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マンティコア

マンティコアは動かない。

「あれ、両方とも動かなくなっちゃったわね。まだ、たいして戦っていないのに、疲れたのかしら」

「いや、魔物の方は動けないんだろうな。トリオンから放たれている殺気が凄い。それに三叉槍の構えもぴったりだ、下手に飛び込んだら串刺しにされちまう」

「でも、討伐依頼とかでモンスターと向き合った時に、こんな風に止まっちゃうことはないわよね」

「そうだな、俺も意外だよ。こういった闘技場っていう場所の持っている雰囲気というか、両方の心の置き所が洞窟や草原で向かい合うのとは違うんだろうな」

少しすると、マンティコアが唸りながら動き出した。右に左に尻を振るようにしてタイミングを計っている。

トリオンは三叉槍の穂先を少し下げて様子をみる。

「ふーん。誘っているのかな」

「そうなのかしら」

「うん。切っ先を下げただろ。あれで、マンティコアは上から襲いやすくなった。左右に動くと見せてトリオンを惑わす心算だったんだろうが、こうなると大きくジャンプするだろうな」

ウーコンが言ったとたんにマンティコアは高く飛び上がった。

ほとんど真上からトリオんにその爪を伸ばす。当然、トリオンはさっと穂先を真上に上げて、マンティコアを串刺しにしようとした。

ガキっという金属音がして、マンティコアの爪と三叉槍の穂先が激突した。

両者が押し合いながらマンティコアは自重で地面に降りる。三叉槍もそれに従って地面に平行に突き出される格好になった。

「見ろよ。あの巨体の魔物と互角に押し合ってるだろ。細い体だが、腕力だけでも相当だぜ」

トリオンの顔面が朱を注いだようになった。

「流石に持久戦は苦しいかな」

その時、トリオンから死角の下方から小手に何かが飛んできた。

ガシッという音と共にトリオンが三叉槍を取り落とした。咄嗟にマンティコアの爪を躱して、横倒しに逃げる。体を反転させて膝立ちになり、直ぐにショートソードを抜いて構えた。

観客席からは「キャー」という悲鳴が重なる。

「あの尻尾は毒針ね。素肌に当たればとんでもないことになったでしょうけど、小手で弾いたようね」

「随分長い尻尾だな。力比べの最中に下から襲われたら堪らねえな」

マンティコアは長い尾を今度は上空に構えながら、じりじりと間合いを詰めだした。


「ノラ、次に行けそうか」

「任せてくださいです。赤の魔剣を持った聖女は天下無敵ですです」

調子に乗っているようだが、大丈夫かな。

「索敵の魔法もこの魔剣を身に着けていると普段よりよく見えるですね。この先にお猿さんが5匹居るようです」

「待て」

俺は足を止めた。

「20匹はいるな」

「そのようですね」

「えっ。おかしいですね、私の探査では5匹しか見えませんが」

ノラが首をかしげている。

「上だ」

「えっ・・・

 あああ」

確かに木陰の地面には5匹の猿型モンスターがいるが、その仲間が樹上に10匹以上いる。

「キラーエイプの群れだな。その奥にも30匹ほど居る。手前のを攻撃すれば、全部で50匹が相手になるってことだ」

「ご、ごじゅうですか」

キラーエイプはチンパンジーとゴリラの中間のような姿をしたモンスターだ。好戦的というほどではないが、縄張り意識は強く、群れで戦う。ここを進めばぶつかるな。

体長は大きい奴で2メートル。まあ、人間より多少大きい程度だが腕力が強いのと噛みついてくる。犬型モンスターほどではないが、この噛みつきも侮れない。

「1分ほど待ってください」

シロウが青の魔剣を抜き、頭上に真っすぐ伸ばした。天を突くような構えで、なにか唱えているようだ。

「では、行きましょう。剣を抜いてください」

俺達はシロウに従って、木を避けてキラーエイプの居る場所へ進んだ。いるいる。だが、こちらを見もせず、動き求めている。上を見ると、樹上のキラーエイプも時が止まったようになっている。

「奥へ」

3人でその奥に進むと、そこの30匹ほどのキラーエイプも動きを止めていた。


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