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サーギの森

二人が観客席から眺めていると、トリオンと言う名前の剣闘士が三叉槍のトライデントを振り回すようにアピールを始めた。とたんに「キャー」っと黄色い声援が飛ぶ。ルーキーと紹介されたように若い。美少年と言っていいだろう。応援団が居るようで、10人余りの女性達がてんでに「トリオンさまー」とか「すてきー」とか声を張り上げている。随分な人気のようだ。

一方のマンティコアはまだ鎖に繋がれ、テイマーらしい係の者が暴れないように押さえている。

マンティコアはライオン型のモンスターで、この個体は体長7メートル余り、体高2メートル弱と言ったところだろうか。ライオンの胴体で顔には鬣が生えているが、顔そのものは人間の顔に酷似している。眉が下がり気味なので、顔だけ見ると情けないように見えるが、実際は獰猛な性質である。長めの尾には蠍のような二股の毒針が有り、初見でうっかり喰らうと致命傷になりかねない。

「マンティコアって言う魔物も力が有りそうだが、こっちの若者もかなりの腕のようだな」

「そうなの。線が細そうに見えるけど。まあ、強そうな武器は持っているわね」

「いや、ああ見えて相当な実力だろう」

「ウーコンが言うならそういうことかしら」

ぐわーーんという銅鑼の音と共に戦いが始まった。

開始と共にテイマーの手から解き離れたマンティコアはひと飛びに剣闘士に襲い掛かった。

トリオンは素早く体を捻ってモンスターの爪をギリギリ躱すと、さっと三叉槍を彼我の間に構えた。

マンティコアは二激目に移ろうと体を縮めたところでピタっと動きを止めた。


俺達3人はサーギの森に踏み込んだ。

「ノラ、索敵してみてくれ」

聖女ノラも一流の冒険者になれるように、いろんな技術を練習している。広範囲ではないが、探査の魔法も使えるようになってきた。まあ、俺のように器用貧乏になるのがいいかは何とも言えないが、できることが増えるのはいいだろう。

「はいです。割と近くにもそれなりに居ますね。一番近いのはそこの木の向こうに3匹います」

そいつは蜘蛛のモンスターだな。そう強くはないだろうが、割と面倒かもしれない。

俺達は得物を抜き放って木の後ろに回り込んだ。

俺は赤の魔剣をシロウは青の魔剣を持って近づいた。それだけでモンスター達は慌てふためいたようだ。青の魔剣はそうでもないかもしれないが、赤の魔剣はオーラが凄い。抜くだけでモンスターを威圧してしまう。

見ると蜘蛛型モンスターはアラクネのようだ。絵で見たことはあるが、本物は初めて見た。

蜘蛛の胴体の上に人型の体が突き出ている。人型の首の上には人の顔が乗っているが、眼に当たる部分には何もない。鼻と口があるだけだ。

慌てたように人型の口を開き、シャーっという音と共に3体とも白い糸を吐いてきた。これに絡めとられると面倒なことになりそうだ。ちょうど3対3なので、俺は魔剣で正面の糸を払った。特に魔力を込めなくても糸は溶けるように消えていった。そのまま、踏み込んで袈裟懸けに人型を斬る。スパッという感じで軽々と人型を斬り飛ばした。しかし、蜘蛛の方が下方から伸ばしてきた腕が鋭く迫る。慌てて舞空術で宙に体を逃がし、蜘蛛がたたらを踏むようになったところを上から串刺しにした。これもほとんど手ごたえもなく地面まで突き通した。凄い切れ味だな。

横を見ると、シロウに向かっていたアラクネは人型が前かがみに体を倒して静止していた。その向こうを見ると、ノラがかなり糸に体を巻かれている。必死に短剣で糸を切ろうとしているが腕自体が絡めとられていて、あれではいくら短剣に魔力を通していても切れないだろう。

シロウがさっと近づいて魔剣でアラクネを斬った。ほとんど殺気も放たずに一太刀で人型を斬り、返す剣で蜘蛛の体を斬った。手練の早業だ。

アラクネが糸を吐かなくなったので、二人で近づいてノラの体に巻きついている糸を切っていった。

「ううう、動けないです」

「待ってろ、直ぐ切ってやる」

魔剣を近づけるとほとんど切るまでも無く、糸はどんどん溶けるように消えていった。凄い魔力だな。

「うう。助かりました」

ノラは涙目になっている。戦闘はまだまだのようだ。

「シロウ。こいつはどうなっているんだ」

残りのアラクネは人型を前倒しにしたまま動かないでいる。

「ああ、少し静かにしてもらいました。この魔剣の力で私の妖術を増幅してくれるので、このレベルの魔物でもなんとか抑えることができました」

そうか。魔剣は使いようによってろんなことができるんだな。

「ノラは腹が立ったでしょうから。この蜘蛛を斬ってみますか」

シロウが青の魔剣をノラに差し出した。

「いいですか」

「どうぞ、思う存分やってください」

ノラは魔剣を受け取ると、一振り横殴りにした。

軽く薙いだような一撃で人型が斬り飛ばされた。

「うわ、凄いですね。まるで手ごたえを感じないです」

「んっ。

ノラ、今度はこっちで斬って見ろよ」

俺は赤の魔剣をノラに差し出す。

「はい?じゃあ、借ります」

ノラは赤の魔剣を手にして、今度は蜘蛛の体を上から真っ二つにした。

「うわあ、こっちも凄いですね。バターでも斬ってるみたいです」

「ノラ。この魔剣を暫く使ってみないか」

「えっ。いいんですか」

「ああ、元々ウーコンの物だ。俺は借りているつもりでいるが、ノラがうまく使いこなせるなら、その方がウーコンも喜ぶだろう」

ノラは獣人なので元々膂力は強い。体は大きくないのでうっかりしていたが、このくらいの大剣を振り回すこともできそうだ。使うことさえできれば、この剣は遣い手を一流の剣士にしてくれるだろう。

「私の国には弘法筆を選ばずという諺があります。達人は何を使っても達人ということですが、逆にこの魔剣は持っている人を達人にしてしまうようですね」

「そうだと思う。この魔剣を使いこなせれば、ノラの実力は格段に上がるだろうな」

「わあ、嬉しいですです。こんな素晴らしい剣を使わせてもらえるなんて、ありがとです」

「礼はウーコンに言うんだな」

さっきは涙目だったが、機嫌はすっかり直ったようだ。


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