番
「何だ」
「上です」
シロウが指し示す上方を振り仰ぐと、黒い影がウーコンを襲っていた。
ガンッという衝撃音と共にウーコンがキントウンから弾き跳ばされたのが見えた。真っ逆さまに谷川に落下していく。
「で、でかいですう」
10メートルはあろうかと思われるグリフォンが現れた。
巨大なグリフォンはさっと地上に降り立ち、まだ燃えている一匹目のグリフォンを庇うように翼で火を消していった。
「番のようね」
おそらくでかい方が牡で、最初の奴が牝なんだろう。
「クオオオオオオッ」
牡グリフォンが凄まじいばかりの雄叫びを上げた。怒り狂っているようだ。
「やるしかありませんね」
シロウが落ち着いた様子で前に出た。やはり右手にカタナを下げ、左手を前に突き出している。
牡グリフォンはシロウの方を睨んでいるが、襲い掛かりはしない。
「時間を稼ぎますので、後ろや上に周ってください」
シロウが小さい声で指示する。俺達はノラをそのままの位置に残し、俺が右に、イザベラが左に回り込む。シロウがどうやって押さえているのかはわからないが、グリフォンはシロウに集中しているようだ。俺は死角から飛行の術で空中に舞い上がった。イザベラは後方に回り込み、ファイアーボールを練り上げている。
「クエエエエエエエッ」
牡グリフォンが意を決したように、跳びかかる姿勢を見せた。
「イザベラ撃てっ」
イザベラが後方からファイアーボールを撃ちこむ。前方に気を取られていた牡グリフォンの翼のあたりにドオオンという音と共に激突した。
ぐらッとしたところに、俺が上空からウインドカッターを撃ち降ろす。ファイアーボールでダメージを受けていた翼の根元に命中し、左の翼がもげ落ちた。
「クアアアアッ」
怯んだところにシロウが正面から斬りかかった。俺も上空から、剣を振り上げて突撃する。
「きゃああっ」
俺が慌てて振り向くと、イザベラが牝グリフォンに襲われていた。牝グリフォンは深手を負っているが、翼は無事なので、空中から鋭い爪と嘴でイザベラを攻撃している。
「ノラッ、ヒールだ!」
イザベラは剣で防戦しているが、眼うグリフォンの嘴は強靭で、既に腕や肩からは血が噴き出している。
俺も飛行術で牝グリフォンに斬りかかる。牝グリフォンは振り向き、俺に向かってくる。
ノラがイザベラを回復しているが、イザベラは既に倒れこんでいる。
牝グリフォンは既に手負いとなっているので動きは段々鈍くなってきたが、俺一人ではなかなかきつい。向こうも死に物狂いで爪と嘴を振るってくる。
「シロウッ」
視界の端にノラがシロウの方に走っていくのが見えた。シロウは牡グリフォンと1対1で戦っている。いくら翼が捥げたと言ってもあの巨体を相手にするのは負担が大きすぎたか。
「あっ」
シロウの方に気を取られた瞬間に牝グリフォンが体当たりをしてきた。剣の柄で頭部を強く打ちつけたが、怯まずに胸を強打され、その勢いでマウントを取られた。両手で相手の前足の爪を防いだが、嘴を振りかぶるようにしたのが見えた。これが躱せるか。
思い切り首を左に捻って嘴を避けた。右肩に激痛が走る。
「ぐううっ」
思わず呻き声が出た。前足も爪を滅茶苦茶に振り回そうと力を入れているので、俺の両手も傷だらけだ。
再び嘴を振りかぶるのが見えた。
その時、どおんっという音と共に牝グリフォンが横倒しになった。
「リード生きてるか!」
猿顔が目に入り、俺はほっと息を吐いた。頼りになる奴が来てくれたぜ。
ウーコンは立ち上がる牝グリフォンの脳天をニョイボウで叩きつけた。
ぐわんっという音と共に牝グリフォンの頭蓋が砕け、あたりに血が飛び散った。
「シロウはッ」
俺が振り向くと、ボロボロの格好のシロウがこちらに歩いて来るのが見えた。
「無事か」
「リードすまない。シロウの方が危なそうだったので、先に向こうを片付けちまった。お前のほうもギリギリだったな」
ウーコンが番のグリフォンを両方倒してくれたようだ。
「いや、助かったよ。もう覚悟を決めるところだった」
「ノラ私はこれで大丈夫なので、リードを回復した方がいいでしょう」
「ああ、頼む。両腕もやられちまって、自分でヒールを掛けるのは無理そうだ」
シロウはボロボロだが、傷は回復しているようだ。おれも猫耳聖女に回復してもらい、やっと落ち着いた。
「傷は塞がったが、少し休憩させてくれ」
みんなで地面に車座に座り、水で喉を潤し、携帯食を少しばかり口にした。
「今回は危なかったな。もう駄目かと思ったぜ」
「すまない。俺が油断した。あのでかいグリフォンに不意をつかれて谷川まで落とされちまったんだ」
「よく無事だったわね」
「本当にウーコンは不死身ですですね」
ああ、体はどうってことないが、あわてて川に流されちまってな。戻ってくるのに手間取っちまった。すまない」
「いや、ウーコンが居なけりゃ全滅だ。これは礼を言うところだろう。助かったぜ。ノラも回復で頑張ってくれてありがとう」
「いえいえ、たいしてお役に立たなかったですです」
「ところでシロウは暫くあの牡グリフォンを押さえていたが、どうやったんだ。向こうは興奮して幻術はかけにくかったんじゃないのか」
「そうですね、内面に働きかけるのは難しかったので、幻を見せました」
「幻?」
「ええ、龍、こっちの世界で言えばドラゴンですね。グリフォン以上に巨大なドラゴンの幻を見せて牽制したんです。それでも、怒りが強かったので、翼が捥げても向かってきたのには驚きましたね。ウーコンが来てくれなければ私もやられていました。斉天大聖様様です」
「ははは、兎に角間に合って良かったぜ」
「流石ウーコンは最強の望遠者ですです」
「しかし、番だったとは思わなかったな。魔物でも夫婦を倒すのは気の毒な気がしたぜ」
「そうね。モンスターって哀しい存在かもしれないわね」
まあ、それでも本当に命拾いしたぜ。




