蟹退治
ザラタンはノラの声が聞こえたかどうか。すいすいと沖へ泳いでいった。
やがて水に潜り、その巨体も見えなくなった。
「いってしまったです」
ノラが寂しそうに言った。
「まあ、縁があればまた会うことも有るでしょう」
「海に来たなら泳ぎたいけど、こんな格好じゃ無理ね」
「ああ、海水浴はこの次だな。一度みんなで遊びに来るか」
「いいですね。新しい水着を買ってくるです」
「今日はどうする。まだ、時間も早いだろ」
「そうだな、ここはシーズンなら海水浴で賑わうらしいが、今は人気もない。
ここから西に行けば漁港があって、東に行けば貿易港だ。どっちに行くかな」
「港のクエストは無かったのかしら」
「ああ、そう言えば漁港の方に何かあったような気がするな。
すまないが、シロウ一度ギルドに戻ってくれるか。沼の報告もしながら、漁村のクエストを確認してくるよ」
「ザラタンはなんと報告するですか」
「そうだな。いなかったと言うしかないだろう。まさか海に放したとも言えないしな」
全員で転移することもないので、俺とシロウでギルドに行くことにした。残りの3人は海を眺めながら漁港まで移動だ。
「ウーコン、両手に花だな」
「ああ、天国のようだな」
いつも以上に顔を赤くしてよろこんでいる。
「リードはああ言ったけど、私はお邪魔じゃなかったかしら」
「そんなことはないさ。女性は多い方が華やかでいいな」
「ですです。イザベラは華やかですからね」
3人は海を眺めながら砂浜を西に向かって歩いて行った。
「たまには自分の足で歩くのもいいわね」
「そうですね。広い海を見ながら歩くと、心まで洗われていくようです」
「んっ。何か居るな」
ウーコンが呟くように言った時、前方の砂が急に盛り上がった。
「蟹のようね」
人より大きいくらいの蟹型のモンスターが鋏を振り上げていた。
「どうする、倒せばいいのか」
「いえ、ノラにお願いしましょう。魔剣に慣れるのも必要でしょ」
「任せてください。ウーコンの魔剣を使いこなせるようにしたいです」
「じゃあ、頼んだぜ」
「はいです」
言うが早いか、ノラは赤の魔剣を構えて一気に斬りこんだ。
モンスターは鋏を上げて魔剣を受けたが、魔剣のスピードは落ちずに真っ二つに斬り下ろした。
「おお凄いな」
「魔剣の切れ味は抜群です」
「俺もマジックバッグを買って来たから、素材はこれに入れていこうぜ」
「あら、いいわね。お願いするわ」
3人で魔石と素材を採取して、そのまま西に進んだ。
ギルドに戻ると、受付にはサラが居た。
「こんにちは。お早いお帰りですね。今日はボウズですか」
「釣りじゃないんだからボウズじゃねえよ。調査依頼の報告に戻ったんだ」
「ああ、ウートー沼のザラタン目撃情報ですね」
「そうだ。残念ながら、ザラタンはいなかった」
「本当ですか」
サラが上目遣いに聞いてきた。
「なんだ、信用してくれないのか」
「いえいえ、飛ぶ鳥落とす勢いのキントウンの報告を疑うわけではないですが、いませんでした、はいそうですかってのもつまらないですからね。少しは聞いてみようと思いまして」
「目撃自体を否定するわけじゃないが、今回はいなかった。飼うのが大変な奴が放したけど、やっぱり情でまた連れてったのかもしれないな」
一応、それらしいことを言っておく。
「なるほど、一応それらしいですね」
「なんだよ、一応って」
「一応は一応ですよ。真実はわからないですから」
「そもそもザラタンは海亀だろ。沼に居る方がおかしいんだよ」
「まあ、それはそうです。では、報告を承りました」
ふざけて敬礼してやがる。まあ、憎めないな。
「ところで、漁村あたりでクエストが出てなかったかな」
「ああ、コーガ―港からの依頼ですね。マーマンの被害があるそうで、討伐依頼が出ていますね」
「じゃあ、それを受けるよ」
俺達は小額の謝礼を受け取り、新しい依頼票を持ってギルドの外に出た。
「それじゃあ、シロウ、また転移してくれるか」
「すみませんが、ちょっと寄り道させてください」




