錬金術師入門
だいたい午前中でシロウは10メートルを維持できるようになった。
イザベラも1メートルくらいを安定して浮かぶことができるようになった。
「二人ともいいペースだな。リードはこれで横移動すればもう飛べるだろう」
「ありがとうございます。それで、勝手を言って申し訳ありませんが、私は午後から単独行動をさせていただけませんか」
「ああ、構わないが、錬金術屋か」
「ええ、この間の店に行ってみたいと思います」
「いいんじゃないの、私はその間に追いついちゃうからね」
イザベラがいたずらっぽく笑った。
「それでは、これで失礼します」
シロウは頭を下げると、スーッと空中に浮かんだ。7~8メートル程の高さを横に移動したかと思うと、体を斜めに傾けて飛んでいった。
「うーん。早速実践か。簡単に飛行術をマスターしちまったな」
「凄いわね。私も早く追いつきたいわ」
「まあ、焦ることはないさ。シロウとウーコンの奴とは比べちゃ駄目だ。あの二人は化け物だな」
俺達はゆっくり街に出て、昼食を済ませてからイザベラの訓練を続けた。
夕方までにはイザベラも5メートルを維持できるようになった。後少しだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こんにちは」
四郎は錬金術の店の前で空中から降り、声をかけた。転移術と違って、飛行術は高レベルの魔術師には可能なので、驚いて見上げる人間は居るが、怪しまれることはない。
「いらっしゃい。あら、この前ノラと一緒に来た人ね」
女主人は今日は小ざっぱりした上下を着ていた。
「はい。四郎と申します」
四郎は丁寧に頭を下げる。
「あなた異国の方なのね。髪型も変わっているし、その挨拶は確か東の国の挨拶でしょ」
「お分かりになりますか」
「そうね、伊達に年は重ねてないわ」
「まだ、お若いように見えますが」
「はは、そうね、錬金術で多少若作りしているからね。で、今日は何か魔道具でも探しに来たの」
「いえ、実は弟子にしていただきたいのですが」
「へえ、弟子入り志願なの。いいわよ。私がただでこき使うってことになるけど、それでよければ」
「はい。是非、お願いします」
四郎は深く頭を下げた。
「で、通いの心算でしょうけど、どのくらいの頻度で来るの」
「許していただければ毎日通わせていただきたいと思います。ただ、ノラ達と冒険者のパーティを組んでいますので、可能ならそちらと掛け持ちをさせていただきたいのですが」
「いいわよ。じゃあ、今から少しやってみる」
「ええ、お願いします」
「そうだ、まだ名前を名乗ってなかったわね。私はエリザベスって言うの。
じゃあ、奥に来て」
奥に入ると、一人の少女が大きな鍋をかき混ぜていた。
「アイシャ。紹介するわね。新弟子のシロウよ。
この子はアイシャ。あなたの先輩ね。アイシャは住み込みだし、弟子って言うより、店員だけどね」
「四郎と申します。よろしくお願いします」
「あたしはアイシャ」
小柄な少女がボソッという感じで名乗った。
「この子も異国から来たから、あまり喋らないけどね。いい子だから仲良くしてやって頂戴」
アイシャはあまり表情を出さずに黙々と混ぜ棒を動かしていた。
「シロウは何か習いたい錬金術があるのかしら」
「いえ、なにもわかりませんので、一からお願いしたいと思っております」
「そう、じゃあ、アイシャに代わって鍋をかき混ぜて頂戴。これはポーションを作っているんだけど、とりあえずゆっくり混ぜるだけ。今は濁っているけど、これが透き通ってきたら声をかけて頂戴。
アイシャは新しいゴーレムの魔法陣に魔力を入れ直す方をやって」
エリザベスはてきぱきと二人に指示を与え、自分も部屋で作業着に着替えてきた。こき使うというのは比喩ではないようだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「では、戻るとするか」
ウーコンが筋斗雲を出して二人で乗り込んだ。
ノラは乗り慣れてきたが、やはりウーコンにしがみ付く。
「そうですね。ウーコンのお陰で大物を倒すことができました。ウーコンは元の国でも強いモンスターを倒していたんですか」
「うーん、そうだな。神の軍勢なんかともやり合ったことが有るが、お師匠様に出会ってからは殺生禁止と言われていたからなあ。魔物を懲らしめるのにも手加減が難しかったぜ」
「そうですね。ウーコンが手加減しないとモンスターは絶滅するかもしれませんです」
「はは、そんなことはないだろう。こっちの世界は魔物が多くて、冒険者で生きていけるってのは嬉しいな。俺はこっちの世界に来て本当に良かったよ。ノラみたいな可愛い子にも出会えたしな」
「え、いえいえ、私の方こそ、頼りになるウーコンと知り合えて嬉しいです」
ノラは顔を赤らめながら、ウーコンに強く抱き着いた。




