009 メイド・イン・ヘブン学園
(……魔法の世界にも、テロはあるのか。人間の愚かさは無限大だな)
ルイは心の中で毒づく。前世からすれば奇跡でしかない魔術があっても、そこに人間がいる限り格差は生じる。虚しい話だ。
そうやってセンチメンタルになっているルイの元に、先ほど撃たれたはずのリリスが近づいてくる。
「ルイさん、まさか私が銃弾くらいで死ぬと思っていましたか?」
「思ってないよ。天使だもんな」
ルイの言葉に、平穏を取り戻しつつあった人々がざわつく。
「──天使だってよ。だから死ななかったのか」
「──天使が憑いているってことは、あの獣娘は転生者?」
「──獣娘の転生者なんて、聞いたことないぜ」
といった反応だった。ルイはやれやれ、と首を横に振る。
「分からないことだらけだけど、私は珍しい存在なんだな」
「そうね、かなり珍しいわ」
不意をつかれ、背後より声が聞こえた。
振り返ると、事情聴取に行ったはずのキャメル・レイノルズがいた。いつの間にか、警察署から戻ってきたようだ。背丈は150センチにも満たず、鋭い目つきを飛ばしている。近くで見ると、身体は引き締まって鍛えられており、年齢は10代前半のように見える。
「事情聴取、早く終わったんですね」
「顔パスよ。SAsPDも、私にいちいち調書を取るほど暇じゃないもの」
「大統領のボディガード、でしたっけ? その若さで」
「アンゲルスは実力至上主義。それに、現大統領は私の兄よ。私の実力を良く知ってるのよ」
「へェー。お兄さんが大統領なんですか」
「歳はだいぶ離れてるけれどね。さて、貴方は私の名前を知ってるようだけど、私は知らないわ。お名前は?」
キャメルは気品ある英語で、尋ねてきた。
「ルイです。転生者でもあります」
「だから、天使が憑いているわけね」
「そうみたいですね」
「まぁ良いわ。貴方、才能があるわね」
「才能」
「そう。銃を向けられても平然としていたり、高出力念動術式を操ったり……、ぜひとも〝メイド・イン・ヘブン学園〟に入ってほしいわ」
「メイド・イン・ヘブン学園?」
「貴方みたいな実力者を野放しにはできない。貴方に悪意や世の中をめちゃくちゃにしてやろう、という気はないかもしれないけれど、優れた魔術師は存在だけで不穏因子なのよ」
彼女は、ルイを見上げながら真剣な表情で言った。
キャメルの言ったことはもっともだった。もしも強力な魔術師が世界征服でも企めば、それだけで莫大な死者が出てしまう。そういった連中には、鎖をつけておく必要があるのであろう。
「なるほど。いわば収容所ということですか」
「そうでもないわよ? メイド・イン・ヘブン学園……通称MIH学園は、学校だけでひとつの街並みの規模がある」キャメルはスマホを取り出す。「アンゲルスは〝天使島〟という本島と、北大西洋に浮かぶ〝ピースランド〟で構成されてる。天使島はあまり大きな学校ではないけれど、ピースランドのほうは違う。学園が島の治安を守るくらいには」
「学園が治安を守る?」
「そう。ピースランドにはおよそ300万人が暮らしてて、MIH学園の生徒は10000人ほど。MIHの中でのエリートは皆、ピースランドの分校に行くのよ」
「へェー。MIH学園の生徒たちがどれくらい強いか分からないけど、300万人の治安を守るほどだから、きっと強いんでしょうね」
「ま、伸るか反るかは貴方次第よ。ちなみにピースランド分校に行くのなら、相応の入学金を支払うわ。貴方が授業料等を支払うんじゃなくて、学校が貴方にお金を払うのね」
奇妙な話もあったものだ。前世では、大学に入りたいが故、生徒と親が学校にカネを包むことはあったらしいが、キャメルの提案はまさかの逆だった。




