017 〝僕は、貴方のことが好きです〟
「これで自由だ。好きに生きれば良いさ」
死体が転がる現場にて、ルイは売買されかけていた子どもたちにそう言う。
「あ、ありがとうございます」
人数は4人。そのうちの3人は、一目散に逃げていった。
ところが、ひとりだけその場から動かなかった。ボサボサの黒髪・碧い目・小汚い服装・覇気のない目つき・痩せっぽちの身体……そんな少年だ。
「どうした? もう自由なんだぞ」
「自由って、なんですか?」
いきなり難しいことを聞いてきた。ルイは鼻を鳴らす。
「なんだろうな。ひとつ言えることは、それくらい自分で考えろ、ってことくらいかね」
「なら、僕はお姉さんについていきます。それも自由でしょ?」
「はァ?」
「自分で考えた結果です。これからどうするんですか? お姉さんは」
「どうするって……敵の応援が来る前にずらがるかな──」
ダッダッダッ、と足音が聞こえた。随分早い追手だ、と思いつつ、ルイはアサルトライフルを構える。
「僕も闘います」
「闘えるのか?」
「音を破裂させる術式なら、使えます」
「音を破裂させる?」
「はい」
少年は淡々としていた。
そして、
追手が、一斉に銃を構えてルイを撃ち抜こうとする。
弾が放たれる直前、ルイは遮蔽に隠れようとするが、
少年は、その場から一歩も動かなかった。
ルイは訝るが、なぜそうしたかすぐ理解できた。
銃弾が放たれる──つまり銃声音が聞こえた瞬間、それはバコンッ! と小気味良い爆発をした。
「へェ……」
ライフルや拳銃は、見事に使えなくなった。それどころか、銃弾を放った者たちは爆発の所為で腕がえぐれてしまった。
「ぐあッ!?」
「な、なにが……ッ!!」
「クソォ!!」
その隙を見計らい、ルイは連中の身体を操作して、内蔵を破裂させた。ぶしゃッ、とグロテスクな音が響くと、男たちは息絶えるのだった。
「まだまだやってきそうだな。さっさとずらがろう」
魔術を使わない辺り、〝クーアノン〟系列の連中らしい。ルイは少年の手を引っ張り、走りながらルーシへ電話する。
「迎えの車、よこせ。今追われている」
「知っているよ。そこの角を曲がったところに、逃走用の車と運転手を用意してある」
ルーシの手際は良いようだ。実際、角を曲がったところには、黒塗りのSUVが停まっていた。ルイと少年はそれに乗り込み、即座に車は発車した。
ルイは息切れを起こす。「はぁ、はぁ……」
少年に至っては、元々の体力不足の所為なのか一言も発せず、半ばフルマラソンを走ったかのように息切れしていた。
車は、ルイとリリスの泊まるホテルへと向かっていく。
*
息切れも収まり、ルイと少年は車から降りた。
少年は、豪勢なホテルに息を呑む。
「こんなところを、隠れ家にしてるんですか?」
「あぁ、私は転生者だからさ」
「獣人の転生者なんて、珍しいですね」
「良く言われるよ」
ふたりはホテルの一室まで戻り、ソファーに腰掛け一旦落ち着く。
リリスはいまだ寝ていた。ルイより早く寝たのに、ルイより遅くまで寝ているのは、天使として如何なものだとも思う。
「あの、この方は?」
「天使のリリス。私の監視役ってところだな。ところで、オマエの名前は?」
「僕は……コートです」
「そうか、コート。腹減った?」
「はい。でもその前に……」
「なんだ?」
「僕は、貴方のことが好きです」
奇妙奇天烈摩訶不思議。ルイは転生2日目にして、少年から告白されてしまった。
「……オマエ、好きって言葉の意味分かってる?」
「分かってます。分かってるから、好きだって言ったんです」
筋肉らしい筋肉がない、それなりに顔立ちの整った少年は、大胆にそう言い放つ。
「あぁ、そうかい。ならひとつ聞くぞ。オマエ、なんで私が好きなんだ?」
「ふたつあります。ひとつ目は、僕を救って〝人間扱い〟してくれたからです。そしてふたつ目は……、貴方が僕と同じ〝死にたい〟目をしていたから」




