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【side:クリスティーナ】
王竜選定の儀。
それは我々竜族が国という形をとって生きていくうえでとても大事なものだ。
王は世襲制ではなく、血統も重視されない。
ただ良識と素質、そして有事に備えて誰よりも頑強でありさえすればよいとされている。
もちろんそんなものに縛られず、はぐれ竜として国に管理されずに生きていくことは可能だし、大昔は国として同種を取りまとめてはいなかった。
しかしそれだと人間等の小さき者たちとこの大陸を分け合いながら生きていくことができないし、種族として発展していくこともない。
ただでさえ大きな図体なのだ。
要らぬ警戒心を抱かせぬために人型をとり、国に中枢を据え同族をまとめて人族と同じような生活形態をとった。
祖先たちはそうして永い年月をかけて竜族の国『アルビオン王国』をつくった。
それでも人から見れば竜は畏怖の対象であったため、未だに懇意にしている国はない。
たまに例外が出て人族が居着くこともあったが…まあそれは滅多にないことだ。
人族の国々とそれなりの距離を保ちながら生きていくための旗振り役、それこそが竜王であり、決めるための長い試験期間を経て決定するのが選定の儀、その役割を負うのが選定者である。
かく言うクリスティーナも選定者であった。
時期的には少し早いが番様と隠居生活を送っている竜王様は今回の選定の儀に絡んでくるつもりはないようなので、自分がお膳立てをしなければならない。
超マイペース男だということは長い付き合いの中で分かりきっていることなので今更取り乱すことはないが、思うところはある。
なので後日先代としての仕事をたんまりくれてやることにして気持ちを落ち着かせていた。
「それにしても見つかってよかったわ」
先日ディアーナとお茶をしたテーブルで就寝前のハーブティーを飲みながら独りごちる。
次代の選定者を見つけるのは先代選定者としての仕事だし、儀式には絶対に必要な事だ。
彼女が居なくては選定の儀は終わりようがないのだから。
「ギリギリ間に合…ってはいないかもしれないけど仕方がないわよね、他種族だったわけだし」
道理で検知器の反応が悪いわけである。
自分の作った道具に問題があったのかと、反応が返ってくる度に現地に赴いて次代の選定者を探していたのだ。
ふと検知器の素になった色石たちを眺めすぐに視線を外す。
最後の方は意地になって量産してばら撒いていたため毎日魔力がカツカツ状態になっていたのだ。
暫くは視界に入れるのも遠慮したい。
言うなれば毎日倒れるギリギリまで魔力を消費して魔力鍛錬していたようなもので、この歳になって魔力量が増えるとか何の冗談だろうかと思ったものだ。
けれどそれももうお終い。
目的の彼女は既に選定者屋敷に入っている。
ディアーナが情に厚い人間で良かった。
ついでに言うなら自分が気に入ってもらえてもっと良かった。
お陰で上手く引き止め、夜通しそれとなく勧誘してお役目を引き受けてもらうことができた。
まあ、同居人には一晩中外で周囲を警戒させてしまったのは申し訳なかったが。
彼とて竜族、既に選定期間に入っていることもあり次代の選定者がどれほど重要人物かなんて聞かされずとも理解している。
「うん、順調順調」
外を見やれば大樹の間をすり抜けた緩やかな日差しが降り注いでいて、その先には庭仕事をする彼の姿が確認できる。
ここはお役目を引き受けるときに交換条件として強請った己が城だ。
全てが総て、クリスティーナの思うように出来ている。
我が王が居を移してからはここでのんびりと暮らすことこそが彼女にとって毎日の癒しとなっている。
そしてそう遠くない未来に、彼女はこの発言とのんびりとした時間を後悔することとなる。
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