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お待たせいたしました☆
お疲れのご様子だから刺激しないようにというクリスティーナ様からの指示を受け、気性が穏やかで機転も利くデイジーを侍女とすることに致しました。
…が、そのデイジーが真っ青な顔をしてガタガタと震えながらわたくしを呼びに来たではありませんか。
あの時の、感情を押し殺して選定者様からのご要望を正確に伝えようとしているデイジーの様子は忘れられないでしょう。
奥歯を噛みしめそうになるのを堪えながら彼女の話を聞き、これでは駄目だと感じておりました。
やはり人族とは他種族の痛みなぞ感じぬような者か、と。
今になって思えばお恥ずかしい限りですが、その時は本当に悔しく、そしてそのような者に我が国の王が選ばれるのかと絶望すら感じていたのです。
全ては杞憂だったのですけれどもね。
間違えました。
全ては大事なことを端折り、ご自分の頭の中でのみ話を進め、他者の都合や迷惑を顧みずに巻き込んでいくクリスティーナ様の引継ぎミスのせいです!
失礼、つい感情的になってしまいました。
クリスティーナ様は大事なことであればあるほどいつもそうなのです。
真意は明かさずに、結果としては何かを成し遂げてしまう。
だから竜王陛下といえどあまり強く注意ができませんでした。
まぁ、あの方も語気を強めて、とか叱責する、とかができる性分ではないのでしょうけれども。
わたくしはデイジーに、退出した後、何事かがあった際の為にこの屋敷の主人でわたくし共の雇用主であるアカーテ伯爵を呼びに行くよう申し付けました。
選定者様に関しての何かはアカーテ伯爵にしか決定ができませんから。
話が逸れましたね。
色々な感情や思考を押し込めながら、ご挨拶をした時に初めて拝した選定者様の佇まいは、可愛らしいお顔の造形に似合わず、気位の高いどこぞの高位貴族のようだったと記憶しております。
わたくしがどんな感情を持っていようと、お相手は現在この国で最も尊重されるべき方。
慎重に線を引きながら二言交わして気づきました。
選定者様は何の情報も持たされずにここへ連れてこられたのだと。
これはやらかしたのはクリスティーナ様ね。
面倒なことに、クリスティーナ様からは自身の名を出すことや先代の選定者であった旨を伏せておくようにと依頼がありました。
選定者様が知るのを出来るだけ引き延ばしてほしいと。
これは事前の話にあったため、屋敷中に徹底させてあります。
外でクリスティーナ様のお名前を呼ぶ者は滅多におらず、役職名で通っているため問題はないと考えます。
それよりも問題なのは選定者様が人族で、彼女が未だ持たざる知識があるということです。
抜け目のないどこぞの高位貴族なんかはここぞとばかりに付け込んでくることが予想されました。
それを避けるために選定者屋敷があるのだから、何としてでも回避せねばなりません。
わたくしは手筈通りデイジーを部屋の外へ出して、僭越ながら選定者様にこの国についてをご説明差し上げました。
説明を聞き終えた選定者様は大変困惑しているご様子でした。
しかし、次の瞬間にはぐっと前を見据え、部屋を見渡し始めたのです。
勿論わたくしのことも。
その時の選定者様の瞳の力強さに思わず気圧されてしまい、後ずさってしまったのを隠すための苦肉の策として膝を折って淑女の礼をしたのでございます。
その瞳を直視したのはほんの一瞬。
けれどもあの方の瞳が頭からも心からも離れなくなっております。
「まるで瞳そのものが光を帯びているように見受けられた」
思わず記憶が口から零れ落ちてしまうほどに強烈に焼き付いているのです。
『カナリア、私が選定者であるという客観的な証拠はありますか』
そう言って目に見えて判る証拠を求められた選定者様に事実を告げ、納得してもらおうとしたらまたしても問題が発生しました。
あろうことか選定者の証を誰からも見えるように掲げられたのです。
「いけませんお嬢様!」
ありえない出来事に、わたくしともあろう者が怒鳴りつけるようにご忠言申し上げる事しかできなかったのです。
ええ、それくらい動揺していました。
このお屋敷にはきちんと結界も張られていますし、選定者様が憂うことなくお過ごしになれるよう、外からの視線への認識阻害魔法もかかっていますから、外部の人間に見られた可能性は低いはずです。
けれども、それでも、選定者様の身の安全の為にこれだけ譲れなかったのです。
選定者様は腕をさらしてしまったことの方を重要視しておいででしたが。
これも後程の教育できちんと指摘させていただきましょう。
幸いにも学ぶことに拒否感がない(むしろ喜んでいる)ように見受けられますし。
…それにしても選定者様の素はわたくしを先生とお呼びになられた時の方なのかしら。
だとすれば普段はとても気を張っていらっしゃることが予想されます。
最初にお目にかかった際の出で立ちがあまりに自然で、四角四面のご性格の方かと思いこんでしまったのも間違いだと考えられます。
きちんと選定者様自身をみようと心に刻んでおきましょう。
伯爵との顔合わせも済んで、本人たちも納得する形で侍女が決まり、選定者様からのご要望も頂戴して次に移るかと思いきや。
「ま、いいんじゃない?こんな感じで彼女は使い分けができそうなんだし。あの子みたいに大事な時にヘマはしないって」
わたくし何度も申し上げましたわね、クリスティーナ様のお話はなるべくなさらないようにと!
いつもの調子で色々滑らせてしまわぬようにと!
思っていたことが伝わったのでしょう伯爵は口元を引きつらせておられました。
だからそういう反応をなさるところが遠縁であらせられるご令嬢にそっくりだというのです!
次回は王竜の候補者たちとの顔合わせ(予定)です。




