003転生者狩り
先ほど吸ったタバコは、匂いこそ気になるものの美味だった。
1日30本紫煙に巻かれている身としては、タバコが買えないのは致命的だ。
「だから、タバコなんて吸っちゃダメです! 貴方今、13歳の少女なのですよ?」
リリスはある意味当然な忠告をしてきた。
「けど、俺は転生前成人だったぞ? なら良いんじゃないのか?」
「それはそうですが……とにかく、タバコは駄目です!」
「どう思う? ミンティ」
「おれなんか15歳から吸ってる。だから、人のこと言えないよ」
「なら、届け出を出すべきだな。質問に戻るけど、どこに届け出を出せば良いんだ?」
「ここらだと、サウスAs市の役所じゃね? おれが案内するよ」
「ありがとう」
それに反対するのは、リリスだった。
「いけません、ルイさん! 届け出を提出するのは結構ですが、タバコなんて吸ったらきれいな肌がボロボロになりますよ? せっかく美形の獣娘になれたのに!」
「なりたくて獣娘になったわけじゃないんで」
一刀両断した。
「そ、それでも……」
「ミンティ、行こう」
「あぁ」
リリスを無視し、ルイとミンティはミンティの指示のもと、サウスAs市の役所へ向かうことにした。
*
あれから10分ほど歩き、ルイとミンティにリリスまでついてきた。
リリスは『タバコなどいけません』と言うばかりで、まともなコミュニケーションが取れない。
ミンティは寡黙なのか、特に何かを喋ることはなかった。
「随分豪華な役所だな」
中世ヨーロッパの城みたいな役所に、ルイもやや戸惑う。
ミンティはジト目で役所を見つめる。
「全くだよ。どれだけ税金を費やしてるんだか」
「ともかく、ここで転生者だと証明できれば良いんだろ?」
何かのデモを行う者たちの間を通ろうとするが、ルイは肩を叩かれた。
おそらくデモ隊の誰かだろう。
「貴様ァ! 獣人だな!」
「そうみたいですけど」
「獣人は人間を堕落させる!」
「我々アンゲルス人が繁栄するには、貴様のような獣人は不必要だ!」
(何言ってるんだ、こいつ)
と思ったのは、ルイだけではなかったらしい。
ミンティが、キレ散らかすデモ隊のひとりに、煽り口調で言う。
「自分の努力不足を棚に上げて、獣人を追い出そうとしてるの? へッ、情けねェな」
ミンティの言葉は、他のデモ隊にも聴こえていたらしく、
「なんだとォ!?」
その言葉とともに、デモ隊は一斉にルイたちへ目を向ける。
これは困った、とルイは眉をひそめるが、次の瞬間には──
デモ隊の連中は糸が切れたように地べたへ這いつくばっていた。
「〝レクス・マギア〟も使えねェのかよ。さすが〝クーアノン〟」
専門用語が立ち並ぶ中、ミンティは倒れたデモ隊を超えていく。
それに続き、ルイも歩みを進めた。
「み、ミンティさん。レクス・マギアを使ったのですか?」
リリスの顔がこわばる。
「あぁ。相手から魔力を奪い取る術式だな。魔力を奪われるのは、体力を失うのと同等だからな」
ミンティは豪華な役所の正門を指差す。
「さて、さっさと登録を済ませておけ。ルイ」
「あぁ」
ルイは正門に入る途中、リリスに声をかけられた。
「あ、あの。レクス・マギアが怖くないのですか?」
「怖いよ。魔力という体力を引っこ抜いてしまうんだろ?」
「恐ろしい話だね」
「その割には、驚いているように見えませんが!?」
「まぁ、なんとなく興味を感じないんだよ。五体満足だし」
「……貴方は、このアンゲルスの中でも最高レベルのメンタルを持っていますね」
「メンタルが強くなきゃ、過労死ラインの仕事に耐えられないよ」
そう適当に流し、ルイは役所の受付にて、流暢な英語で、
「転生したようなのですが、どこにどんな申請すれば良いのでしょうか?」
と、カウンターに尋ねた。




