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初めての投稿で勝手がわからず見辛いことがあるかもしれません。
順次修正予定ですのでお付き合いいただけると幸いです。
コメント欄の開放ですが、作者はメンタル豆腐どころか某持ち帰るのがチャレンジな黄色いケーキですので物語がある程度進んでからを予定しています。
闇に紛れて動く人影がある。
見つかることを恐れてか、手に持つ灯りをマントに隠しながら道を急いでいるようだ。
「一体何処まで歩かせるつもりだ・・・?」
苛立ちを滲ませた声が掠れて消える。
男の声からは苛立ちだけではない感情も感じとれる。
ソレには男が胸の内に抱えている感情がとても美味しそうに感じられた。
だからソレは男の前に姿を現す。
「こんばんは、王子様」
シャラシャラと楽器を振り鳴らしたような声で男を呼び止める。
これから始まる“楽しい事”に思いを馳せ、ソレは紅い瞳を煌めかせながら笑みをこぼした。
***
どこにでもありそうな王国。
そこのどこにでもいそうな王子の誕生日パーティーが開かれている夜。
なんだか最近やたらめったら増えているらしい茶番劇が繰り広げられていた。
「ディアーナ!君との婚約はここに破棄させてもらう!!」
どこにでもいそうなこのパーティーの主役がそう宣った。
しん、と静まり返ったホールでは渦中の人物の周りを囲んでいた人垣がさざ波のように引いていく。
渦中の人物であるディアーナだが、突然そんな非常識なことを叫ばれても驚きはしなかった。
たとえそれが王家主催のパーティーで、大衆の面前であったとしても彼ならどんな非常識なことでもやりかねないと瞬時に納得したからだ。
(ああ、とうとうやらかしたわね)
貼り付けた笑みはそのままに、内心だけでため息をつき声のした方へ向き直る。
「まぁ…婚約者のエスコートすらもお忘れの第一王子殿下ではありませんか。本日はお誕生日おめでとうございます」
自身の婚約者に淑女の礼をしつつ形だけのお祝いを差し上げる。
「こんな時だというのに君という人は…!」
流石にエスコートをすっぽかした上に片腕に重たそうな荷物をぶら下げていることを非難されたことには気づいてもらえたようだ。
だがこれ以上言わせてやるつもりはない。
「ミザリー伯爵令嬢もいらしたのね」
件の重そうな荷物の名前である。
ディアーナは荷物を視界の端に収めつつ王子に目線を定めた。
「婚約破棄、とは穏やかではありませんわね。念のためにお伺いいたしますが、国王陛下はご承知のことでしょうか」
この際理由なんぞどうでもいい。
誰が見ても明らかな破棄理由はその腕の荷物だ。
無理にこちらを有責にしようものなら流石に王家の威光も陰ってしまうだろう。
だがまさかの事態に備えて素早く扇子を装備しておく。
これはディアーナが骨組みになる木からこだわって作らせたお気に入りの扇子だ。
「当然だ!両家の同意は取り付けてある!」
こんな異常事態の真っただ中だというのに扇子で隠した口元に薄く笑みを浮かべてしまったのは内緒。
だってそれがお気に入りの扇子のおかげなのかそれ以外の理由なのかはディアーナにも判らなかったから。