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プロローグ

 青々と茂る木々に囲まれたルーセントの寺院は、静寂と神聖さに満ちていた。ここは、水の巫女たちが修行を積み、古代の秘儀を学ぶ場である。境内に流れる清流の音が、静かに響く中、セレナ・アクアリスはその冷たい水で顔を洗っていた。


 セレナは幼い頃から水の巫女としての訓練を受け、今や一人前の巫女として寺院の教えを守っている。彼女の青い髪は、水の精霊との絆を象徴しており、その瞳には深い知識と覚悟が宿っていた。


「セレナ、こちらに来なさい。」寺院の大賢者エリオス・ラディアンの声が響いた。


 セレナは顔を上げ、大賢者の呼びかけに応じて寺院の奥へと進んだ。大賢者エリオスは、白い長髪と深い皺の刻まれた顔立ちでありながら、その目は鋭く、若々しい知恵が溢れていた。


「エリオス様、何かお話があるのですか?」セレナは静かに尋ねた。


「そうだ、セレナ。君に伝えなければならないことがある。」エリオスは手に持っていた古びた巻物を広げた。「これは、古代の秘儀に関する重要な手がかりだ。」


 巻物には古代の文字がびっしりと書かれており、その内容は難解であった。しかし、セレナはその文字を一つ一つ読み解いていった。


「ここに書かれているのは、『水の心臓』についての記述だ。」エリオスは説明を続けた。「この秘儀は、我々の知らない強大な力を秘めていると言われている。」


 セレナの心は高揚した。彼女は長い間、寺院で古代の秘儀について学び、その力を解き明かす使命を果たすことを夢見ていた。しかし、『水の心臓』については初めて耳にするものであり、その存在は彼女にとって未知の領域だった。


「エリオス様、私はこの秘儀を解き明かし、その力を手に入れたいです。」セレナは決意を込めて言った。


 エリオスは静かに頷いた。「君の決意は素晴らしい。だが、この道は決して容易なものではない。古代の巻物には、『水の心臓』が寺院の奥深くに隠されていると記されている。そこには数多くの試練が待ち受けているだろう。」


 セレナはその言葉に一瞬ためらったが、すぐに決意を新たにした。「私はどんな試練でも乗り越えてみせます。水の巫女としての誇りと使命を果たすために。」


 エリオスは微笑み、セレナに手を差し出した。「では、私と共に行こう。君の力と知恵を試す時が来た。」


 二人は寺院の奥深くへと足を踏み入れた。暗い廊下を進む中、セレナの心には不安と期待が交錯していた。古代の秘儀が隠された場所は、寺院の最も奥まった場所にあると言われていた。


 廊下の先に大きな扉が現れた。エリオスはその扉を開け、セレナに進むよう促した。中には、古代の遺跡が広がっていた。壁には古びた絵や文字が刻まれ、天井からは冷たい水が滴り落ちていた。


「ここが、『水の心臓』が隠されている場所だ。」エリオスは静かに言った。「君はこれから、ここで多くの試練に立ち向かうことになる。」


 セレナは深呼吸をし、自身の心を落ち着かせた。彼女の中には、水の巫女としての誇りと使命感が燃え上がっていた。どんな困難が待ち受けていても、彼女は決して諦めないだろう。


「私は、この秘儀を解き明かし、寺院と世界を守る力を手に入れることを誓います。」セレナは力強く言った。


 エリオスは満足そうに頷き、「君の意志は確かだ。さあ、行こう。君の旅はこれから始まる。」と言った。


 セレナはエリオスと共に遺跡の中へと進んでいった。彼女の心には、未知の試練への不安と同時に、大いなる希望が芽生えていた。


 二人が進んだ先には、暗闇に包まれた広間が広がっていた。天井からは冷たい水が滴り落ち、その音が静寂を破っていた。セレナは周囲を見渡しながら、心の中で祈りを捧げた。彼女の前には、数々の試練が待ち受けている。


「この広間は、古代の巫女たちが試練を受けた場所だ。」エリオスは静かに説明した。「ここで君の力と知恵を試されることになる。」


 セレナは頷き、心を落ち着けるために深呼吸をした。彼女の中には、水の巫女としての誇りと使命感が燃え上がっていた。どんな困難が待ち受けていても、彼女は決して諦めないだろう。


 広間の中央には、大きな石碑が立っていた。その表面には古代の文字が刻まれており、セレナはそれを読み解くために近づいた。


「石碑には、『水の心臓』への道が示されている。」エリオスは言った。「君はこれを読み解き、次の試練に進む必要がある。」


 セレナは慎重に石碑を読み解き始めた。古代の文字は難解であったが、彼女は寺院での訓練を思い出しながら、一つ一つの文字を解釈していった。


「ここに書かれているのは…『純粋な心と強い意志を持つ者のみが、水の心臓にたどり着ける』。」セレナは声に出して読んだ。


「その通りだ。」エリオスは微笑んだ。「君の心と意志を試されることになる。」


 セレナは深く息を吸い込み、石碑の前に立った。彼女の目は決意に満ちていた。エリオスの指示に従い、彼女は石碑に手をかざした。すると、石碑が青く輝き始め、その光が広間全体に広がった。


