしらないが、『ボクとキミなら理想のカップルだよ』だの、『美男美女で周りの嫉妬が怖い』だの訳の分からない事を言ってる。
もうすぐ教室なんだけど、中まで着いてくるつもりだろうか? いい加減にして欲しい。さっきから結構ですと断っているのだが。
入り口まで来ちゃったよ、もー。
「そういうの、興味ないので、付きまとわないで、下サイ」
「そんなバカな、ボクに興味がないの?」
バカはお前だと言いたい。全然興味ないよ!
「まったく、ありまセン」
「そ、そんな……、ボクに興味がない女性がいるなんて……」
手でコメカミを押さえながら、大げさに天を仰いでいる。もうこいつ放置でいいかな。
「ま、待ってくれ! もしやキミは男性に興味がないのか!? いやそうに決まってる、でなければボクの誘いを断るなんて……」
めんどくさいなもう、そのとおりですよと。ワタシは男性に興味がアリマセンと。
「やはりそうか! キミはレズビアンだったんだね、残念だ……」
季節外れのトンボのように、ふらふらと去っていった。失敬な、誰がレズだ。
教室に入ると、男子全員がまるで死刑宣告でも受けたかのような顔をしていた。
女子の半分は頬を赤くして目を逸らし、半分は熱い視線を送ってくる。なんだろう?
席に座ると、隣から『お姉様……』というつぶやきが。
理由はわからないけど背筋がゾクっとした。
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本日は部活紹介や生徒活動についてがメイン。
先輩方の主導で、体育館で説明を受けている。
どちらも参加する気はゼロなので絶賛聞き流し中。
レトロゲーム部だのラノベ部だの帰宅しない部だの、一部不穏な部活名が聞こえたのは気のせいだろう。
無駄に部が多いな、この学校。3名で新設できるというゆるい条件だからか。進学校のはずなのにな。
休憩中、お手洗いの帰りにまた告白された。
「美里さんが! レズでも! オレは! 一向に構わん!!」
オレが構うよ。あと誰がレズだ。あとなんでオレの苗字知ってるの。危うく手を出す所だった。
生徒会選挙は10月だそうな。
ちなみにクラス委員長は、来週の水曜までに決めなくてはいけないらしい。
きっとインテリ眼鏡っぽい人が選ばれると思う。
帰り際、また告白された。
順番待ちしてた。合計4人。ご丁寧に一列に並んで。
もしかしてこの学校はバカばっかりなんだろうか?
氷点下の微笑みを作りつつ、全員に『イヤです、だいっきらい』と言ってやった。
初対面の人に大嫌いは我ながら酷いとは思うけどストレスが……。何故か全員うれしそうだったけど。
その後、クラスメートに蹴散らされていた。縄張りに入るからだな。
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日曜日。
朝。
犬と三日ぶりに遊んだあとは、ひたすら勉強。月曜日は学力測定試験なのだ。最初が大事だし頑張っておこう。
ちなみにおばあちゃんの孫はゴールデンウィーク明け頃退院らしい。
早く会いたい。そして殴りたい。
夜。
久々に父さんがお風呂に乱入してきた。
アキラちゃん成分が足りなくてやった、後悔はしてないとの事。
母さんを呼んで、プロレス技が見たいとリクエストしてみた。
片腕で、腰を抱えて持ち上げ、真っ逆さまに捻りを加えながら垂直に落とした。
エメラルドフロウジョンと言うらしい。かっこいい。
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今日は学力試験。
中学までの基本5教科が対象。お昼休みを挟んで5限までって事かな。
4限目が始まる前に、隣の子が注意された。
「村野、お前なんでそんなに美里の方に席を寄せてるん? カンニングしにいくみたいやぞ」
そういや随分、席と席が近い。何時の間に……。
一クラス30人弱しかいないのに、教室は広めだから、ゆったりとスペースとってるんだよね。
あと、この子の名前、村野って言うのか。自己紹介ろくすっぽ聞いてなかったからなあ。
「えぅ……。せっかくバレないように少しづつ近づけてたですよ?」
いやバレてるから。しくしく泣きながら離れていった。
カンニングしたかったのだろうか? 真面目そうな子だから違うか。うーん、謎だ。
ま、いいや。テスト頑張ろう。
お昼休み。
孤独を愛するスニャフキンのように一人でお弁当を食べるのだ。という訳で屋上へ。
予想通り、今の時期だと誰もいなかった。普通は少しでもクラスで親睦を深める為に、教室で食べるだろうから。
オレは一匹狼を目指すので問題ない。狼いいよね。精悍な顔のくせに、シッポがすごいもふもふしてるし。目が青かったり耳がシャープでかっこいい。狼になりたい。
ちょっとだけ切ない気持ちになって、現実逃避をしつつ昼食終了。
少し早いけど、教室に戻ろうかな。決して寂しいからじゃない。
戻る途中。
オレはげっそりと不機嫌になっていた。
また告白された。
なんでだ……。
他にも女の子はいっぱいいるのに。
なんでオレなんかに。
この春からのなんちゃって女子だよ?
半引きこもりで、たぶん性格も良くないよ?
すごい疲れてしまった。
返事をするのもおっくうだけど、頑張って断りの言葉を紡ぎ出す。
あとは俯いて無言。
肩を落としながら教室へ向かう。
なにやら慌てた様子で、色々と話しかけてくるけど、頭に入ってこない。
「友達からでいいから!」
……。
だめだ、やばい……。
もうやだ……。やだよう…………。
頭の中がごちゃごちゃになって、これは泣くな、なんで泣きそうになってるんだろ、とか思っていた矢先。
「なに人の教室に入ってきてるんだモラァ!」
「美里さん困ってるでしょサイテー!」
「他のクラスのヤツはとっとと出てけー!」
「……これはどうみても不法侵入ですね」
なんかフルボッコにされていた。いつの間にか教室に入ってたのか。うわ、容赦ないな……。
「ちょ、オレ同じ一年だよ!? しかも昼休みじゃん、ちょっとくらい!?」
「うるせー! うちのクラスは鎖国してんだよ!」
「ちょっとー、美里さん泣いてるじゃん!」
「この野郎なにしやがったモラァ!」
「……謝罪と賠償を要求します」
う……。泣いてないぞ、ちょっと涙ぐんだだけだ!
「と、友達になろうとしただけだって!」
「友達なんかいらねーんだよ!」
「そうよそうよ! うちのクラスメートだけで十分なんだから!」
「二度とF組の敷居またぐなよモラァ!」
「……我々は友達を必要とはしておりません」
え? なにこれ? クラス全員が友達いらないの? 実は全員ぼっちだとか?
女子まで混ざって袋叩きにしてる。村野さんは消しゴムをちぎって投げつけている。
あ、教室から蹴り出された。カギまで閉めている。先生が入ってこれないよ!
ちょっと、いやかなり悪い事したかなあ……。
また精神的に不安定になってたかなあ……。
思わず考え込んでいると、村野さんが下から覗き込んできた。ホントちっちゃいな!
顔をあげると、他の人達も心配そうにオレを見ている。
「えっと……、あの…………」
「ありがとう?」
なんで疑問系にしちゃったのか、自分でも謎。
オレの言葉を聴いたクラス全員が、満足そうな表情で頷く。
何かに似ている。
あ、父さんだよこれ!
イジメはなさそうだけど、別の意味でイヤな予感がするなあ……。