一緒にお風呂なんてありえない
またテレビ見てたりして。
つまらないつまらない言いながら、結局見るのかYO! とか言われるかもしれないが勘弁して欲しい。だってヒマなんだもん。
受け入れよう諦めようと言いながら、オレは男だ! と騒いでしまうのと似たような物かな? ちょっと違うか。
あの後は、また着せ替え人形になってマシタ。3セットくらいだったので、そんなに長時間拘束されなかったのが救いだけど。あ、今は最初の服ね。
夕食の下ごしらえを、何故か手伝わされた後、ぼーっとテレビを見てる訳。
ちなみにちゃんと座って見ている。
ごろごろ寝転がりながら見てたら、パンツが見えると怒られた。ソファーの上で胡座をかいて、また怒られた。それ以外でもちょっとした立ち振る舞いで怒られる。
この短時間で累計10回は怒られているな。こう書くと、パンツ見せすぎだと言われそうだが、見えて無くても怒られるのだ。はしたないとか何とかで。
脚をぷらぷらさせながら、天下の副将軍的なおじいさんが諸国を漫遊する時代劇を見ている。あ、うっかりキュウベイがまたうっかりしてる。
『キュウベイさん、罰としてお昼は抜きですよ!』
『そ、そんな~、ご隠居~~~~』
『ははは、相変らずうっかりだな』
『キュウベイ、ファイトファイト!』
時代劇でファイトって台詞はどうだろうか? そして唐突にユニカオルの入浴シーン。この人も大概老けないな、不老不死なんだろうか。タモルさんといい、この人といい、怖いな芸能界。
「ただいま帰りました!」
お、父さんだ。覚悟はしとくけど大騒ぎするんだろうな。デジカメはないけど、携帯で写真とれるんだよな。別に良いけど、寝室に貼るのは止めて欲しい。
母さんがいそいそと食事の準備に戻った。やけに簡単な下ごしらえだったけど、夕飯はなんだろなー。
入ってきた。目が合った。おかえりなさいと挨拶をする。無言。なんかぷるぷると震えている。何も持っていない右手をあげて、シャッターを切るらしき動作をしている。怖い。
「ちょ、アキラちゃん、ちょう可愛いですよ! ええい、なんで僕はカメラを持ってないのでしょう? ちょ、ちょっと待ってて下さいね!!」
ちょ、が多いな父さん。なんかドタドタと走り去っていった。え、まだカメラあるの?
戻ってきた。なんか画材道具を持ってる。向かいに座ってシャカシャカと何やら筆を動かし始めた。
「愛の力で5分で書き上げて見せます! だから少しだけじっとしてて下さいねー」
……なんか脱力してしまった。予想の斜め下を行き過ぎているな。ずるずるとソファーから落ちそうになった。
「ちょ、動かないで下さい! あと2分でいいですから!」
スピードアップしてるな。おっとやばい、ずり落ちてパンツ見せたらまた怒られる。座りなおして、脚も閉じて、うっかり開かないように手で押さえておくか。
「ふおおおおおおお、可愛いですよそのポーズ! 30秒で描きます!!」
サイン会のマンガ家みたいだな。まあいいや、ほっとこう。
「描けました! アキラちゃんのラブリーさには程遠い出来ですが、見て下さい!」
別に見せなくていいよ。って上手いな! なんかマンガ調に少しデフォルメされてるけど、この短時間で描いたとは思えない出来だ。
良く見ると、ふきだしがついてて『お父さん、大好き』というセリフが書いてあった。そんな事は一言も言ってないのだが。
「さて、次の作品をと」
まだ描くのか。うっとおしいな。仕方ないので、携帯で写真撮れば?と教えた。更にうっとおしくなった。5秒毎にピー、カシャッとかありえない。
「うう、メモリーが……」
そりゃそうだろう。なんかしくしく泣き出した。よく泣くな、オレがすぐ泣きそうになるのは遺伝だったのかな。
「アキラちゃん、お願いだからデジカメを返してくれませんか?」
絶対にイヤだ。デジカメの代わりに、この言葉を送ろう。あ、本気じゃないよ。念の為にいっとくけど。
「お父さん、大嫌い」
固まった。すごいな。ピクリとも動かない。
効 果 は バ ツ グ ン だ !
