桜舞い散るなんてありえない
エセ関西人が出てくるのでご注意を。
「楓さん、さっきからずっと携帯をいじっているようだけど、なにかあったの?」
「部長に呪いのメールを送っているだけですよ」
「あれほど、明日はアキラちゃんの入学式だから有休を使うと」
「言ってあったのですけどね! 二週間前から!」
「50通目、送信完了と」
「さすがに迷惑メールで着信拒否とかにされていると思うわ」
「明日も暴力に訴えるつもりですから、それでも構いません」
「ほどほどに、ね」
「ああ、アキラちゃんの晴れ姿を見たかったです……」
「代わりに私がちゃんと見てきますから」
「写真もお願いしますお願いします」
「……それにしても心配だわ」
「女の子らしくないから? 大丈夫だと思いますけどね」
「それもだけど、アキラはまだまだ子供っぽいから」
「……大人でしたよ?」
「心の事よ。手足が伸びても、精神的には小学生みたいなものよ、アキラは」
「----君がいてくれてたら、違っていたのかしらね……」
「よくわかりませんが、万が一にもアキラちゃんがいじめられたりしたら」
「二人で学校を壊滅させましょう、桜花さん」
「本当にアレな父親ねえ……。それくらい私一人で十分よ」
ーーーーーーーーーーーー
今日は風が少し強い。
正門をくぐった時、桜吹雪が風に舞った。
桜の木は家の庭にあると不幸になるって言うけど、学校には大抵植えてあるよなー。
風情の欠片もない事を考えつつ、母さんと受付に向かう。
近くで、友達同士らしき二人組が談笑している姿が目に入った。
そっか、この学校は中高一貫だからな。新入生でも中学からの付き合いってやつか。
オレは受験組ってやつだな。
どうりでまたちらちら見られてると思った。受験組は少ないらしいし。
ちなみに、中学の校舎は駅を挟んで反対側にあるらしい。駅からの距離はほぼ同じとの事。どうでもいいけど。
ぼーっと眺めていたら母さんに肩を叩かれた。
入学式は体育館でやるとの事。
しかし結構豪華だな、この学校。ぱっと見だけどグラウンド二面、体育館二つ、あれは部室棟だろうか?
まあいいや、あとでパンフレットでも読み直そう。
入学式は物凄くあっさりと終わった。
校長先生による式辞から、新入生代表の宣誓、生徒会長さんからの歓迎の言葉、その他諸々の祝辞全てがサクサク進み、新入生氏名読み上げは略された。
楽でよかった。校長にいたっては自分の名前を叫んだだけだったし。式辞でもなんでもない。
終了後、新入生は教室に行ってホームルーム。保護者はそのまま説明会。
だいたい同じ時間に終わるみたいだから、一緒に帰れると思う。
クラスはF組だそうな。担任の先生に、カルガモのように率いられ校舎へ。
1年は三階が教室になる。一階は3年。二階が2年。
前の女の子がスカートを押さえながら上っている。
昔だったら、別に見ないよ失敬な、とか思ったものだが、今は多少その気持ちは判る。
だが、もう少し長いスカートを穿けばいいんじゃないかな、うん。
到着。席順も既に割り振ってあるとの事。どこだどこだ……。
お、窓際の一番後ろだラッキー。
前と横にしか人がいないのが良い。
前の席には坊主頭の男子。貴様! 野球部だな! 決め付けてしまった。結構背が高いな、いい防波堤になってくれる事を期待する。真面目に授業は聞くけどね。
右の席にはショートカットの女の子。オレと違って、少し赤みがかった、ふわふわした髪の毛の子だ。おっきなリボンを付けてる。かわいい感じの子だなー。
どうでもいいけど席が一つ空いてる。
入学式からさぼるなんていい度胸だなー。
全員が席に着いたのを見計らって、担任が黒板の前へ。
ぼさぼさ頭に眼鏡という、ちょっとだらしない感じの若い兄ちゃんが担任のセンセイだ。
お兄さんでもなく先生でもないのがポイント。親しみやすい印象だな、親しまないけど。
「え~自分、川北信司と言います。カ・ワ・キ・タ・シ・ン・ジね。今年一年よろしく!」
「カッキーと親しみを込めて呼んでくれてええんやで?」
軽いな……。それに関西弁? こいつ関西人(カンサイビト)か!
