はじめての恋 -本が好きな女の子-
はじめまして、九郎です。
クロウと読みます。
初めての投稿になるのですが、読んだ感想などいただけたらとてもうれしいです。
色々足りない部分はありますが、温かい目で見てあげてください。
ここ皐月高校は、進学校でも運動部の名門校でもない。地元の知名度で言えば中の中。普通の高校である。
私の休み時間と放課後の日課はこの皐月高校の図書室に閉じこもることである。
私は、どちらかというと勉強は出来るほうだと思う。その私が皐月高校に行きたいと言った時の先生や父母の顔が今でも眼に浮かぶ。
どうして、皐月高校に行きたいと思ったのか。
普通の女子中学生ならば、中学の時に仲の良い友達と一緒に高校に通いたい。などと思うのであろう。
私は違う。
普通の女子中学生ならば、制服がかわいいから、この高校にしたい!などと思うのであろう。
私は違う。
普通の女子中学生ならば、卒業した好きな先輩が通うから・・・。などと乙女な事を思うのであろう。
私は違う。
もちろん先生や父母からあからさまに否定的な言葉は言われなかったが、もっと上の高校も狙える。と遠回しに反対された。
私は、あまり我が侭は言わない方である。
むしろ、両親ともあまり会話をしない。
父も寡黙な人なので、父に似たのだと思う。
母は優しい。やさしすぎる人なので、友達がいない私に気を使ったり、心配してくれたりする。
その我が侭を言わない私が唯一言った我が侭が、この「皐月高校に行きたい。」と言う我が侭である。
母は最初は困った顔をした。
だけど、私の願いだからと笑顔で承諾してくれた。
先生は最後まで諦めきれない感じではあったが、母が説得し「ご本人の意思を尊重して・・・。」と、納得はしてくれた。
そもそも、私が皐月高校に行きたかった理由が、あまりにも単純で子供っぽい理由。「図書室が広い。」ただそれだけである。
私は、本が好きだ。恐らく、今後結婚する人が現れて、子供が産まれても、それは変わらない。
本が一番好きだ。
本の重み、匂い、それぞれ違う紙質。
読まなくても、持っているだけで幸せになれる。
私は、休み時間でも本をずっと読んでいる。
そのせいか、誰も話しかけてこない。
むしろ、話しかけて来なくていい。本に浸る貴重な時間を、クラスメイトの会話などで潰されてたまるか。
この皐月高校の図書室の広さはすごい。
首を上まであげて見渡しても本棚が並んである。
某魔法学校の映画にでも出てきそうな図書室だ。
静かで、冷暖房も完備されている。
この図書室になら、一生すごしていられそうだ。
この図書室に入るたびに、席に座るたびに思う。
この高校に入学してよかった。
本当によかった。私の選択は間違っていなかった。
高校に入って3ヶ月はたったが、やはり友達はいない。
だが寂しくない。私の読んだことのない本がこんなにあるのだ。
ここにある本達は今か今かと私に読まれるのを待ちわびているに違いない。
そして、夏も本番になる7月中旬。
キーンコーンカーンコーン
昼休みのチャイムが鳴る。
私はいつも、ウキウキしながら教室から出る。
教室の男子や女子はヒソヒソと「あいつ本ばっか読んでて暗いよな・・・。」「見て見て、なんかニヤニヤしてるよ・・・。きもちわるい・・・。」
気にしない気にならない。
本だけが私の心を癒してくれるから。
この広い図書室は、いつも私ぐらいしか利用しない。利用したとして、勉強をする人や、私ほどではないが本が好きで借りていく人ぐらいである。図書室に居座る人はほとんどいない。
まさに私の城といってもいい。私にとって害のある人物は来ないのだから。
ウキウキ気分で、いつもどおり図書室の扉を開ける。
そこには先客がいた。
あきらかに勉強してる感じでも無いし、本の下見だけして借りて帰る。といった感じではない。座っている。本を熟読している。
男子生徒がいた。
その男子生徒は、威勢良く扉を開けて図書室に入った私をみて、ニコっと笑い会釈をした。
私も会釈をとっさに返したが、恐らくとてつもなく居心地の悪い顔をしていたに違いない。
それが、その男子生徒との最初の出会いである。
それからも毎日図書室に行くのだが、その男子生徒は私より先に図書室にいる。
私は人と話すのが苦手なのだが、その男子生徒はわざわざ私の近くに席をうつし、何かに付けて話しかけてくる。
「君は1年生?」
「そうです。」
「毎日図書室であうね。」
「あなたが毎日図書室にいるからです。」
「この本面白いよ。」
「読んだことありますから。」
我ながら無愛想な受け答え。
それも本を読んだまま、目もあわせないで返事をしているのだから失礼極まりない。
だけど、私にとってはどうでもよくて、この男子生徒が早く帰らないか。それだけが頭によぎる。あまり本に集中できない。
それからも、あの男子生徒は私より先に図書室にいる。
季節が変わっても、テスト期間中も。
無愛想な私に毎日屈託の無い笑顔で会釈する。
だんだん私も慣れてきて、その男子生徒と目を合わせて本について語ったり、嫌いな先生の話をしたり。
世間話をするようになっていた。
私って、こんなにしゃべれたんだ。
私にとって、その屈託の無い笑顔が安心感をもたらしてくれていた事に気づいたのは冬になってからだ。
冬のある日。
私はその男子生徒がいるのが当たり前のように、昼休みに図書室の扉を開けた。
「あれ・・・?」
つい声に出していた。
誰もいない。今日は休みなのか・・・。
私は、一人で本を読む。
一人で本を読むのは慣れているはずなのに、友達なんて今までいなかった私にとっては当たり前の事なのに。
あの男子生徒がいないというだけで、それだけで、この図書室が居心地の悪いものになる。
気分が悪くなった。
その日の放課後にも、図書室に行ったが、その男子生徒がいない事を確認して、図書室の扉を閉めた。
あの男子生徒が図書室に来なくなってから、一週間がたった。
その間も昼休み放課後と図書室に行くが、あの男子生徒はいない。
寂しい。
人がいないとこんなに寂しいものなのだろうか。
今まで味わったことの無い感覚。
男子生徒がいない間も、図書室から本を借りたり、本を読んだりした。
それがあの男子生徒との唯一の繋がりだと思っているから。
お風呂あがり自室にて、この前借りてきた読んでいる途中の本を手に取る。その時ふと気づいたことがあった。
あれ?そういえば名前も聞いていなかった。
会話なんてほとんどしなかったが、一緒に本を読んで、同じ時間を共有したあの男子生徒。
次来たら、名前くらい聞いとくのもいいかもしれない。
そう思いながらパジャマ姿の私は、今日も本を読む。
その男子生徒の事が頭によぎると、少し頬が熱い、気にしない。きっとお風呂あがりだからだろう。
その男子生徒の事が頭によぎると、口元が緩む、気にしない。きっとこの本がおもしろいからだろう。
そして、まだ読んでいる途中のこの本の栞を手に取り、続きを読み始める。
この小説を読んでいただいてありがとうございます。
この小説は2部構成といいますか、主人公を入れ替えて、男子生徒の目線で書いた小説と1対になっています。
それも近いうちに上げようと思います。
この小説と、アナザーの小説。2つみていただけるととてもうれしいです。
今回は読んでいただいて本当にありがとうございました。