「さあ、試練が始まる。」エリオスの声が響いた。


 突然、広間の床が動き出し、セレナは驚いて足元を見た。床が分かれ、その下からは深い水の池が現れた。池の水は澄んでいたが、その底が見えないほど深かった。


「この池は、君の心の試練だ。」エリオスは説明した。「君の心が澄んでいるかどうかを試される。」


 セレナは池に向かって一歩踏み出した。彼女の心には不安と期待が入り混じっていたが、彼女は自分の使命を信じていた。彼女の足が水に触れると、その冷たさが全身に広がった。しかし、彼女は恐れることなく、池の中に進んでいった。


 池の中を進むうちに、セレナは自分の心を見つめ直す時間を得た。彼女は過去の出来事や、自分の使命について深く考えた。彼女の心には、寺院での訓練や、大賢者エリオスの教えが鮮明に蘇ってきた。


 セレナの幼少期、彼女はルーセントの寺院の近くにある小さな村で育った。彼女の両親は水の巫女の家系であり、代々続く伝統を守っていた。まだ小さかった彼女は両親と共に寺院を訪れ、そこで水の精霊と初めて出会った。


 ある夏の日、セレナは母親と共に寺院の庭で遊んでいた。庭には美しい花々が咲き誇り、小さな池が静かに水を湛えていた。セレナはその池の水に手を入れ、冷たさを感じながら水の精霊と心を通わせた。


「セレナ、この池の水は特別なのよ。」母親は優しく教えた。「ここには水の精霊が宿っていて、私たちに力を与えてくれるの。」


 セレナは目を輝かせながら母親の言葉に耳を傾けた。彼女は水の精霊と共にいることが大好きで、その力を感じる度に心が温かくなるのを感じていた。


 ある日、父親と共に森へ出かけた。森の中には清らかな小川が流れ、その音が心地よいリズムを奏でていた。セレナはその小川の水をすくい上げ、自分の手のひらに広げた。


「この水もまた、私たちに力を与えてくれるのね。」セレナは父親に尋ねた。


「そうだ、セレナ。」父親は微笑んで答えた。「水は私たちの生命の源であり、その力を理解し、尊重することが大切だ。」


 セレナはその教えを胸に刻み、水の巫女としての道を歩む決意を新たにした。彼女は両親から受け継いだ知恵と力を大切にしながら、寺院での訓練に励んだ。


 セレナが10歳の時、父親が病に倒れた。家族にとって辛い時期だったが、セレナは父の教えを胸に、さらに強く生きることを誓った。彼女は父の看病をしながら、寺院での修行を続けた。父の病床で彼女に語りかけた言葉は、今でも彼女の心に深く刻まれている。


「セレナ、お前は強く、優しい子だ。水の力を信じ、決して諦めない心を持っている。いつか、お前がアエルドリアの未来を守るために大きな役割を果たす日が来るだろう。」


 セレナはその言葉を胸に刻み、水の巫女としての訓練を一層熱心に続けた。彼女は水の精霊との絆を深め、その力を使って人々を癒し、守ることを学んだ。彼女の決意と信念は、日々の修行を通じて強化されていった。


「私は、何のためにここにいるのか。」セレナは自問した。「私は水の巫女として、何を成し遂げるべきなのか。」


 その問いに対する答えは、彼女の中に明確に浮かび上がった。「私は、アエルドリアの平和を取り戻すためにここにいる。私は水の巫女として、その使命を果たさなければならない。」


 その瞬間、池の水が輝き始めた。セレナの心が澄み渡り、彼女の意志が強固であることが証明されたのだ。彼女は笑みを浮かべ、池の中をさらに進んだ。


 池の奥には、もう一つの扉が現れた。セレナはその扉を開け、中に入った。そこには、古代の巻物が並ぶ小さな部屋が広がっていた。彼女はその巻物の一つを手に取り、慎重に広げた。


「この巻物には、『水の心臓』の場所が示されている。」エリオスは言った。「君はこれを手に入れるために、さらに奥へと進む必要がある。」


 セレナは巻物を持ち、次の試練に進む準備を整えた。彼女の心には、新たな決意が芽生えていた。彼女は自分の使命を果たすために、どんな困難も乗り越える覚悟を決めていた。


 遺跡の奥へと進むと、セレナは広間の中心にある台座に目を向けた。その上には、青く輝く宝石が置かれていた。それが『水の心臓』だった。


「これが…『水の心臓』。」セレナは呟いた。


「そうだ、セレナ。君がその力を解き放つことで、アエルドリアの未来が決まる。」エリオスは静かに言った。


 セレナは台座に近づき、宝石に手を伸ばした。その瞬間、周囲の空気が震え、光が広がった。彼女の心には、古代の力が流れ込んでくるのを感じた。


「私はこの力を使い、アエルドリアを守る。」セレナは心の中で誓った。


 光が収まると、セレナの手には『水の心臓』が握られていた。彼女の使命はこれで終わりではなかった。これからが本当の戦いの始まりだった。

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