002 獣娘・ルイ
「覇気のない顔、か。良く言われるよ」
その獣人少年は、茶髪のもじゃもじゃヘア、鋭い目つき、猫耳を持ち、背中から臀部にかけて尻尾が生えている。
彼はルイにタバコを差し出してきた。
「良いのか?」
「アンタ、喫煙者だろ?」
「とりあえず脳にニコチン入れて、頭の中をすっきりさせたほうが良いと思うぞ」
「そうか。ありがとう」
ライターも貸してもらい、ルイは一服する。
「……タバコはこんなに臭いものだったのか」
「獣人は嗅覚が良いからな。喫煙率も5パーセント以下だ」
とはいえ、貰ったのなら吸うのが礼儀だろう。
ルイはどこかぼんやりした顔で、紙巻きタバコを吸う。
「で、アンタ転生者だろ?」
「そのようだな。おれ……私は転生してしまったらしい」
「お付きの天使とかいねぇの?」
「天使? いないな」
「いや、近くでアンタのことを見張ってるはず。転生者には、天使が必ずついてくるからな」
そう言った獣人少年は、辺りを見渡す。
彼は〝天使〟とやらを見つけたのか、公園の森林に向かっていった。
「ふぅ……」
タバコが3分の2くらい吸い終えた頃、獣人少年はやたらと露出の多い女を連れてきた。
髪色はピンク。ナイススタイル。顔立ちは、今まで見てきたどんな女性よりも整っている。
そんな彼女は開口一番、
「10代前半の子がタバコなんて吸ってはいけません! これは没収です!」
「いや、もう吸い終えているんだけど」
ルイはフィルターまで届くほど、タバコを味わい尽くした。
獣人少年が携帯灰皿を出したので、「ありがとう」と伝えて、そこに吸い殻を捨てた。
「で? アンタはこの獣娘に何の説明もしてないわけ?」
獣人少年はそう言った。
「そ、説明をしていないわけないでしょう? 私は天使ですよ?」
「へぇ。じゃあアンタ、アンゲルスがどういう国か知ってる?」
獣人少年はルイに向き直った。
「さっぱり知らないね」
見知らぬ土地なので、知らないほうが妥当だ。
「だろうね。さて、天使様。この転生獣娘に説明しろよ」
獣人少年は、やや語気を強めてピンク髪の翼が生えている女に言う。
「た、確かに説明義務は果たしていませんでしたが、これはルイさんのことを観察していたからであって……」
「ルイっていうんだ。おれはミンティ。よろしく」
ミンティには取り付く島もない。彼は続ける。
「ここはアンゲルス連邦共和国という国家で、時折転生者が現れる街」
「ほとんどの場合、転生者は天使から強力な魔術をもらえて、それが国家の発展に大きく関わってくる」
「そうか。でも、私にチートみたいな魔術とやらはないぞ」
「そこは天使様が説明してくれるさ」
ようやく会話に参加できたピンク髪の女は、
「ルイさんには、膨大な魔力と獣人特有の身体能力の高さを付与しました!」
「私たち天使は、人間にそういったものを付与できるので!」
「へえ。猫みたいに速く走れたり、ある程度高いところから降りても受け身が取れたりするわけか」
「そうです! しかし重要なのは、貴方には強力な魔力があることです!」
「魔力? ゲームじゃあるまいし」
ミンティが口を挟む。
「いや、ルイ。この世界の住民は、大なり小なり魔力を持ってる。それを消費することで、魔術が使えるんだよ」
「なるほど。魔力がなければ、魔術とやらは使えないのか」
「そーだね」
「ところで、天使様のお名前は?」
「リリスです! 天使歴は人間換算で3年目の駆け出し者です!」
「そうか。ちなみに、さっき店員に転生者登録をしたらタバコも買えるって言われたけど、それってどこで行うの?」




