殲滅
村に戻ると村長たちが出迎えてくれた。
「おお、よく戻られた。首尾はいかがですかな」
「ああ、とりあえず20匹あまり退治してきた。これで暫くは大丈夫だろう」
俺はゴブリン達から取った魔石をみせる。
「おお、ありがたい。やはり素晴らしい冒険者さんですな」
俺達は歓待され、夕食には少しばかり酒もふるまわれた。
ギルドには魔石を見せれば依頼は達成になるが、念のため依頼書に村長の一筆ももらっておいた。こうしておけば間違いないだろう。
村長の家に一晩泊まり俺達は村を後にした。
「じゃあ、もう一件の方を片付けようぜ」
「ああ、探索ってことだが皆殺しでいいんだな」
ウーコンが言うと随分物騒に聞こえるな。
「まあ、退治しておけば問題ないだろうな」
今度は群れそのものの様子を見る必要が有るので、ウーコンの雲に乗って東に移動する。ハーラ草原の中央部でキントウンから降りた。
今日も索敵の魔法で群れを探すが、今回は5キロ四方くらいに範囲を広げた。あまり正確な数までは把握できないが、大まかな群れの位置は判明した。
「6ヶ所だな。だいたい想定通りだ」
俺はゴブリン達の群れの位置を地図に記しておく。大雑把だが、これくらいでも依頼はほぼ達成と言えるだろう。
「で、皆殺しでいいか」
ウーコンが目を輝かしているように見える。殺戮者と呼ぶべき存在かもしれない。
「まあ、結果的にそうなっても問題ないだろうが、とりあえず一番近い所に行って様子を見よう。どうするかはその様子で考えよう」
南東の方向に移動し、もう少し丁寧に索敵の魔法を使う。
「この先に林が有るが、そこにだいたい150近く居るな。一般的に群れは100くらいと言われているから、ひょっとしたらスタンピードの前触れくらいとは言えるのかもな」
俺達は林が見える位置に移動した。普通に肉眼で何匹かのゴブリンが見える。どうも樹木に縄を掛けたり、伐採した木を組み合わせて屋根を作ったり、巣と言えるような物を作って住み着いているようだ。
「まあ、全滅までさせなくてもいいが、半分は間引いておきたいな。ウーコン頼めるか」
「ああ、任せとけ」
ウーコンは昨日のように毛を毟り息をフッと吹きかけた。今日は20人余りのウーコンが現れた。
ウーコン達は瞬く間に林に分け入り暴れだした。ゴブリン達は大慌てだ。俺達は高みの見物を決め込んでいたが、これだけの集団なのでやはりゴブリンメイジも何人かいて、反撃の魔法を撃っているようだ。よく見るとホブゴブリンも居て、分身のウーコンと互角とは言えないが、どうにか一撃で葬られることは回避しているように見える。まあ、ウーコンも分身なのでその力は本人より相当低いようだ。ゴブリン退治には十分すぎるが。
暫くすると騒ぎも静かになってきた。
「大体片付いたかな」
「おう、林の外に逃げた奴らも随分いたようだが、半分以上は片付けただろう」
俺達が林の中に入るとゴブリン達が折り重なるように倒れていた。メイジらしい奴も居るし、ホブゴブリンも何体か居た。
「ウーコン、分身の者達に魔石を取らせてくれないか」
多分100体くらいから魔石を取るのは俺も骨が折れる。
「ああ、そうだな。かまわないよ」
ウーコンの分身にも手伝ってもらって魔石を回収した。分身ウーコン達はナイフのようなものは持っていないが、爪が鋭く、作業は容易だったようだ。
魔石は118個あった。30匹くらいが逃げ去った計算になる。
「さて、どうする」
これで一つの集落は潰したわけだが、後5ヶ所有る。ウーコンも一ヶ所終えて多少気が済んだようだし、全て壊滅させることもないだろう。
「もう一つくらいでどうだ」
「ああ、そうだな。今度は俺が乗り込むよ」
頼もしい限りだ。
俺達は北に向かって進んだ。暫く行くと小高い丘が見え、ずっと先は高くはないが山が連なっている。
「この先だな」
俺は再び索敵の魔法で様子を伺う。
「丘の中腹に洞窟があるようだ。入口も何ヶ所かに分かれていて、その中がゴブリンの巣だな」
「洞窟か、狭いかな」
「どうだろう、入ってみないと確かなことはわからないな。ところで俺も入っていいか」
「ああ、二人で行くか。俺もここのモンスター相手の腕試しでもあるから、今度はゆっくり楽しむぜ」
まあ、ウーコンが楽しむって言うと恐ろしく感じるな。
俺達が近づくと外に居たゴブリンが気が付いて騒ぎ出した。数匹が向かってくる。
ウーコンに近づいた奴はニョイボウで軽く殴られ吹き飛んだ。俺も剣で3体ほど切り伏せた。少しは剣も使わないと実戦の感が狂うからな。
後の連中は洞窟に逃げ込んだ。本体に注進し、少しは強い奴が出てくるのかな。
俺達も洞窟に入った。ここの入口は大きく、2メートルくらいの高さが有るので、俺でも普通に立ったまま歩ける。所々に燭台があり、仄かに明るい。まあ、俺は身体強化で視力を上げているし、確かウーコンも夜目が利くはずだが。
中からは矢が飛んできた。5匹ほど弓隊が居るようだ。二人で全ての矢を叩き落す。ウーコンはあたっても平気だろうが、昨日は怒っていたから、痛いことは痛いのかもしれない。
ウーコンが風の魔法を使った。強風が弓隊を吹き飛ばした。入れ替わるように10匹ほどが棍棒を振り上げて向ってきた。その後ろではゴブリンメイジが3匹詠唱しているのが目に入った。魔法は喰らいたくないので、先に無詠唱でファイアーボールを撃ちこみ、3匹のメイジを焼き尽くす。
棍棒を持った兵士たちはファイアーボールに驚きはしたが、自分には当たらなかったので、気を取り直して打ちかかってきた。まあ、俺やウーコンから見たらスローモーションみたいなもんだから、軽く弾いて反撃する。俺が剣で3匹斬る間にウーコンはニョイボウで6匹殴り倒していた。
奥へ進むと体の大きな、俺くらいの身長のゴブリンが3匹現れた。進化種のホブゴブリンだな。ガッチリしていて、どこかで拾ってきたのだろう、軽鎧を身に着けている。2匹は大きめの棍棒を手にしているが、残りの1匹はショートソードを握っていた。
まあ、正直俺達にはどうってことはない。新人冒険者ならビビるかもしれないが、俺達にとってはゴブリンもホブゴブリンも変わらない。2,3合攻撃させてみたが、たいしたこともないので斬り捨てた。2匹はウーコンが叩きのめした。
「さて、もういなくなっちまったな」
ほかのゴブリンの気配がない。奥に隠れているのか、それともほかの出口から逃げ去ったか。
俺達も殲滅が目的ではないので、もうゴブリン退治も飽きてきた。ウーコンもそんな感じじゃないかな。
「どうだウーコン。だいたい気が済んだか」
「そうだな。俺はこんなもんでいいかな」
俺達は元来た道を戻り、洞窟の外に出た。やはり陽が明るいのは清々するな。
少し索敵の魔法で様子を探った。洞窟の中に潜んでいるのが50匹くらい。幾つにも枝分かれして、かなり広い洞窟ではあるようだ。外に逃げている個体も30は居るようだ。もっと遠くまで逃げ去った奴もいるかもしれない。
ウーコンにキントウンを出してもらって、俺達はギルドに帰った。まあ、ひとっ飛びだ、