007 ホテル占拠事件
魔術の国らしく、気温すらも魔法で変えられるらしい。
ただひとつ、疑問に感じる。アンゲルスが魔術の国なのは分かったが、海外でもその傾向があるのか。
「ミンティ、イギリスやフランス、ドイツ辺りでも魔術ってあるのか?」
「あるにはあるが、ほとんどの連中は使えない。もう忘れ去られてるくらいには。けど、アンゲルスは〝アンゲル教〟という、ヒトへ魔術を発現させる教会があるからな」
「アンゲル教」
「街を良く見てみろ。教会がたくさんあるだろう。15歳以上の全市民は、あそこで〝祝福〟を受けるのさ」
ミンティの言う通り、古めかしい教会が何個かあった。新教か旧教か知らないが、少なくともこの国にはアンゲル教という宗教が根付いているようだ。
「アンゲル教はアンゲルスの国教で、信者率は99パーセントを超える。もっとも、かなり世俗化が進んでるから、熱心な信者はなかなかいないけどな」
そこに割り込んできたのは、やっぱりリリスだった。
「アンゲル教!? 堕落した人間の宗教ではありませんか!! 悪魔の力を振るう、神を冒涜したとしか思えない宗教です!」
ミンティが呆れ気味に言う。「だからなんだよ。なーンもしてくれない神様より、力をくれる悪魔のほうがありがたいだろ」
「貴方には信仰心が全くありませんね!! ルイさん、こんなヒトとは離れたほうが良いですよ?」
「悪いけど、私が元いた日本では宗教観念が全くないのでね。ハロウィンを祝い、バレンタインはチョコレート、神社にお参りに行き、墓は寺にある。だから正直、アンゲルスは良い国だと思う」
日本生まれ日本育ちとしては、一神論というものが信じられない。八百万の神とは、良く言ったものだ。
そうして会話を交わしていると、ルイたちはホテルにたどり着いた。
「随分豪華なホテルだね」
「3億メニーの値札がついてる以上、役所側も配慮したんだろ」
五つ星ホテル、といえば良いのだろうか。天まで届きそうなホテルには、高級車が次々と駐車場へ向かっている。内装もきっと豪華に違いない。
「んじゃ、おれは家に帰るから。……と思ったけど、スマホがないのか。良いや、あしたの朝10時頃ホテル前に行くよ。説明したいことは、色々あるし」
「あぁ、ありがとう」
ルイとミンティは拳を合わせた。銀髪獣娘はホテルの中へ入っていく。当然のようにリリスが着いてくるが、お付きの天使なので致し方ないのだろう、とルイは嫌味も言わない。
正門からホテルに入り、ルイは思わず目を見開く。
大理石の地面と、シャンデリア、広々としたラウンジ。
しかし、それは大した問題でない。ホテルの従業員や客が全員地面に伏せていたのだ。それはつまり、なにか事件が起きたというわけである。
「紳士淑女の諸君!! ここは我々〝クーアノン〟が占拠した!! 全員伏せろ!! ──ん?」
当然ながら、ルイとリリスは伏せていない。クーアノンのひとりは、ルイにアサルトライフルを向けた。
「伏せろ、というのが聞こえねェのか!?」
銃口を向けられている以上、ルイは伏せるしかない。なにか突破口があれば良いものの、先ほど使った超能力みたいな現象を再現できるとも限らない。
そうしてルイが伏せた頃、リリスは馬鹿なのかそれとも正義のためか、ライフルを向ける男に詰め寄っていく。
「テメェ!! それ以上近づいたら撃つぞ!?」
「愚かなヒトの子よ。そのおぞましい道具をしまいなさい。さもなければ──」
リリスは、ある意味当然だが撃たれた。彼女は仰向けに倒れ込む。
「今ので分かっただろ? おれらは本気だ。よし、各々カネを出せ」
一文無しのルイは、口を尖らせた。




