024 〝ビースト・マギア〟
「ぎゃぁああああああッ!!」
悲鳴を張り上げながら、ルイは地面に横たわる。身体を左右に蠢かせ、口からも吐血していた。
「ルイッ!!」
ミンティは咄嗟にルイの元へ駆け寄ろうとするが、
「危ねェッ!!」
背後を見せたミンティを斬ろうとした老人の間に、リヒトが入る。彼もまた刃を喰らい、その場に倒れ込んでしまった。
「……全く、最近の若いもんは弱いな」
老人は、低く冷たい声色で、そう呟いた。ミンティは顔を強張らせ、恐怖のあまり地面にへたり込んだ。
「これでは、まるで張り合いがない。さて──」
老人がへたり込むミンティに近づき始めた途端、
ドスン……、と像の足音みたいな音が聞こえた。
「……張り合いがない、ねェ」
先ほど刃で斬られたはずのルイが……ルイなのか? 銀髪は変わりないが、身体の周りに電流のような現象が奔流し始めていて、身体は一回り大きくなっている。髪の毛も伸び、碧い目は光り輝いていた。
「〝ビースト・マギア〟だ……」
ミンティはそう呟く。獣人の進化形態であり、危機的状況にそれは開花する。それに、ヘビに睨まれたかのように、濃度の高い魔力が、ビースト・マギアであることへの裏打ちになっている。
「……ほう」
老人は、目を細めて笑った。
「さすがは獣人といったところか。だが、この私に敵う見込みでも……あるのかァ!!」
「いいや……勝つ未来しか見えないね!!」
赤い魔力をまとった右手と、刀がぶつかり合う。街路樹が吹き飛び、トラックがおもちゃのようにどこかへ跳ねていく。辺りのビルの窓ガラスが割れて、いつの間にか集まっていた野次馬たちも、レシートのごとく空へ舞った。
「す、すげェ……」
バチバチバチッ!! と轟音が響く中、ルイは左手で老人の首を掴む。
「グッ!?」
そのまま、首をへし折る勢いで力を込める。
しかし、老人もただではやられない。彼は刀を一旦空へ放り投げ、魔力を右手から放つことでその場より離脱した。
刀を拾い直し、老人はルイにそれを向ける。
その刹那、
ルイは、目で捉えるのが精一杯な速度で老人との間合いを一気に狭める。
老人が目を見開く中、ルイは右手の指を立てて彼の心臓を貫いた。
「ぐ、はぁ……!!」
心臓が穿かれ、老人は絶命した。
*
「……ハッ!?」
それから3時間後、ルイは目を覚ました。昼の太陽光が、ルイを照らす。
直ぐ側にはミンティとコートがいた。ミンティの猫らしい太陽の匂い、コートのボディーソープとシャンプーの匂いが鼻をかすめる。
また、病院特有の匂いがした。どうやら、ルイは病院に担ぎ込まれたようだ。
「一体、なにが……」
「動くな。傷が塞がってねェのに」
「ミンティ、コート……一体なにがあったんだ?」
「覚えてないんですか?」
「あぁ……。さっぱりだ」
「反体制派の老人が、ミンティさんを拉致しようと僕らを襲ったんですよ。どうも、ミンティさんの身柄と引き換えに大統領職の退陣を狙ってたようです」
「けど、父さんはおれが拉致されたくらいじゃ動じない。最初から見当違いも良いところだったわけだ」
「そうか……。その老害を、おれは倒したのか?」
「あぁ。ビースト・マギアでな」
「どこかで聞いたことあるな、ビースト・マギア」
「獣人にしか使えない、奥義みてェなもんだよ。おれですら使えたことねェけどな」
ミンティは、少しムスッとした態度だった。最前攫われかけていたのに、随分呑気だと感じる。
「ところで、MIH学園の入学試験は?」
「そういえば、入学試験を受けるためにリヒトさんを呼んだんだったな。まぁ、あれだ。大統領の息子を救った功績で特別に入学できるだろ」
「そういうもんかね……?」
「そういうもんだよ」
傷口は、まだヒリヒリ痛む。
ひとまず、ある程度入院する羽目になりそうだ。




