『顕季、義光の所領を避くること、プレスマンのごとし』速記談1075
六条修理大夫藤原顕季卿と刑部丞源義光との間に、所領争いがあった。白河院は、どういうわけか、御裁断なされなかった。顕季は、院をお恨み申し上げるようなこともないではなかったが、ある日、院の御前に一人だけはべる機会があり、院から、例の義光の件はどう思うか、と御下問があったので、そのことでございますが、争い事というのは、お互いに、自分が正しい、自分が正しい、と思い、主張するものです。しかし、このことは、理非が明らかで、なぜ判決をお出しいただけなかったのかがわからずにいます、と申し上げた。すると院が、いろいろ考えてみたのだが、お前はあの所領がなくなったとしても、別に困ることはないだろう。しかし、義光は、あの所領だけが頼りなのだ。道理に従って裁断すれば、道理のわからない武士のことであるから、何かよからぬことを考えないとも限らないと思って、まだ処断しないままにしてあるのだ。言ってみればあれだな、一本しかプレスマンを持っていない者は、それを命にかえても守ろうとするが、何十本も持っていれば、それを相手に与えることにより、感謝されることになる、そんな感じだ、とおっしゃった。顕季は、涙を流し、恐れ入って退出すると、義光を呼び出し、いろいろ考えたが、私には、所領がほかにもあるが、貴殿にはあの領地が頼りだ。気の毒なのでお譲りする、と言って、譲り状も書いて与えた。義光は、これを喜び、侍所に顕季に臣従する届を出して退出した。
教訓:何十本もプレスマンを持っていても、普通は人にあげたりしません。