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「ところで貴女、今夜泊まる場所は決まっていて?」


ディアーナの顔色を窺うようにクリスティーナがそっと尋ねる。

誰が聞いているわけではないけれど声を潜めてくれる配慮にディアーナの意識がぐらりと揺れた。

(実の父ですら配慮などなく私を放り出したというのに)

込み上げてくる何かを教育の成果で蓋をして、クリスティーナを真っ直ぐに見る。


「実は今日中に城下町を出てから探そうと思っていたために決まっていないのです」


それに、と頬に手を添え困ったようにディアーナは続ける。


「そう尋ねてくださるということはわたくしの事情を聴き及んでいるのでは?ご迷惑になる前にお暇させていただきたく思います」


ディアーナにとって目の前の人物は親以上の親切をくれた人だ。

自分の事情に巻き込むのは気持ちが咎めた。


「あら、そんなこと気にしなくて良いわよ。私はクリスティーナ。あなたに頼みたいことがあるから今日はぜひ泊っていっていただきたいのよ」

「……」


あの広場で昨夜の婚約破棄の茶番劇の話をしていた人がいたのを知っている。

だからこそ察してもらうためにふんわりやんわり伝えたはずなのにクリスティーナは気にしないと言う。

しかもこんなにきっぱりと。

そんなに厄介な頼みごとなのか、とか実は王家が絡んだ醜聞なんて所詮娯楽としてしか捉えられていなくて実害なんてないと考えられているのか、ディアーナは判断に迷う。

そして目の前で微笑みながらもこちらをしっかり見据えてくるクリスティーナを見て、ごちゃごちゃ考える事を止めた。

(だってわたくしにはもう背に庇わねばならぬものも窺わなければならぬ意向もないのだもの)


「では、お言葉に甘えさせていただきます。わたくしはディアーナと申します。実は今日の宿をどうしようかと思っていたところだったの」


ディアーナは淑女の皮をぽいと放り投げてにっこりと笑う。

なんだか目の前の靄が晴れたかのようにとてもスッキリした気分だった。

そしてこの行動によって、何となくではあるが自分の中の何かが変わったように感じていた。









【side:ファルリアス侯爵】


先日やっと小賢しい娘を屋敷から追い出すことに成功した。

家のために駒になることには何も言わずに従ったくせに、やれやり方が悪いだのタイミングを考えろだの家長たる自分に事あるごとに文句を言ってくる厄介者だったのだ。

世間では金より濃い軽薄な黄色の髪と黒に近いこげ茶の瞳という外見から向日葵令嬢、なんて呼ばれて嘲笑されていたのは知っている。

そのくせ気位の高さが前面に出たような近づきがたい雰囲気を放っているのだ。

わざわざ付け込まれるような交流なぞ必要はないが、仮にも侯爵令嬢なのだから城での王子妃教育なんぞにかまけてばかりいないで、にこやかに社交くらいこなして来ればよいと常々思っていた。


それにあれを見ていると亡き母を思い出すから始末が悪い。

姿形が似ているわけではないが、纏う雰囲気が似ている気がするのだ。

執務室でディアーナに文句を言われるときはいつも首の後ろの毛が逆立っていた。

まるでまだ母が生きていて幼子のように小言を食らっている気になるのだ。

侯爵はあの時間が死ぬほど嫌いだったのを思い出して身震いをした。


「バカバカしい」


もうあれは追い出したし何なら娘ですらなくなった。

何度も心の中で繰り返して頭を振り、来客を迎えるために中身を切り替える。

本日は王宮よりの使者と共にとても大事な人物がやって来ることになっていた。

手駒なき今、失敗は決して許されないと気合を入れなおす。

約束の時間まではあと少し。

厄介者が居なくなったお陰で自分の侯爵家はこれで元の栄光を取り戻すと信じて疑わなかった。




ファルリアス侯爵はディアーナの実父です。そして既に親子の縁は切れています(念のため

短い期間とはいえ、母亡き後この父親との生活は大変だったろうなぁ・・・。

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