海の中
シロウの転移魔法で行った先は錬金術の店だった。
「こんにちは」
反応は無いが、そのまま店に入った。
「奥へ」
シロウに続いて奥に進む。
「こんにちは」
「ああ」
愛想無く答える子はアイシャと言うそうだ。
「師匠は」
「出かけてる」
とてもシンプルな会話だな。
「ちょっと魔道具を借りに来ました」
「何を」
「海に潜りたいので、マウスピースをお借りできますか。5個くらいありましたよね」
「わかった。言っとく」
シロウは勝手知ったる様子で戸棚から小さな魔道具を取り出した。シロウもマジックバックを自分で作って持っているので、それに魔道具を入れた。マウスピースと言っていたな。
「それじゃあ、お借りしますね」
「うん」
俺達はその場から転移術で移動した。
「イザベラはこっちに来たことはないのか」
「そうね。海を見たことはあるけど、ここは初めてね。ウーコンは海は知ってるのよね」
「ああ、さっきも言ったが竜宮まで知っている。だけど、こっちの世界では初めてだな」
「ウーコンの世界の海とは違うかしら」
「うーん。そう変わらないな。潮風も同じ香りを運んでいるようだ」
「ウーコン、詩人ですね」
暫く行くと民家が見えてきた。
「随分田舎のようだな」
「そうですね、私の村くらいです」
浜には大小さまざまな船が見られるが、人の姿がない。家々は木造の平屋が多く、漁師町といった雰囲気を出している。
「あれっ」
丁度そこにリードとシロウが姿を現した。
「いいタイミングだったようだな」
「ばっちりです」
「なにか変わったことはあったか」
「そうね。途中で蟹のモンスターが出たけど、ノラが退治してくれたわ」
「ですです。活躍したです」
「おお、それはたいしたもんだ」
赤の魔剣の力でノラの実力も底上げされているだろう。
「クエストはどうだった」
「ああ、マーマンの被害があるらしい」
「それで人の姿が見えないのかしら」
「マーマンってのはモンスターか」
「ああ、人型のモンスターだな。手足の生えた魚ってところだ」
「そうね、大きくないから、数が多くなければ強敵じゃないわね」
「でも、マーマンは海に居るです。どうやって戦うですか」
「うん。それはシロウが秘密兵器を持ってきた。だが、それよりここの住民に話を聞こう」
俺達は近くの家の戸を叩いた。
「こんにちは」
中年の女が怪訝な表情で出てきた。
「俺達はギルドの依頼で来たんだが」
「ああ、冒険者の人たちですか。あそこのちょっと大きい家が村長さんの家だから、あそこに行ってください」
女の言うとおり奥の家を訪ねた。
「こんにちは」
村の中では広い家だった。奥から初老の女が出てきた。
「ギルドの依頼できました」
「まあ、それはそれは。あなた、冒険者さんが来てくれたわよ」
俺達は奥に通された。村長は背の高い初老の男だった。
「ありがとう、あんた達を待ちわびていました」
「マーマンが出たと聞きましたが、何匹くらいですか」
「ああ、実際に見た者から話をさせます」
そばに居た若者に話を変わった。頭に包帯を巻いている。
「俺はレオって言います。俺達が10人くらいで一艘の船に乗って漁にでたんですが、浜から2キロくらいのところで襲われたんです。
いきなり船底をガンって何かがぶつかって、あって思ったら両方の船べりからマーマンが上がってきて、あっちも10匹くらい居て、手には銛みたいな物を持っていました。半分くらいはその銛に刺されて、海に落とされちまいました。俺達は棒や銛を持って応じましたが、暴れたからでしょうが、そのうち船がひっくり返っちまいまして、俺と後二人、どうにか泳いで逃げてきました」
「前からマーマンを見ることはあったんです。ただ、襲ってきたのは今回が初めてでして」
船長が言葉を継いだ。
「なるほど。それじゃあ、襲われたあたりへ船を出してもらえますか」
村長と若者は顔を見合わせた。
「いやあ、船を出すのはちょっと。みんな怖がってしまいましてね。漁にも出れない有様です。まあ、それで冒険者さんを頼んだわけですが」
「どうする」
俺は仲間を振り返った。
「場所さえ教えてもらえば、魔道具で移動することはできますが」
シロウの言う通り、外に出てレオに説明させた。出港した浜の位置を聞けば、2キロくらいなら大した誤差はでないだろう。
「みなさん、これが海の中で動くための魔道具です」
シロウがマジックバッグから二つの魔道具を取り出した。
「これがマウスピースと言って口に含みます」
言いながらマウスピースを自分の口に入れて嚙合わせる。
「こんな具合ですね」
口に入れても喋れるようだ。
「もう一つはこれです。水中歩行器です」
シロウはタオルのようなものを取り出した。左右の足の膝下に巻きつけるようにした。これで歩くように泳げます。それなりに速さも出るので、マーマンに後れを取ることもないでしょう」
俺達はマウスピースと水中歩行器をつけて海に入っていった。
「言い忘れましたが」
シロウの言葉が奇妙な感じで聞こえた。
「口を閉じたまま喋れば、マウスピースの魔力で全員のマウスピースを通じて言葉が届きます。何か危険があったら口を閉じたまま喋ってください」
「こんな感じですか」
今度はノラの声が響くように聞こえた。
やがて水深が深くなり、腰から胸まで水中に入る。
「体を前に倒して、少し足を動かすようにしてください」
シロウの言葉が響くように聞こえてきた。言われるままに体を前傾させ、足を少し動かすと体が泳ぐように進む。顔が水中に沈んだが、マウスピースの魔力で自然に息ができる。まわりを見るとみんなも自然に、どちらかと言えば、楽しそうに進んでいた。




