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告白

「おはよー……」


教室の扉を開き、誰に向けてでもなく挨拶する。


「卜部さん!もう体調大丈夫なの?」


一番近くにいた女子グループの一人が小走りで近づいてきた。名前、なんて言ったっけ……。


「うん。全然平気」

「そっか〜。あ、休んでる間のノートよかったら貸そうか?」

「え、いいの?助かる〜ありがと!」


笑顔で受け答えするも、彼女の探るような目に気づいて、顔が強ばってしまう。


「ね、もしかして卜部さんって身体弱いとか?だからこんな田舎に越してきたの?」


ぐっと顔を近づけて囁いた彼女から、反射的に距離をとってしまう。

先ほど彼女と話していた女子たちが、こちらを見ながらヒソヒソ話をしているのが視界に入り込んだ。


「そんなことないよ?ちょっと環境の変化に身体がついてこなかったというか、疲れが溜まってただけっていうか」


わざと大きな声で答えれば、彼女は「そっか〜」と半ば残念そうに笑って、自分のグループに帰って行った。


普段なら、自分たちの勝手な憶測が外れたからって、人が健康体なのを残念がるなよ。

と苛立っていたところかもしれない。


でも、今日はそんなことどうでもよかった。

自分の席に鞄を置きながら、そっと教室の床を見る。

前まではあった机が無いから、床を見ることになってしまった。


雲乗加美奈は消えてしまった。


病院で目覚めた私は、ベッドの脇に立っているのが三人だけなのを見て、起き上がれなくなった。

体はもう大丈夫なのに、緋彩を安心させたいのに、どうしようもなく全身の力が抜けていた。


加美奈の事は聞けなかった。聞くまでもなかった。

偶然集まった三人の目の前で私が目を覚ましただけ。どうしてなのか誰も分かっていなかった。


自分の存在をかけて一人の人間を救うなんて、そんなことをやってのけるとは思わなかった。彼女のことを完全に見くびっていた。


後悔の二文字が付きまとう。


少し遅れて緋彩が教室に入ってきた。僅かに息が乱れている。きっと走ってきたのだろう。私を見て明らさまに安心しているのが分かる。


「なんで黙って行くんだ」


珍しく不貞腐れた声で言われて苦笑いを返す。


「考え事に集中したくて」


色々あって心配するのは理解できる。逆だったら、私も何日かは緋彩にベッタリだっただろう。でも、今日は一人で登校したくて、緋彩の目を盗んで先に出てきた。


ゴメンと顔の前で手を合わせれば、「危機感が足りない」とだけ言って自分の席に歩いていった。


考え事とはもちろん加美奈の事だが、それだけじゃない。それと同じくらい重要な問題がある。



放課後になった瞬間、すぐに私は席を立った。


「ちょっと話があるんだけど。九条くん」


帰り支度の途中で止まった彼は、意外そうな顔をしていた。


「何?その話って今ここで出来るやつ?」

「他の人に聞かれない場所に行きたいやつ」

「えーっと。なら、屋上にでも行く?」

「うん」


いつの間にやら隣に立っていた緋彩に、先に帰ってていいよと言うと何とも言えない顔で私たちを交互に見ていた。


変な勘違いしてそうと思いながら、何も言わずに屋上への階段を上がった。


加美奈に引きずられて来た以来の屋上。あの時と違って今日は雲ひとつない。


「それで?話って?」


他に誰かいないか確認した後、九条くんはこちらを振り返って聞いてきた。


「うん……」


どんな言葉から始めたらいいのか、いざ顔を見て話すとなると、分からなくなる。


「まさか告白とかじゃないよね?」


沈黙が続くのが嫌なのか、すぐに茶化した風に彼は笑う。


「違う違う。それでいうと、逆かも」

「え?告白の逆?なぞなぞかなんか?」

「そうじゃなくて……。告白するのは九条くんっていうか」

「俺がする側なの!?いや〜、俺好きな人とかいないんだけど。誰にすればいいわけ?」

「…………強いて言うなら皆に。罪の告白を」


それまで九条くんの顔には淡い期待とか、戸惑いとか、好奇心みたいなものが浮かんでいた。けれど、私の言葉を耳にして、瞬時に彼の顔面から何もかもが取り払われた。


「罪。罪の告白かぁ」


そう呟いて、九条くんは両ポケットに手を突っ込んで下を向いた。


「……難しいなぁ」

「難しいんだ」

「そりゃそうでしょ。逆に卜部さんは出来るの?罪の告白」

「私?私は…………神殺しとかになるのかな」


九条くんはなんだそれという目で私を見た後、気怠げな足取りで私の横を通り過ぎた。

帰ってしまうんじゃないかと内心焦ったが、彼は扉を開けることはせず、そこに背中を預けた。


出入り口を塞がれる形になり、少し体に力が入る。


「なんか嫌だわ。そうやってチクチクやってくるの。言いたいことがあるならさ、さっさと確信つけばいいのに」


私が何を言いたいのか、彼に何を告白してほしいのか分かっている風な口振りだった。

でも、分かっているのなら、どうしてそう平然としていられるのだろうか。


「嫌なのはこっちもだよ……はぁ」


息を吐き切ると共に覚悟を決める。


「紫さん。叔父さんの奥さんを殺したのは九条一弥。あなたでしょ」

「……ふーん」

「何その反応」

「なんでそう思ったのかなーと思って」

「見たから」


そう、見た。病院で加美奈とハクブツ、そして九条くんだけになった時。

最初は加美奈の記憶だと思ったけど、あれは混ざっていた。犯人の視点も。


「あの場に居たって?三年前に君が?」


私は小さく頷いた。そういう事にしておいた方がややこしくないと思って。


「……うっそだぁ」


その言葉は、半分は本気で嘘だと思っていて、もう半分は嘘であれと願っていた。

そんな風に聞こえた。


「お腹に、顔。うずめてたでしょ?それで、人が来たから逃げた」

「…………なんで今更」

「否定しないんだ」


九条くんはギュッと両目を瞑った。痛みに耐えるみたいに。


「もし、言われたら受け入れようって考えた。でも、言われるなら、月岡さんからだと思ってたからさ」


びっくりしたと言って九条くんは地面にしゃがみ込んだ。


「なんで殺したの?」


私の問いかけに彼は顔を上げることなく訥々と話し始める。


「京都って行ったことある?」

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