続冒険者ギルドあるある
「やあ、久しぶり」
俺は軽く手を挙げて、受付嬢のサラに笑いかける。
「えー、リードさんじゃないですか。半年ぶりくらいですか。凄腕冒険者が留守だったので、この街は火が消えたようでしたよ」
相変わらず軽口を叩く子だが、そこが可愛いと人気は高い。
「何言ってやがる、もう死んだとでも噂してたんだろう」
「そんなこと言うわけないじゃないですか。いくら思ってても」
俺は苦笑いを浮かべる。まあ、このテンポがいいんだな。
「もう私のことは忘れたと思ってましたよ。ところで、今日は依頼を探しに来たんですか」
「いや、今日は仲間の登録を頼みに来たんだ」
俺はとなりのウーコンを前に出す。
「お猿さんですか?」
今さっきのデカ物とのやり取りを見てないわけはないんだが、この子は知っててこういうギャグをかますんだよな。こっちが怒るかもしれないギリギリのジョークだ。
ウーコンも苦笑いを浮かべている。まあ、俺以外には表情が読めないだろうが。
「いやいや、さっきの騒ぎが聞こえていただろう。こいつは猿人だ。ウーコンって言うんだが、冒険者登録をしてもらいたい」
「ウーコンだ。よろしく頼むぜお嬢さん」
「まあ、お嬢さんだなんて。口の上手なお猿さんですね」
「猿人だよ、猿人」
ウーコンも女には優しいのか、怒るそぶりはない。
「はい、登録ですね。では、こちらの申込書に記入をお願いします。代筆が必要ですか」
「いや、俺が書く。ウーコンは喋るのは大丈夫だが、他国から来たもんで、こっちの文字は未だ書けねえ」
「では、お願いします。何か身分証明のようなものはありますか」
「いや、特にない。俺を証人にしてくれ」
「わかりました。では、リード様のカードを見せてください」
俺の冒険者カードを見せると、サラは確認し、用紙に番号などを書き込んだ。
カードを返してもらい、ほかの欄を記入してサラに渡した。
「確か、冒険者の推薦が有ればEクラスから登録できるよな」
「はい、できます。Eクラスに登録しますか」
「ああ、頼む。実際こいつはAの力は軽く有るんだ」
「・・・それは凄いですね。頼もしい限りです」
サラは少し息を呑んだようだ。
ウーコンの冒険者登録ができたので、俺達は討伐依頼の張り出してある掲示板を見に移動した。
もう午後なので、うまい依頼は残っていないが、内容が面倒で塩漬けになっている依頼や見返りが少なくて残っているものなどがある。
「ちょっとこれを片付けてくるか」
「いいのが有るか」
「あまりクラスと依頼が釣り合わないと受けられないこともあるから、とっととウーコンのクラスを上げた方がいいんだ。ウーコンならAクラス対象の依頼でもこなせるだろうがそういうわけにもいかない。とりあえず、楽な奴をどんどん片付けて数で勝負だな」
「そうか、まあ、選ぶのは任せるぜ」
俺は依頼の紙を壁から剝がして受付のサラの所に行った。
「ウーコンがこの依頼を受ける」
「単独ですか」
「ああ、まだ不案内だから俺が付いていくが受けるのはウーコンだ。いいだろ」
サラは少し考え込んだが、
「そうですね、ルール上は問題ありません。ただ、BクラスとEクラスのように差が有る冒険者が同行すると手伝って実力のない冒険者のクラスが上がってしまうことがあるのでお勧めはできないんです。まあ、無理に上げてもその後本人が危険になるだけなので、禁止はされていないんですけどね」
「うん、わかっている。基本俺は案内だけだ。さっきも言ったが、実際こいつは強いんだよ。実力に見合ったクラスに早く上げてやりたいと思ってね」
「何を言ってやがる!」
いきなりとなりからでかい声を掛けられた。
なんか近づいて来てるなとは思ってたんだが、また、酔っ払いが来やがったか。
ひょいと横を向くとさっきのジャックかと思ったが、よく見ると別人だ。
ジャックより少し大きいか。2メートルくらいだが、どっちもスキンヘッドだが、ジャックが髭面なのにこいつはつるつるだ。眉毛も気持ち薄い。
「ジャックがいなくなったと思ったらこんなところで寝てやがる。それで、猿が居ると思ったら猿が冒険者だと。馬鹿も休み休み言いやがれ」
こいつも真っ赤い顔をして酒臭い。本当にギルドはこういうやつが多いな。昼間でこうだと夜はどんなだよって感じだ。
俺が呆れていると男は俺の胸倉を掴み上げた。まあ、ジャックに毛が生えた程度の力のようだからほっておいたらウーコンが近づいてきた。
俺の胸倉を掴んでいる男の手首をぐっと掴むとゴキッという音が聞こえた。あー、これは折れたな。
「ごっ、があああ」
男は唸るだけで声も出ない。
「ウーコン手加減してくれよ」
「うんっ。ああ、軽く握っているだけだ」
まあ、軽く握っただけで手首の骨を握り潰しちまった。
「次はこうだな」
ウーコンは男の手首を放すと、座り込みそうな男の胸倉を掴んで腕をぐっと伸ばした。ウーコンの腕は長いが、俺より小柄だし、この男がジャックより少し大きいので、そのまま腕一本で吊るし上げる感じにはならない。ジャックはつま先立ちになったが、この男は靴底を付けた格好でウーコンに吊るされた。
だが、男のシャツを強く引き絞っているので多分息ができないだろうな。酒で赤い顔がますます真っ赤だ。血管が切れなければいいが。
「おい、お前、名前は」
「・・・」
まあ、喋れないし、聞こえてもいないかもしれない。意識がないみたいだしな。
「ウーコン。そのくらいで勘弁してやってくれ。このまま、あの世行きじゃあ、ちょっと寝覚めが悪い」
「ふん」
ウーコンが突き放すと男はのびたままのジャックの上にどさっと倒れこんだ。こいつは頭を打たないだけ得したが、呼吸ができなかったので泡を吹いているな。
ウーコンに手加減とはってのをもう少し丁寧に説明する必要があるかもしれない。