019 〝生き続けてほしい〟
それから一行は携帯ショップへと向かう。
「以上になります」
スマホの契約は、意外とあっさり終わった。
評定金額を担保にすれば良いらしく、転生者証明カードを見せると窓口の担当者も手慣れた様子ですぐ手続きを進めた。ルイはシンプルな黒いスマートフォンを手に入れ、コートにも安価なものをひとつ買い与えた。
「ありがとうございます」
「礼はいらない、と言っただろ」
「でも言いたいんです」
ルイはため息をついた。
街は今日も賑わっている。ウェストAs市の大通りは、前世の銀座や新宿に見劣りしない活気があった。が、そこかしこに防犯カメラと武装した警察官がいるのは、やはり物騒な国らしい。
「ミンティ、ひとつ聞いて良いか」
ルイは並んで歩きながら尋ねた。
「なんだ」
「MIH学園は、入学するのに試験があるのか?」
ミンティはちらりとルイを見た。
「ある。ただし、魔術師としての実力試験だから、一般入試とはかなり違う。それに、一応叔母のキャメルが推薦を出すなら、試験免除になるケースもある」
「そうか」
「入ることにしたのか?」
「......検討中」
「珍しくはっきりしないな」
ルイは正直に言った。「学校というものが、あまり好きではないんだよ。前世でもさんざん嫌な思いをした」
ミンティは少し間を置いて、「そうか」と返した。
「おれも最初は嫌だったよ。MIHは学校というより、修羅場の詰め合わせだからな。一日に何度も、学内で血が流れる」
「それは穏やかじゃないな」
「けど、ひとつだけ言える」ミンティはタバコに火をつけ、紫煙を吐き出した。「あそこには、おれみたいなヤツが大勢いる。行き場のないヤツ、捨て鉢なヤツ、くたびれたヤツ。だから、変に馴染めないとも思わない」
ルイはそれを聞いて、黙って前を向いた。
(くたびれたヤツ、か)
34年間、ずっとくたびれていた。疲弊した身体で、気力のない顔で、タバコだけを友達に生きてきた。そのくたびれたおじさんが、今は銀髪の獣娘になっている。
不思議な話だ。
「考えてみる」
「そうしろ。期限は、まぁキャメルが決める」
ミンティはそれだけ言って、歩みを速めた。
そのとき、ルイのスマホが鳴った。ルーシからだった。
『よう。スマホ、ちゃんと手に入れたんだな』
「さっき契約した。なんだ?」
『急ぎでもないんだがな。昨夜の仕事のこと、警察に掴まれた可能性がある。一応、気をつけておけ』
「SAsPD、買収されてるんじゃないのか?」
『全部が全部そうじゃない。何割かは、まともな警官だよ』
「なるほど」
『ただ、クーアノンの犯罪自体は周知だから、正当防衛として処理される可能性も高い。まぁ、念のため、な』
「分かった」
電話を切ると、コートが隣から覗き込んできた。
「ルーシさんですか?」
「そうだ。知ってるのか?」
「名前だけ。この街では有名です。大統領のフィクサー的存在で、しかも転生者。怖いヒトだと思っていましたが」
「怖いっちゃ怖いけど、付き合いやすいヤツだよ」
コートは小さく「そうですか」と言って、また前を向いた。
その横顔を、ルイはちらりと見た。
感情が分からなかった。自分のことを好きだと言うコートに対して、どう返せば良いのか。前世でも、人間関係は不器用なほうだった。
ただ、ひとつだけ分かることがある。
(この子には、生き続けてほしい)
それだけは、はっきりと思った。
*
昼過ぎ、ルイたちは適当な定食屋に入り、各々好きなものを頼んだ。ルイは白身魚のフライとライス、コートはシチュー、ミンティはパスタ、リリスはデザートのケーキだけ注文しようとして、ミンティに「ちゃんとした飯を頼め」と怒られてオムライスになった。
「なんで、きちんとした飯を頼まないといけないんですか」
「天使とはいえ、栄養は大事だろ」




