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ドヤ顔なんてありえない

えっと、ヒロイン補正ってやつで一つ……。

水をうったような静けさとはこういう事を言うのだろうか。

図書館か神社か仏閣か。

だれかの携帯でも鳴らないかな。あ、隣の教室から笑い声が……。


やってしまった……。

自己紹介で友達いらないと宣言する痛い人になってしまった。

友達うんぬんでつい頭に血がのぼってしまい、とんでもない発言をしてしまった。わりとドヤ顔で。

うわ、恥ずかしい! 顔が紅潮する。なにやってるかなホントに……。


ま、いいか。これで誰も寄ってこないだろ。

その代わり、いじめられるかもしれない。

カイザーナックルの出番だな! 

って、落ち着け落ち着け。あんなもの使おうとしちゃダメだ。


少しだけ頭も冷めてきたので、改めて周りを見渡す。

男子は一様に肩をがっくりと落としている。女子もなんだか皆、寂しそうな顔をしているな。

隣の子にいたっては、半泣きのうるうるした瞳でこっちを見上げている。

カッキーは、フレンドリーに腕を広げたまま硬直中。どうでもいい。


んー、なんか予想外の反応だな。こんな発言をしたからには、もっと嫌な目で見られそうなものだけど。

まあいいや、座っちゃえ。

静かに腰をおろし、顔を窓に向ける。スズメ発見、エサはあげないからな。現実逃避発動中。



「じゃ、次の子いこか!」


復活したカッキーが、何事もなかったかのように続ける。

うん、これ以上なにか言ってきていたら、筆箱投げつけてたからな。



目立たないように挨拶して、その後忘れ去られるのは失敗した模様。

つい頭に血が上ってしまい、まさしくやってもうた状態。

中学の頃は、もう少し冷静だったはずなのに。

どうも女になって以来、感情的になった気がする。


あれだな。いつだったかのように、人形になろう。

オレはお人形。人形に感情はない。人形は心をざわめかさない……。


あ、いつのまにかホームルーム終了っぽい。

これで帰れるぞ、ひゃほーぅ! 速攻で人間に戻った。



出口混んでるなあ。席を立ったけど、少しだけ待つか。

何人か、こちらをちらちら見てくる。反射的に警戒して無表情を心がける。能面のようにって感じ。

なんか頬を赤くして目を逸らされた。勝った、のか……?



「さよならですよ?」


む? 隣の席の子だ。オレよりかなり背が低い。おっきなリボンがかわいいな。

小動物みたいな印象。見上げてくる姿は、エサをおねだりするハムスターみたいだ。

緊張しているのか、すこし震えてる。

あんな自己紹介の後なのに、わざわざ挨拶してくれるなんて、心の広い優しい子とみた。

おっと、礼にはちゃんと礼で返さないと。でもなんで疑問形なんだろうな?



「さようなら」


なんの捻りもなく淡々と返したが、女の子の表情の変化は劇的だった。ぱーっと花が咲くかのような笑顔に。



「また明日ですよ!」


と言ってパタパタと走り去っていった。うーん、なんだか子犬みたいだ。ハムスターから昇格させておこう。


などと考え和んでいたら、残っていた連中が何故かこっちにきて、次々にさようならと言ってきた。

なにこれいじめ?



「サ……、サヨウナラ」


ぎごちなく返し、そそくさと教室を出る。

びっくりした。もしかしてうちのクラスは、全員心が広くて優しいのだろうか?

いじめられなくて済みそうだけど、毎日全員に挨拶は疲れるぞ? 明日から会釈でごまかそう。


廊下を歩き、階段を下りる。道中、別のクラスの人達にも、じろじろと見られた。

はやくも友達いらない発言が広まっているのか?

