013 外道を殺しても痛む良心はない
トンデモ国家に転生してしまったようだ。ルイは思わず鼻を鳴らしてしまう。
「安寧のためには、やっぱり暴力の倫理ってわけね」
「そういうこった。平和を維持するには、それ相応の努力が必要だからな」
「その割には、クーアノンっていう変な連中がいるけど」
「アイツらは魔術も使えなければ、インターネットで真実を得てしまった哀れな無能どもだよ。連中は本気で魔術のない世界を目指しているようだが、そんなことは不可能だ。アンゲルス総人口の6割が魔法を使える以上、アイツらの言っていることが荒唐無稽だと分かるだろ?」
ルーシは、少女とは思えない落ち着いた声色でそう言った。
「じゃあ、クーアノンはなにを目指してるの? アイツらも、全魔術師を打倒できるなんて思ってないでしょ」
「今、アンゲルスは大統領選挙を控えている。現大統領、私の父の対抗馬が連中を動かしているのさ」ルーシは3本目のタバコを咥えた。「6割がなんらかの魔術を使えるとはいえ、中にはほとんど一般人と変わらないヤツもいる。ソイツらがシンパになれば、対抗馬のおっさんは選挙で勝てるだろ?」
「魔術師だからと、一枚岩ではないんだ」
「そうだな。さて……、ルイ。周りにヒトが集まっているのが分かるか?」
「え?」
ルーシはルイの背後を指差す。
そこには、拳銃やらナイフを持った連中がいた。黄色いバンダナマスクとサングラスをつけた彼らは、どうもルイとルーシを襲うつもりらしい。人数は50名ほどか。
「おそらくだが、警察を買収したな。こんな格好で街を歩いていたら、さすがに足止めされるだろうし」
「随分落ち着いているね」
「オマエもな」
そんな軽口を叩き合い、ルイとルーシは背中合わせに敵と対峙する。
「〝SHA〟を打ってやがるな」
「SHA?」
「身体能力を強化する劇薬だよ。言語能力すら一時的に奪うが、その分──」
敵のひとりが、ナイフを目にも止まらぬ速度で振った。
すると、
ルイの頭上に、カマイタチのような現象が発生した。それは雑居ビルの壁をえぐり取る。
喫煙していた市民が全員捌け、いよいよ勝負が始まる。
「ナイフ一振りで〝飛ぶ斬撃〟すら起こしちまう。ルイ、半分は任せたぞ」
「うん」
正直、いまだにルイは自分の魔術を理解していない。だが、やるしかない。銀髪獣娘は構える。
狩人のように、クーアノンが詰め寄ってきた。凄まじい速度だ。しかし不思議と、ルイに焦りはなかった。
「……!?」
ルイは、手を緩やかに動かし、ハンターのような敵数名を地面に這いつくばらせる。
「どうやら私の魔術は……」
なおも突撃してくるが、ルイは慌てず確実に敵に手のひらを向けて、連中を地べたへ落としていく。
「ヒト・モノを問わず、操作できるみたいだ」
ルイは、これまでの戦闘で、なんとなく自分の能力を理解していた。車をぶつけてヒトを殺したとき、壺を相手にぶつけたときを鑑みれば、それをヒトに向かっても応用できると踏んだ。そしてその通りに、物事が動いたのだ。
こうなると簡単な話である。ルイは、近くにあった無人のトラックを動かし、クーアノンの大群に凄まじい速度で当てた。ぐちゃァ……という音が聞こえる中、ルイはルーシのほうを向く。
「鷲の翼……?」
ルーシは、銀鷲の翼らしき物体を背中に生やして、それで敵を次々串刺しにしていた。彼女は、心底楽しそうな笑みを浮かべている。
そして、戦闘が終わった。ルイとルーシは、傷ひとつなくクーアノンを撃退したのだった。
「いくらSHAを使っても、私らに敵う通りはねェ。なぁ、ルイ」
「うん」
ルーシは怪訝そうな顔になった。「……オマエ、ヒトを殺したのに動じねェな」
「コイツら、人でなしだからね。痛む良心もないってわけさ」




