依頼
俺達は依頼の受付をもう一度サラに確認してから外に出た。
「ギルドはああいう奴らが多いのか」
「多いな。冒険者は荒くれ者揃いだからな。まあ、昼間から暴れる奴は少ないが」
「で、依頼はなんだ」
「ああ、実は二つあるんだ」
俺は依頼の用紙と国の地図を広げた。
ラースターは街と呼ばれたりラースター地方と呼ばれたりする。ラースターの街はこの市街のことだが、ラースター地方っていうと街の外の森や荒れ地、幾つかの村などをひっくるめて指す言葉だ。
ノーマン王国自体が南に海、北は山地という地形で横に長いが、ラースター地方は王国の中央に位置する王都の東隣に当たる。ラースターの街も南側は港が有る港湾都市で、街から出て北は草原や荒れ地を経て割となだらかな山。その間に幾つかの村が点在している。
持ってきた依頼は平地を北に10キロ程進んだところにある草原で、そこも10キロ四方くらいだが、そこに住み着いているゴブリンが獲物だ。ハーラ草原とか言う名前だが、ゴブリンが多いのでゴブリン草原と呼ばれることが多い。
「一つはゴブリン退治だ。地図のこの辺だが、イハーラ村という村が有って、最近その近くにゴブリンが現れるので退治してくれって話だな。謝礼は安い」
「ごぶりん?魔物の種類か」
「ああ、ゴブリンは弱いモンスターだ。子供くらいの大きさだし、並みの一匹ならその辺の農民が棍棒で殴っても退治できる。だけど繁殖力が強いから、結構群れるんだな。十匹、二十匹が得物を持って襲ってくると農民じゃあ手古摺るな。まあ、ウーコンなら百匹でも軽いだろうが」
「見てみないとなんとも言えないが、まあ、難しくはなさそうだな」
「ああ、魔法を使う奴とかホブゴブリンという上位種は多少力が有るが、俺達の敵じゃねえな」
まあ、だからEクラス向けの依頼になってるんだけどな。
「で、もう一つは」
「今のは西側のイハーラ村の近くの話だが、ここのハーラ草原の中央から東側には結構なゴブリンが生息しているんだ。さっき言ったようにどんどん子供を産むから数は多い。百匹近い集団が幾つも洞窟や林を塒にしている。もう一つはそこの調査だな」
「調査?」
「ああ、モンスターが爆発的に増えて暴走するのをスタンピードって言うんだが、スタンピードが起こる可能性がないかの調査だ」
「うーん、俺にできるかな」
「なんとかなるだろう。別に皆殺しにするなってわけでもないだろうから」
「ああ、退治していいなら簡単だな」
もう一度ウーコンに地図で説明して俺達はキントウンに乗った。
キントウンだと10キロもひとっ飛びだな。俺達はハーラ村の入口で降りて、村に入っていった。
もうそろそろ夕方なので、村人が農作業から三々五々戻っているようだ。俺達を見て胡散臭い奴らだと思っているような顔だな。
「ちょっといいか」
俺は四十がらみの男に話しかけた。
「はい、なんでしょう」
男はウーコンをチラチラみながらおっかなびっくりで返事をしてきた。
「俺達はゴブリン退治を請け負った冒険者だがわかる人はいるか」
「ああ、はいはい」
男は離れたところに居る男に振り向いた。
「おーい、村長さん。冒険者さんがきてくれたよお」
村長と呼ばれた男が寄ってきた。がっちりしているが60近いように見えた。
「ああ、冒険者さんでしたか、ありがとうございます。なかなか、ギルドから返事がないんでやきもきしておりました・・・。そちらは」
やはりウーコンが気になるようだ。
「俺はリード。こいつは相棒のウーコン、猿人だ。実はこっちが本体で俺は手伝いなんだ」
「そうですか・・・。よろしくお願いします」
まあ、不安な顔はするだろうな。
「半月ほど前からゴブリンが村の近くに現れるようになりまして、だいたい5,6匹くらいなので村の若い衆が鋤鍬持って追っ払っているんですが、なかなかいなくならないもんで、これ以上増えたら厄介だと思いまして依頼をだしたんです」
「そうだな、早く手を打つに越したことはないな。俺達は草原全体のゴブリンの調査も請け負っているから、今日はこの近くの奴を退治して、明日は少し足を延ばす心算なんだが、今夜一晩の宿を頼めるか」
「わかりました。では、あそこが私の家なので、客間みたいな上等なものは有りませんが、どうぞお泊り下さい」
「ああ、ありがとう。とりあえず、近くの奴らを叩きのめしてくるよ」
「お願いします」
村長と近くにいる数人の村人が深々と頭を下げた。