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コン コン コン
ゆっくりと、しかしはっきりとしたノックの音にディアは扉に意識を向けた。
「デイジーでございます。先ほどのご質問について説明できる者を連れてまいりました。入室してもよろしいでしょうか」
「どうぞ、お入りください」
その返答を待ってゆっくりと開いた扉の向こうにはデイジーと、彼女のものと同じお仕着せを纏った女性がぴしりと姿勢を正して折り目正しくお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、私はこのお屋敷で侍女頭を務めておりますカナリアと申します。どうぞカナリアとお呼びくださいませ。選定者様におかれましてはわたくし共にご質問がおありのご様子と伺いました。わたくしが知りえる範囲、答えられる事でございましたらお答えすることが可能でございます」
「ええ、では今はカナリア、と呼ばせてもらうわね」
デイジーからこの短い間にあった事を聞いているであろう彼女は、あくまでディアに仕える者として話をしに来たようだ。
そのままでは話がし辛いため、まずは二人に顔をあげさせる。
そしてディアは先手を打たれたことに少しだけピリッとした空気を感じつつも、優先順位を思い出して頭を切り替えた。
「カナリア、さっきもデイジーに尋ねたのだけれど。“選定者様”というのはどのような方なのかしら?私は依頼を受けてこのお屋敷で働くつもりでやってきたのだけれど…どなたかとお間違いではいないの?私はあなた方に仕えてもらえるような何かを成した人間でもなければ相応しい血筋の人間でもないわ」
先程デイジーに聞いたことを同じように尋ねてみる。
尋ねた瞬間カナリアの口元が微かに強張った。
「……その、今の質問で色々と察することはできました。く…お嬢様にお仕事を依頼された者から色々なお話などはお聞きになってはおられないのでしょうし、まずはこの国の成り立ちや現在の状況をお伝えさせていただきますわ」
一瞬のうちに疲れた様子を滲ませたカナリアが、それでも礼を失しないように優雅に礼をして何かをデイジーに言づけた後ディアを窓際のテーブルに誘う。
そしてどこからともなく取り出した一冊の本をテーブルの上に広げた。
「ご存じとは思いますが、ここは竜王が治め、竜族が住まう『アルビオン王国』にございます。お嬢様の出身国『フルールシア王国』とは大樹林を挟んで西側から北に伸びる国土を有しております」
彼女が話すのはディアがディアーナであった時にさらりと学んだ近隣諸国のあれこれ。
だが長年…いや、今まで交流のなかった国の中で語り継がれている歴史や認識は自分が聞かされていたものとは質も量も違っている。
ディアにも国の正しい情報がそう簡単に他国に伝わるわけはないとは判っていた。
ただそれは本当にだけだったのだと気付かされた。
それからしばらくの間、ディアはカナリアの説明を頭に叩き込んでいった。
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