「ご飯できたわよー」
やけに早いなーと思ったらラーメンだった。納得。でも珍しいな、夕飯をこんな簡単な物で済ますなんて。口では手を抜くとか言っても、きっちり作る人なのにな。
父さんはまだ動かない。仕方ないので、『ウソだよ父さん、一緒にご飯食べよ?』と言ったら再起動した。なんかうれしそう。
調子に乗られても困るので、一応釘を刺しておこう。
「でもまたデジカメを返せと言ったら、ウソじゃなくなるかも?」
「デジカメって何ですか?」
うん、わかればよろしい。
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ふう、ごちそうさま。美味しかったな、やっぱり母さんは料理が上手だ。
「楓さん、今日のご飯に何か思う所はないかしら?」
「え? 普通に美味しかったですよ、桜花さん」
「ありがとう。でも実はかなり節約させてもらったの」
「ふーむ……。なにかあったのですか?」
「ええ、実はアキラにもっとお洋服を買ってあげたくて」
なにそれ聞いてない。
「若い娘なのに下着も5着しかないし、私って家計管理のヘタね。母親失格だわ」
「こ、今月のお小遣いの残り全部です! どうぞ!」
「まあ、ありがとう。これであと3着は買えるわ」
なにそれ下着ってそんなに高いの?
「でもお洋服までは無理ね、ああ、三日に1回は同じ格好をしなきゃいけないのねアキラは。ごめんなさい」
別に構わないけどな。あ、父さんが出て行った。そして戻ってきた。
「ぼ、僕のヘソクリ全部です! これで大丈夫ですよね!?」
父さん騙されてるよ! 気付いて! あ、母さんがにらんできた。ごめんよ父さん。
「ありがとう、でもアクセサリーやバックまでは無理ね。アキラも女の子らしくしたいって言ってくれたのだけど……」
どどどどどどどどど……。うわあ、父さんかわいそう。どどどどどどどどどどど……。もどってきた。
「こ、これ! 隠し口座の通帳です! これで何でも買って下さい!」
「ありがとう、ついでに私の分も買って良いかしら?」
「ご自由に! だから……だからアキラちゃんに可愛い格好を…………!」
「もちろんよ。よかったわねアキラ」
「え……、うん…………。ありがとう?」
「ふおおおおおおおおおおおおお! いいんですよ、これくらい! ちょっと明日から残業するかもしれませんが!」
なんか可哀そうになってきた。写真くらいは黙って撮らせてあげようかな。母さんがニコニコしてる。怖い。
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効率が悪いと思いつつキッチリ勉強した。うん、我ながら真面目だ。
んじゃお風呂に入ろっかな。下着は……。この比較的シンプルな青色のにするか。ところどころレースっぽいのが付いてるのは母さんの趣味かな?慣れるしかないか。
パジャマも新しいのになった。ネグリジェとか持ってこられたら流石にきつかったが、幸い普通のギンガムチェックの上下。色がピンクなのは我慢しよう。
「きゃーーーーーーーー!」
脱衣所に入ったら半裸の父さんがいた。
「あ、ごめん。また後で入るね」
「スルーですか」
スルーするに決まってるだろ。
「久々にアキラちゃんも一緒に入りませんか?」
じっと父さんを見る。普段派手に殴り飛ばされてる割に、結構いい体してるな。細身なのに筋肉質とか。オレもそういうのを目指してたのに。悔しいから、絶対一緒に入らない。
「小学生まで一緒に入ってたのに……」
はいはい、マンガでも読んで時間つぶしてこよっと。
思いのほか読みふけってしまった。お風呂お風呂と。
ん、さすがに父さんは上がったみたいだな。では脱衣スタート。
スカートは簡単に脱げるな。ブラウスはボタン多いな。ブラジャー。よっ、ほっ、よし。ホック外れた。パンツと。小さい。なんか全般的に防御力が低すぎる装備だ。
男物が防御10だったら、4くらいじゃないのかこれ。くだらない事を考えつつ脱衣完了。風呂場の電気をつけて、と。
中に入ったら、湯船に水死体があった。
「父さん!? なにやってんの!?」
多分オレと一緒に入りたくて湯船で待ってたんだな。ご丁寧に、着る物を片付けて電気まで消して。そこまでして一緒に入りたいかな、1時間は経ってるぞ。
「父さん?おーい、お父さん?」
返事が無い。揺すってみる。無反応。というか頭までお湯に浸かってる!?ちょ!
頑張って湯船から出そうとするけど、重くて持ち上がらない! なんとか肩口まで引き上げたけど……。息してないYO! どうしよう……、どうしよう!?
「お母さん! おかあさーん!? たすけてええええええええええ!!」
オレは昨夜とは別の意味で悲鳴を上げた。
なお、母さんはボディブローで父さんを蘇生させた。
息を吹き返した後も、黙々とボディブローを繰り返す母さんを、オレはお風呂場の片隅でガタガタ震えながら見ていた。
「外でやってくれないかな、寒い……」
ま、父さんが生き返って良かった。