021 いざMIH学園へ
「ドライヤー使えよ」
「あとでします。......少し、話していいですか?」
「まぁ」
コートはルイの隣に座った。窓の外の夜景を、ふたり並んで見る。
「MIH学園に、入るつもりはありますか?」
「検討中だ」
「僕も入りたいです」
ルイはコートを見た。「オマエ、年齢が14歳だったよな」
「はい。MIHに入れる年齢ですよ」
「実力は?」
「音爆しか使えません。でも、学べる環境があれば、もっとできると思います」
「自信家だな」
「そうでもないですよ」コートは膝に視線を落とす。「ただ、生きていくためには、強くならないといけないと思っています。ここはそういう国だから」
ルイはしばらく黙った。
「......そうだな」
アンゲルスは、チャンスと暴力の国だ。ミンティがそう言っていた。強い者が生き残り、弱い者は踏み台になる。前世の日本も似たようなものだったが、こちらはより露骨だ。
「なら、一緒に入るか」
「……本当ですか?」
「あぁ。どうせならキャメルに話をつけてもらって、ふたりまとめて入れてもらう。ミンティもいるから、知り合いがいない心細さもないだろ」
コートは少しの間、黙っていた。
それから、また口角を少しだけ上げた。
「......ありがとうございます」
「礼はいらない」
「でも言いたいんです。ルイさんがいてくれて、助かっています。今日だけじゃなくて、たぶんこれからも」
ルイは窓の外に目を戻した。摩天楼の灯りが、夜空に溶けている。
「大袈裟なヤツだ」
「大袈裟じゃないですよ」
「......まぁ、好きにしろ」
コートは「はい」と静かに答えた。
外では風が吹いていた。3月のアンゲルスは寒く、街を行き交う人々はコートの衿を立てている。
それでもルイは、この夜景が悪くないと思った。
34年間、こんなふうに思ったことはなかった。
(一回死んでみるのも、悪くないかもしれない)
睡眠薬なしで眠れた昨夜のことを思い出しながら、ルイはそっと目を閉じた。
明日、キャメルに連絡しよう。
MIH学園への入学を、受けてみようという旨を。
*
そうして迎えた次の日。ルイは、ミンティにキャメルの連絡先を聞いてみる。
「なぁ。キャメルの連絡先を知っているか?」
「あぁ。一応叔母だからな」
「キャメルって、大統領の妹なの?」
「そうだよ。おれの父さんは35歳で、キャメルは17歳。叔母っていうには年齢差がねェけど、まぁそう言うしかないわな」
「へェー。ややこしいな」
「ま、ほとんど姉だと思ってるよ」ミンティはスマホを取り出し、ルイのそれとかざし合う。「これがキャメルの連絡先。後は自分らで話してくれ」
「はいよ」
ルイは、キャメルに電話をかけた。
『誰かしら?』
「私です。ルイです」
『あぁ、ルイちゃんね。もしかして、MIH学園に入る決心ついたの?』
「そうですね。ただ、いくつか聞きたいことがありまして」
『なにかしら?』
「まず、どんな試験を受ければ良いんですか? 筆記試験か、魔術でも測定するのか」
『そうね。私が推薦すれば、試験はパスできるわ。だからあまり気にしなくて良いわよ』
「ありがとうございます。あと……なんて言えば良いのかな。もうひとりMIH学園に入りたいって子がいるんですが」
『どんな子?』
「コートって名前で、孤児です。たまたま私が見つけて保護しました」
実際は、ルーシの指示で児童売買を襲撃したら、勝手についてきただけだが。
『その子はおそらく、私の権限でパスできないわね……。魔術試験か、筆記試験は必須だと思うわ』
「分かりました。本人にどちらのほうが良いか、聞いてみます」
一旦電話を保留し、ルイはボーッとテレビを見ているコートへ尋ねる。
「なぁ。MIH学園に入るには、筆記か魔術試験のどちらかをパスしなきゃならないんだと。どっちのほうが良い?」
「僕、簡単な文字しか読めないんですよね。だから、魔術試験のほうが良いです」
「そ、そうか」
ほとんどひとりで過ごしてきたというくらいだから、文盲でもおかしくはない。仕方ないので、ルイは保留を切ってキャメルへ伝える。
「魔術試験のほうが良いそうです」
『分かったわ。ちなみに、何歳かしら?』
「14歳ですね」
『中等部の魔術試験なら、そんなに難しくはないわね。その子の健闘を祈るわ』