『あの人でしょ? ボッチ宣言の』とか。考えすぎかな。

どうでもいいけど男子は胸を見るのはやめて欲しい。ちゃんと気付くんだからな。

……たまに女子でもガン見してくる子がいたが。怖い。



正門で母さんを発見。向こうの方が早かったか。よし、早く帰ろう、すぐ帰ろう。



「ちゃんと挨拶できたの?」


第一声がそれですか。それとも保護者にまで広がっているのか。

聞きました奥さん? なにやら孤立宣言をしたお子さんがいるとか……。



「ちゃんとしましたデス」


「……言葉遣いが変よ」


そうですか? わかりません! おっと汗が。幸いにして、これ以上のつっこみはなかった。


帰り道で、今後の家事分担について話し合う。

夕食の手伝いは基本土日のみ。朝食の準備は免除するが、昼のお弁当は自分で作れとの事。

レトルト中心でいいけど、野菜はちゃんと入れなさいだそうな。赤緑黄だな。

面倒だな、ごはんにパックの納豆じゃダメかと言ったら、超にらまれた。冗談だったのに……。


ジョギングどうしようかな。8時半までに登校だから、おばあちゃんの散歩時間には合わせられない。

犬に会えるのは日曜日だけか……。



「どうしたの? 深刻な顔をして。学校が不安……?」


いえ、犬の事を考えていました。


「なんでもない。学校もたぶん大丈夫」


根拠はないけどそう思った。今後大人しくしていれば変な事にはならないだろう。部活とかも入る気ないし。

真面目に勉強して、たまに犬と遊んで、慣れてきたらネトゲも復帰して、充実した半引きこもりライフを過ごすのだ。あはははははは。




ーーーーーーーーーーーー




エプロンドレスの上にエプロンを着て料理ってどうなんだろう?

と思いつつ、夕食の準備。


部屋着にもなるしエプロンにもなるという、リボンエプロンとやらを着せられているのだが、汚れるからと、更にその上からエプロンをつけているという状態。


母さんの好みで、これもチェック柄でリボンが付いているんだよな、かわいいけど。色はパープル。ドレスというよりワンピースだな。

鎖骨が見えてしまうくらい大きく襟元が開いており、そこにフリル。母さんの好みだな。

大事じゃないけど、2回言いました。

断じてオレの好みではないです。かわいいから着るけど。



じゃこじゃこじゃことフライパンを動かして、チャーハンを製作中。紳士には絶対食べさせない。元ネタがわからない人にはごめんなさい。

今日は一人で作れと言われたので簡単な物で。おかずは悪いけど冷凍のカラアゲで我慢してもらおう。

これなら父さんが帰ってきても、温めなおせば良いだけだしな。よし、完成。



「できたよー!」


「はぁい」


リビングの母さんに報告。テレビ見てる。非常に納得いかない。まあいいや、深く考えないでおこう。

いただきます、という所で父さんの『ただいま帰りました!』の声。

いいタイミングだな、ご飯できてるよー。



「アキラちゃん、ちょっと玄関まで来てもらえますか?」


なんだろう?

玄関に行ってみたら父さんと、何故かその横で土下座をしているスーツ姿の人がいた。



「この度は私が不甲斐ないせいで、お嬢さんには大変なご迷惑を……」


え? え? なにこれわけわからない。



「無能な上司のせいで、入学式に出る事ができませんでしたからね」


「はい、はい、私が至らないばかりに、お嬢さんには本当に申し訳ない事を……」


「お嬢様でしょ? 何回言わせるのですか部長」


「は、はい! で、お嬢様。これはつまらない物ですが」


あ、ありがとうございます……。って父さんなにやらせてるの!



「た、立って下さい! ごめんなさい、父がまた訳の分からない事を……」


「あ、ありがとう……。うう、美里君、やさしいお嬢さんだねえ」


「これくらい当然でしょう? 入学式に! 出られなかったのですよ! アキラちゃんの! 晴れ姿が!」


いや、たかが入学式だから。


「ああ、アキラちゃんの心に傷が……。お父さん、どうして来てくれなかったの? 寂しいよぅ……とか」


ないないない。



興奮してきた父さんが、部長さんを足蹴にし始め、それをオレが止めるという事態に発展した。

上司でしょ? しかもこれくらいで! 

ありがとうお嬢さん、とオレの背中に隠れる部長を見て、父さんますます激昂。



「なにアキラちゃんにひっついてやがりますかコラァ! その肩に置いた手を今すぐ放さないと……」


いや、オレでも放さないと思う。目が血走っててマジで怖い。部長さんと二人でガタガタ震えていると……。


「楓さんこそ何してるんですか」


母さんのトラースキックが炸裂した。すげー、人間って縦にも回転するんだな。玄関の扉が開いてて良かった……。



「ごめんなさいね部長さん、宜しかったらお夕飯ご一緒します?」


「助かりました奥さん、ごちそうになります」


いや、そこは断って帰ろうよ。父さん5秒で復活するよ?




ーーーーーーーーーーーー




部長さんはご飯を食べて帰った。おいしかったとの事。

無事に帰れてよかったね、父さんが凄いガンを飛ばしてたけど。

明日、会社で何もない事を祈ろう。



そういえば明日も学校なんだよな。

ま、なんとかなるだろう。


明日こそ、大人しく目立たないように、と……。

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