006 人殺しの重たさ
「え……ッ」
ルイの思考が、止まった。車の下敷きになれば、まず生きていないからだ。
そんな硬直するルイの元に、ミンティとリリスが駆けつけてくる。
ふたりの態度は対照的だった。
「やるじゃん。やっぱり、危機的状況になると魔術は開花するんだな」
「ルイさん!! 人殺しは大罪です!! 貴方は取り返しのつかないことをしたのですよ!?」
その言葉も届かないくらい、ルイは呆然としていた。そんなルイを見かねたのか、ミンティが言う。
「大丈夫。せいぜい過剰発現だ。それに、おれの父さんは大統領だから、いくらでももみ消せる」
慰めとは思えなかった。ルイはなおも黙り込み、両手を見つめる。
「ヒトを殺すために、魔力を与えたわけではありません!! 良い行動のために、魔力を与えたのですから!!」
別に殺したくて殺したわけではないのに、リリスは説教してきた。〝天使〟だけあって、ヒトの気持ちが分からないのかもしれない。
「オマエもう黙ってろ。さて、警察が駆けつけるまで、そこで座っていよう」
「あ、あぁ……」
ようやく、鳴き声のような言葉が出てきた。
レールの上に、ルイとミンティは腰掛ける。
「どうせスパイスの所為でおかしくなったヤク中だし、銃乱射してたのも事実。だからあまり気にするな。ただまぁ、魔術の制御は覚えたほうが良いかもな」
ミンティはタバコを取り出し、ルイに差し出す。ルイが断ると、彼はそれに火をつけた。
「ふぅー……。そうだな。魔術を抑える方法としては、学園に入るのが手っ取り早いな」
「……学園?」
「アンゲルスには、魔術と一般教養を学べる学園がある。おれが行ってるのは、メイド・イン・ヘブン学園ってところだ。通称MIH学園。世界最高峰の魔術師学園でもある」
中身34歳が、果たして学生の雰囲気についていけるのか。いや、そもそもヒトを殺してしまった事実から逃れることはできるのか。
「暗い顔するなよ。この国じゃ、発砲事件や魔術犯罪なんて日常茶飯事だからな。週末、そういう事件が起きなかっただけでニュースになるほどだし」
「……随分おかしな街だな」
「アンゲルスは、チャンスと暴力の国だ。アンタがどの国から来たかは知らんが、暴力は身近にあると思ったほうが良い」ミンティは警察車両を捉える。「さて、事情聴取の時間だな。洗いざらい話してこい」
「……分かった」
*
事情聴取は、あっさり終わった。どうも、正当防衛で終わるらしい。銃を向けられていたので、それに対処したらたまたま犯人が死んでしまった……という筋書きだ。
警察署から出て、ルイはミンティとリリスがいるのを知る。
「よう。正当防衛だったか?」
「そうだな」
「人殺しに正当防衛もなにもありません!! 貴方、罪を犯した自覚があるのですか!?」
「うるせェな。もしもオマエが人間だったら、ただ黙って撃たれて死ぬのが正解だと?」
「そ、それは……」
「オマエは天使族だから、撃たれたくらいじゃ死なない。でも、ルイは死ぬぞ。もう少しヒトの気持ちを理解すべきだろ」
「そう思うよ」
ミンティとリリスは険悪のようだった。ミンティはルイの擁護してくれるので、自ずと獣人少年のほうにつきたくなる。
「さて、もう夕暮れだ。ルイは指定のホテルへ向かったほうが良いぞ。アンゲルスは、15歳以下の子どもは、7時以降単独で外出禁止だからな」
「分かった。ちなみに、ここからホテルってどれくらいだ?」
「30分くらいだな」
「なら、歩いていくか」
ルイとミンティ、リリスは、指定のホテルまで歩いていく。
「しかし、不思議な街だな。アメリカのロサンゼルスみたいなのに、空気はひんやりしている」
「観光客の書き入れ時は、魔術で暖かくなるからな。今は3月だから、7月くらいになればびっくりするくらい暑くなるぜ」