別に関西の人にどうこうって訳じゃないのだけど、なんか警戒してしまった。
先生は関西出身なのですか? と質問が飛んだ。カッキーと呼んでくれてええんやで、と返ってきた。
質問に答えろよカッキー。
「自分、学生時代は関西におって。出身はこの辺なんやけどな、ここが地元」
「半端に関西弁がうつって、向こうでもこっちでもバカにされてなあ……」
遠い目をしている。色々とつらかったんだろうな。エセ関西人はどこででも迫害されるものだし。
「ま、それはおいといて。机の上に、就学のしおりはあるな? 軽く今後の話をするから、それを見ながら良く聞いてや」
オレはさっそく窓の外を見て聞き流し始めた。あとで読めばいいし。
薄紅の花弁が舞っている。くるくるひらひらと落ちるそれをぼーっと眺める。
これじゃ全部散ってしまうな、お花見の人たち涙目。
「ーーーーーで、来週はオリエンテーションからで」
「簡単な学力試験と、身体測定は体操着でーーーーー」
「ーーーーークラスの役員とかは、その後で決めるから」
今日の晩御飯のオカズなに作ろうかなー。一品とは言え毎日作るのは面倒だなー。授業はじまったら免除にならないかな……。
「そこの空いてる席は----と言ってな、事故で入院中やそうな。復帰したら仲良くしてやるんやで」
「ーーーーーじゃあ、最後に全員自己紹介して終わりにしよか」
自己紹介が始まった。
面倒だな……。
あまり無愛想にしてもいけない。
かといって明るくしすぎてもいけない。
ひっそりと目立たないように挨拶して、その後は忘れ去られるってのがベストだな、うん。
挨拶が進む。
自分の趣味をアピールしたり、入る予定の部活を宣言したり。
受験組は出身中学の事とか、通学手段や住んでいる町の事。
受け狙いをしてすべってしまう人や、内気なのかどもってしまう人も。
概ね明るい雰囲気だ。
自分の番がきた。
立ち上がって軽く周りを見る。
異様に注目されている気がする……。
特に隣の女の子なんか、目をキラキラさせてこっちを見ている。
気のせいだ、落ち着け! 落ち着けオレの右手! って違う違う。
えっと、深呼吸。
あっさり終わらせればいいだけだ、と胸に手を当てて自分に言い聞かせる。
「美里晶です、よろしくお願いしマス」
よし、なんとか言えた。どもらずに済んだし。
また片言っぽい発音になったけど。
って……。
なんで皆じーっとこっち見続けてるの?
変だった? 自分では普通に挨拶したつもりなのに!
ちょっと慌ててつつ一礼して座ろうとしたら、カッキーに話しかけられた。
「あー、もう少し何かしゃべったらどや? みな期待してるみたいやし」
なんだよう……。
名前と挨拶だけで済ませた人は、他にもいたじゃないか。
なんでオレだけ…………。
「………………………」
「趣味とか? 好きな食べ物とか?」
黙りこくってたら話を振ってきた。
ちょっとイラっとした。
趣味はネトゲです。食べ物の好き嫌いはないです。強いて言えば納豆が好き。
でもそんな事教える必要ない。
眉をしかめながらウソを答える。
「趣味も好きな食べ物も、特にないデス」
「んー、もうちょっとこう愛想よくというか……」
ソウデスカ。デハモウ座ッテヨロシイデスカ?
「最初が肝心やでー、おもしろおかしく自己紹介して友達100人できるかな? って感じで」
ニコっと笑ってしゃべるだけで、キミかわいいから男も女もイチコロやでー、とか。
友達100人ね。
小学校の時に1人だけいたけどね。
何も言わずに消えちゃったけどね。
だったら友達なんていらないよ。
だから正直に答えてやった。
「友達なんて、いらないです」
最初が肝心だと言うなら、オレは最悪のスタートを切ったのかもしれない。
微妙な引きだったので、次話はなるべく早く書き上げたいデス……。