亡霊
俺達は時間をかけてこの階層を調べた。
階下に降りる階段と広間。
それ以外はほとんどが居室だった。いくつかの倉庫らしい部屋は有った。
「しかし、けっこ空っぽだけど、本当にお宝は有るのかな」
「ええ、嫌なこと言わないでよ。ここまで苦労してきたのに」
苦労したのは俺達だと思うけどな。
「これだけの魔物や仕掛けが残っているのですから、何か大事なものも残っていると期待しましょう」
「そろそろ腹が減ったな。まず腹ごしらえしようじゃないか」
全員で広間に移動した。
家具は無いので、マジックバッグからテーブルと椅子を出す。
そこで簡単な夕食を摂ることにした。
「さて、この後はどうするかな」
「地下に行くんでしょ」
「今日はとりあえずここで一晩泊まらないか。もう疲れちまったよ」
戦いに疲れたと言うか、敵がいないので飽きてしまったのかもしれない。
「ダンジョンで野営するのも怖いけど、ここはまた別の怖さが有るわね」
「なんか怖いです」
確かに知らない所は不安を感じるもんだな。
「ジミー、何か情報は無いか。ここで一晩過ごすのは安全だと思うか」
「うーん、資料からはこれ以上の話は無いけど、さっき言ったように、もうモンスターは出ないんじゃないかな」
「それなら、一晩体を休めるとするか」
奥の寝室にベッドが四つある広い部屋があったので、そこに入った。
「イザベラとノラはジミーを守ってベッドで寝てくれ。俺達3人が交代で見張りに立つでいいだろう」
まず俺が見張りに立った。立ったというか椅子を出して座った。扉は開けたままにして椅子で止めておく。ウーコンとシロウはソファにそれぞれ横になった。
廊下はシーンとしている。イザベラが言ったように、妙な怖さが有るな。不安と言った方がいいのか。
コツコツという音が聞こえたような気がした。
身体強化して聴力も強くしている。空耳とも思えないが、自信が持てない。
椅子から立ち上がり、左右を見回すが特に異変は無い。
この部屋は階下に続く階段の近くに位置している。左の突き当りを右に曲がれば階段だ。
なにかそちらのほうから気配がしたような気がした。索敵の魔法は使えないので、本当に気がしただけだ。
ふと何かが突き当りに出現した。階段の方から曲がってきたように見えた。
モンスターかもしれないが、奥には強い味方も居る。心配はない。
その存在はゆっくりと近づいてきた。コツコツという音は聞こえていないが、俺の脳には聞こえているような気がする。
アンデッドか。背筋が凍るような恐怖を感じた。
レイスやスケルトンとは違う恐怖。何だろう。強さを感じているわけではない。
見た目は二本足で歩く人間だ。貴族が纏うような気品を感じさせ、衣服も今の時代とは違うが、上品なものを身に着けている。しかし、薄い。
姿もわずかに薄いが、存在の薄さが感じられる。
男は俺の3メートル程先で足を止めた。
「ヨクキタ」
「あんたは誰だ」
「コノシロノオウ、カーブースサイード」
王か。おそらく亡霊なんだろうな。元々の霊力か何か、その力が俺に恐怖を与えているのだろうか。
「俺達は冒険者だ。あんたの城に勝手に入って悪かったな」
「イイダロウ。ワレハオソラクセンネンマッタ」
「何を待ったんだ」
王の亡霊は少し黙った。
「ナニヲマッタノダロウナ。
センネンヲスギルトカゾエルノモヤメタ」
どのくらい昔なのか、この王にもわからないようだ。
「ワレラハホロビタ」
やはり亡霊のようだ。
「ホロビルマエニ、シロニ、ソトニ、マモリヲオイタ」
モンスターやゴーレムのことだろうな。
「シカシ、ムダナコトダ。ホロビハトマラナイ。ソトニニゲタモノモイルガ、ホロビハトマラナイ」
王の亡霊は悲しいのか淡々と語る。
「ワレハミタカッタ。ダレガクルノカミタカッタ。コノシロニノコッタモノハオマエタチニクレテヤル」
俺は大きく呼吸をした。
王の薄い存在感が益々薄くなっていった。
その姿も暫くすると見えなくなった。
俺は大きく息を吐いた。
ふと横を見るとウーコンとシロウが立っていた。正直周りに意識を向けられず気付かなかった。
「霊体のようでしたね。言ったとおり千年以上待ったんでしょう。既に余韻でしかないのに、凄まじい力を感じました」
「そうだな、俺も思わず襲い掛かりそうだったぜ」
相変わらず物騒な科白だが、王の力に反応して体が動きそうだったってことだな。
「俺達に宝をくれるようだぜ」
「いい言質をいただきました」
「本当に宝が有ればだな」
「さて、リード交代しましょう。疲れたでしょう」
「ああ、頼む。本当に疲れた。
俺はソファに横になり、眠りに落ちたが、何かに追われているような感じがずっと拭えなかった。
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