011 猫舌と嗅覚、そして喫煙少女
そう呆れながらも、ルイは温かいカレーを口に運ぶ。
すると、
「アッツ!!」
味が良く分からないくらい、熱く感じてしまった。どうやら猫との獣娘になって、猫舌になってしまったらしい。
「そりゃ猫との獣娘ですからね。猫舌なのは当然でしょう」
「オマエがこうしたんだろうが……。冷めるまで待つか」
特有の香ばしい匂い、空腹、それなのに食べられない。ルイは、リリスを恨むほかなかった。
「そういえば、オマエさっき撃たれたよな? それなのに、周りは全く気にする素振りも見せなかった。なんで?」
「アンゲルスの住民のほとんどは、魔力を感知できます」リリスは次々とカレーを食べていく。「そして天使は魔力でなく、天の力で力を振います。なので、銃弾くらいじゃ死なないと思ったのでしょう」
「へェ。ちなみにおれの力は、天使のものなのか?」
「いいえ? 天使の力は天使にしか使えません。下賎なる人類には、魔力しか開発できないのですよ」
「オマエ、人間を見下しすぎだろ」
「見下されて当然ですから」
リリスは、淡々とそう言った。人間とは思考回路が違うのは間違いない。
「……気に入らないヤツだ」
「貴方にどう思われようと、私に実害があるわけでもないので」
カレーから湯気が少しずつ薄れていった。ルイは椅子に座り直し、それを口にする。
「うまい」
イギリス式カレー……要するに日本のカレーと変わりない。やや冷めているほうが、食べやすくて良いようだ。食事にあまり興味のないルイだが、このカレーなら毎日食べられそうとも感じる。
「はーっ、美味しかった。んじゃ、私はもう寝ますので」
「あァ? オマエ、食った後寝たら牛になるって聞いたことないの?」
「迷信でしょう。食べて寝ることは、天使最大の娯楽ですよ」
「とんでもないヤツだ……」
リリスはベッドに寝転がり、速攻で寝息を立て始めた。
「さて、食べ終えたし……なにするかな」
ルイは英語が読み書きできるし、当然話せる。なので、テレビを点けた。
『次のニュースです。連邦政府は〝クーアノン〟を破壊活動団体に指定しました』
「あぁ、絡んできたヤツらか」
『大統領は、『たとえ便所に隠れていても、息の根を止めてやる』と発言し、当局による締め付けは強くなるようです』
「どこかで聞いたことあるセリフだな。まぁ、転生者のおれからしたら、クーアノンなんていないほうが良いからな」
この時間はニュースしかやっていないらしく、ルイはテレビを消してしまった。
「ミンティが言っていたな。15歳以下の子どもは、7時以降の外出禁止だって。でもおれ、34歳なんだよな」
転生者用の市民カードも持っているので、職務質問されてもそれを提示すれば良いだけだ。ルイはやることを探すべく、ホテルから出ていく。
(それにしても、寒い国だな。鼻が凍りそうだ)
車のエンジンの匂い、そこらで喫煙している者……街ゆくヒトが白人・黒人だらけなのを除けば、さながら日本の東京だ。しかし空気は、田舎並みに澄んでいる。
「ふーむ。考えてみりゃ、一文無しなんだよな。日本円でタバコを買おうとしたら、偽札扱いされるかも」
タバコが吸いたくて仕方ないが、カネがないのなら買うことはできない。だからといって、タバコの無心もいかがなものだとも思う。タバコは高いからだ。
そんな悩みを抱えてホテルから出て、摩天楼が建ち並ぶ中心街をぶらぶらしていると、
(……なんで、12歳くらいの子がタバコ吸っているんだ?)
そりゃ、今のルイも12~3歳くらいの獣娘だし、タバコも吸った。だが、10代前半の子どもがタバコを咥えているのは、かなり奇妙な光景だ。
「あ? なに見ているんだい?」
銀髪のショートヘア・碧眼・ややツリ目・155センチくらいの身長・子役になれそうなくらい整った顔立ち。
そんな少女は、ルイにそう言ってきた。




