010 殺さねば殺されるのなら
「けど、MIHの本校も人手不足だわ。契約金は減ってしまうけれど、もしもこの平和島で暮らしたいのなら、本校に入るべきね」
「やっぱり、MIH学園が治安維持の一角を担うんですか?」
「えぇ。アンゲルスは当然軍を持ってるけれど、獅子身中の虫に対処できるほどの兵力はない。だから私たちが働かないといけないのよ」
「……分かりました。少し考えておきます」
ホテルは何事もなかったかのように、慌ただしく動いていた〝クーアノン〟とやらに襲われるのは、想定していたことなのだろう。
「良い返事、待ってるわよ」
ルイはキャメルに背を向け、手を上げて去っていった。
*
「ルイさん! なんで私をバスルームに閉じ込めるんですか!?」
さも当然のようについてきたリリスをバスルームへ閉じ込め、ルイはひとりでぼんやり考え事をする。
(考えてみりゃ、おれは死にたかったのかもしれないな。生きなきゃいけない、という観念に閉じ込められて、無駄な人生を過ごしていた)備え付けのタバコに火をつける。(でも、さすがに獣娘になって強力な力を手に入れた今、死ぬ気にはなれない。……まぁ、もうすでにヒトを殺してしまったけど)
クーアノンが銃乱射していたとき、ルイは確かにその男を殺した。しかし、不思議と恐怖等はなかった。性格の骨格が変わっている? それとも、元々他人の死に鈍感なのか? 答えはないが、あのとき確かに、頭痛とともに快感を覚えたのも事実だった。
「ふぅー……」
タバコの紫煙を吐き出し、ルイは舌打ちする。自分のことをサイコパスだと思ったことはなかったが、もしかしたらルイという存在はそういった類なのかもしれない。
(だいたい、銃を乱射しているヤツを殺してなにが悪いんだ? あのまま放っておけば、おれだって殺されていたかもしれない)
あの後、警察から事情聴取を受けたが、それは形式的なものだった。殺人したというのに、警察は対して咎めたりしてこなかった。だから余計に思う。『悪いヤツなら、殺しても良いのではないか』と。
「ま、悪いかどうかは主観になってしまうけどな」
タバコを吸い切り、ルイはカーテンを開けて夕焼けのウェストAs市を眺める。ロサンゼルスのような街並みは、海外旅行に来た気分にもなる。
「そうだな……、最後まであがいてみるか。せっかく転生したんだし」
人殺しへの罪悪感は、もはや消えていた。だいたいルイは、罰せられないのならヒトを殺しても良いと考えている。前世では冷めた人間だったが、その哲学は割と昔から根付いている。
「ルイさん!! いい加減開けてください!!」
天使リリスがやかましいので、ルイはバスルームの鍵を開ける。彼女は不満げな表情で、ルイを睨んだ。
「なんでこんなことするんですか!?」
「やかましいから」
「や、やかましい? それって、ひどくないですか!? 私は天使ですよ?」
「あぁ。ポンコツの天使だな」
「ポンコツじゃないです! ただ、アンゲルスについて調べていなかっただけです!!」
「それをポンコツっていうんだよ。まぁ、ありがとう。獣娘の身体と魔力を与えてくれて」
「ようやく感謝しましたね! 遅すぎるくらいですが、これで私の偉大さが分かったでしょう!!」
「そうだな。きっとオマエは、偉大だよ」
ルイは適当に交わし、部屋にディナーが来るのを知る。一応〝クーアノン〟だといけないので、ルイは近くのペンを右手に隠す。
「夕食でございます」
悪意などはないようだった。ルイは「ありがとうございます」と言って、2人前のカレーを受け取った。
「うぉー!! 人間界のご飯って美味しいんですよね!! いただきます!!」
リリスは、ルイが食べ始める前にスプーンを香ばしいカレーに入れた。
「おれのものなんだけどな……」




