メスイヌだなんてありえない
短めです。
今朝も至福の一時が始まる。
ジョギングが終わる時間に、家の前を通りがかるおばあちゃん。
その愛犬と、公園で遊ばせてもらっているのだ。
パピヨンという犬種で、蝶の羽のような大きな耳、白地に茶色混ざりの光沢ある長い毛並み、リスのようにふわふわなシッポ。
時々ベロを出しっぱなしになったりと、少々間抜けだが非常にかしこく、お手お座り他なんでも言う事を聞く。
初めて触らせてもらった時は大層緊張したが、すぐオレに慣れてくれた。抱き上げたら唇を舐められた。
ファーストキスを奪われたので結婚するしかないな。女の子だったので諦めたが。
く、オレが男のままだったら……。
いささか正気を失う程度に夢中になり、ひたすら犬と遊び続けた。
おいでおいでー!
こっちこっちー!
あ、名前を聞くの忘れてた。オレのバカ! 旦那様の名前すら知らないなんて……。って違う違う。
「えっと、この子のお名前は?」
「ビッチって言うのよ」
はい?
聞き間違えだろうか? もう一度聞いてみた。
「ビッチ。英語で、かわいい女の子って意味なんですって。孫が名付けてくれたのよ」
「……お孫さんと是非お話してみたいので、今度会わせてくれませんか?」
是が非でもぶん殴ってやりたいので。
「それがねぇ……。事故で入院中なのよ、命に別状はないのだけど中々長引いてて」
「そうですか、天罰……。いえ大変ですね」
「だいぶ元気になったから安心はしているんですけどねぇ」
「退院されたら、会わせて下さいね」
再入院させてあげますから。っておばあちゃんが悲しむか。く……!
今更細かい意味をおばあちゃんに教えられるはずもなく、かと言って大声で名前も呼べず。
仕方なく引き続き、おいでおいでとか、こっちこっちと呼ぶ羽目になった。
こんな可愛い子にこんな変な名前を付ける孫は、万死に値するな。
ああ、本当に可愛い。やばいな、デジカメ持ってくれば良かった。
おばあちゃんの『そろそろ帰らないと』という声がなければ、日が暮れるまで遊んでたかもしれない。その前に、この子がダウンしちゃうか。
名残惜しくて、もう一回抱きかかえる。また唇を舐められた。もう結婚するしか……。
その後、毎日のようにビッチ(孫は絶対殴ると決めてある)と遊ばせてもらい、今朝に至るという訳。
問題は明日からしばらく、それができそうにない事だ。
入学式。
学校爆発しないかな……。
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制服。
濃紺のブレザーに白いワイシャツ、緑のネクタイに赤いフレアスカート。
カバン。
筆記用具。証明写真。必要書類。入学手引き。
ハンカチその他、細かい物。
化粧品はない。
携帯もない。
特に必要もない。
友達もいらない。
恋人? 当然いらない。
寂しい?
そうかもしれない。
でも。
できるだけ静かに過ごせれば、それでいい。
明日から学校が始まる。
という訳で次回から学校です。