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映画ならハッピーエンドだったのに。〜少女が砕けた理由を俺はまだ認めない〜  作者: oo78


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第5話・完璧な救出

バイト先へ向かう途中、リアムは駅前の通りを歩いていた。

夕方の人通りは多く、雑踏の(ざわ)めきが絶えない。


あの日以来、夜になる(たび)に廃採掘場に向かい、自分が得た力を自在に使いこなせるように練習していた。


単純な力加減はそれほど難しくなかったが、自在に飛び回るにはコツを掴むのに苦労した。


――ああ、駅まで飛べたら楽なのになぁ。


今ではそう思える程、飛行も完璧に制御出来ていた。


「ちょっと、あれ見て!」


どこか緊張した声が聞こえた。

何かあったのだろうか。


「ほら、あれ危なくない?」

「ちょっと、マジでヤバいって」


不安と好奇心が入り混じった騒めきがあちこちから聞こえた。

思わず足が止まり、リアムは周囲の視線の先を追った。


駅前にそびえる高層ビル。その屋上の縁。

本来、人が立ち入る事の無い場所に、少女の姿があった。


スマートフォンを片手に掲げ、柵から身を乗り出すようにして自撮りをしている。

風に髪を揺らしながら、笑顔でポーズを取っていた。


――危ないな……。


そう思った瞬間だった。


少女の髪が勢いよく風に煽られ、彼女の足が(わず)かに滑った。

身体が大きく傾き、反射的に掴もうとした手は空を切る。

周囲の空気が一気に凍りつく。

そして悲鳴。


「落ちるぞ……!」


切迫した声が響く。

リアムの思考が、強く跳ね上がった。


――助けるか?

――でも、人前だぞ。


無数の視線。スマートフォンを構える人影。

ここで力を使えば、どうなるか分からない。


一瞬の躊躇。

だが、次の瞬間、その迷いは別の言葉に押し潰された。


――ここで助けるのが、ヒーローだろ!


リアムは地面を蹴った。

爆発的な加速。

空気が裂け、景色が引き延ばされる。


「――っ!」


誰かの叫び声が聞こえた気がしたが、もう構っていられない。


――間に合う。


群衆の上を高速で飛びながら、視線は落下する少女を捉え続けた。

すぐさま少女の落下位置を予測し、その下を目指す。


――ヒーローは遅れて登場するものだ。


そんな言葉が頭をよぎる。


少女の落下予測地点に辿り着いたリアム。

彼はビルの3階に届きそうな高さに浮いたまま、彼女を見上げながら、力強く両腕を広げた。


――間に合った!


「やめろ! そんなことをしたら――」


誰かの叫び声が聞こえた気がした。だが気にしなかった。


リアムは落ちてくる少女を見つめながら、彼女の肩と腰に腕を伸ばし、()(かか)えようとする。


次の瞬間、衝撃は「止まる」かたちでは現れなかった。

宙に浮くリアムの体は、衝撃により1メートル程沈み、同時に、これまで聞いた事のない不快な音が耳に届く。


湿った破裂音が空気を震わせ、衝突点を中心に衝撃が四方へ弾け飛んだ。

少女の身体は落下の速度を落とす事なく、リアムの腕を支点にして崩壊。エネルギーは周囲へ逃げ場を求めるように解放された。


音と同時に、赤黒い飛沫が半径数メートルにわたって撒き散らされ、近くにいた歩行者が悲鳴を上げ、反射的に身を伏せる。

顔や衣服に付着したものが何なのか理解するまでに、そう時間はかからなかった。


「……え?」

「な、何が起きたの……?」


砕けた破片がアスファルトに叩きつけられて跳ね、駐輪された自転車のフレームに当たって鈍い金属音を立てる。


ガラス張りの店舗の外壁には血液と組織が叩きつけられ、透明だった筈の壁は、向こう側を見通せないほど汚染されていた。


リアムの足元には、もはや一人分とは呼べない質量が崩れ落ちていた。

だがそれ以上に異様だったのは、周囲の光景だった。


血液と組織片が、無関係だった筈の人間、建物、道路にまで及び、その中心に居るのは真っ赤に染まった自分だった。

何が起きたのかリアムは理解できず、ただ呆然と宙に浮かんだままだった。


腕はまだ半端に前へ突き出されたままで、力を抜くという発想が戻ってこない。

そこには、生暖かい感触が、生々しい程に纏わり付いている。


一瞬の静寂。

リアムの鼓膜の奥では『ピーーー』という無機質な音が絶えず響き、思考を塗りつぶしていく。


「きゃあああああああ!」


血飛沫を浴びた女性が、震える声で悲鳴を上げた。


「何てことしてくれたんだ……」


男の声が低く、しかしはっきりと響いた。

怒りではなく、困惑の言葉だった。


少し離れた場所で、別の女性が口元を押さえたまま呟く。


「ひどい……なんて(むご)い……」


リアムの喉が動いた。

しかし、言おうとした言葉は形になる前に喉の奥で崩れ、声にならない不明瞭な音となって口から発せられた。


少し離れたところに居た若い男が、困惑した目でリアムを見ていた。


「……これ、アイツがやったのか!?」


「ち、違う!」


ようやく声が出た。


「お、俺は助けようと……」


そう、助けようとした。

そのためにリスクを冒して人前で飛んだのだ。


「落ちてきたから……止めようと――」


だが、その言葉を遮るように、別の声が重なる。


「あの高さから落ちてきたのを受け止めるなんて……。そんなことしたら、どうなるか想像つくだろ!」


冷めた言葉だが、事実だった。

誰かが震える声で呟く。


「バケモノ……」


その言葉が、決定的だった。

人々の声が次々に重なり、喧騒に変わる。


「アイツ……浮いてるぞ」

「ひでぇ真似しやがる……」

「逃げろ! 殺されるぞ」


リアムは周囲を見回したが、助けを求める相手は何処にもいない。

サイレンの音が近づいてくる。


リアムはここに居てはいけないと、本能的に感じ、身を翻してその場を飛び去った。


次回は、2月14日(土)14時頃に更新予定です。

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