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元おじさん獣娘の異世界無双録-規格外の魔力で好き勝手生きる-  作者: 東山スバル
第一章

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20/24

020 悪いものじゃない

「私は天の力で動いているので、食事は必要ないのですよ!!」

「だったら注文するな。場所を無駄に使う」

「それでも、私は食べたいのです!」


 ミンティとリリスの不毛なやりとりを横目に、コートが静かに言った。


「ルイさんって、前世ではどんなヒトだったんですか?」

「......なんの変哲もない会社員だよ。ブラック企業で、給料は薄く、有給は使えず、毎晩タバコを吸いながら寝るだけの人生だった」

「それは......大変でしたね」

「まぁな。でも、私以上に大変だったヤツなんて腐るほどいる。だから、そこまで同情されることでもない」

「それでも、大変だったと思います」


 コートは淡々と言った。その言葉には余計な色がなくて、ルイは悪い気がしなかった。


「オマエは? この世界の生まれなのか?」

「そうです。この街──ウェストAs市の出身です。産まれた場所は、たぶんここから5キロほどのところにある産院だと思います。記録があったので」

「施設にいたんだったな」

「はい。でも、意外とつらくはなかった」コートは少し考えてから続けた。「つらくなったのは、施設がなくなってから。ひとりになって、初めて怖いと分かりました」

「そうか」

「ルイさんは、ひとりが怖かったですか?」


 ルイは、少し間を置いた。


「怖い、というより......慣れすぎていたな。ひとりが当たり前になると、誰かと一緒にいることのほうが不思議に感じる」

「今は?」


 ルイはミンティたちを見渡した。ミンティはパスタを食べながらスマホを見ている。リリスはオムライスを不満げに突いている。コートはルイを見上げている。


「......まぁ、悪くないかな」


 コートはそれを聞いて、小さく笑った。口角がほんの少しだけ上がる程度の、地味な笑みだったが。


 *


 食事を終えて、ルイたちが定食屋を出たとき、

 見知らぬ女が待ち構えていた。


 30代くらい、目つきは鋭く、スーツを着こなしたアンゲルス人。黒髪を後ろで束ね、胸元にバッジをつけている。


「立山ルイさん、ですね?」

「そうですが」

「SAsPD、サウスAs市の警察です。少しお話を伺えますか?」


 ルイはミンティを横目で見た。ミンティは小さく首を振った。「任意だな。断れる」という意味だろう。


「任意ですか?」

「えぇ、任意同行です」

「なら、今は遠慮しておきます。弁護士もいないので」


 女刑事は眉一つ動かさなかった。


「昨夜のサーカス場の件です。貴方の関与が確認されています」

「証拠は?」

「......今のところ、状況証拠だけです」

「なら、お断りします」


 ルイはそのまま歩き出した。刑事は止めなかった。ただ、去り際に一言だけ言った。


「転生者だからといって、なんでも許されるわけではありませんよ」


 ルイは振り返らず答えた。ニヤッと、口角を上げて。


「全くもって、その通りですな」


 *


 夜、ホテルの部屋に戻ったルイは、ひとりで窓の外を眺めた。コートはシャワーを浴びている。リリスは早くも夢の中だ。


 スマホには、ルーシとミンティとキャメルの連絡先が入っている。転生してまだ2日しか経っていないのに、気がつけばそれなりの人間関係ができていた。


「変な話だ」


 ルイは呟いた。


 前世では、34年間生きて、友と呼べるヒトがいなかった。名刺交換した相手は何十人もいたが、プライベートで連絡を取り合う相手はゼロだった。


 それなのに、ここでは出会って1日も経たないうちに、ミンティにタバコをもらい、ルーシに仕事を振られ、キャメルに学園を薦められている。


「......転生って、案外悪くないな」


 声に出して言ってから、自分でも驚いた。


 そんな感情を抱くとは、思ってもみなかったからだ。


「ルイさん」


 バスルームから出てきたコートが、濡れた黒髪のまま立っていた。

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