殺戮者
オーク達も俺達に気が付いたようだ。こっちを向いて何やら言っている。興奮しているようだ。
1頭が右手に斧を持ち、残りは棍棒を持っている。2メートルクラスが5頭居るのは中々の圧があるが、まあ、俺達には軽いな。
「じゃあ、アイスダガーをやってみるわね」
「イザベラ、私が前に出るので、ゆっくり魔力を練ってください」
シロウが一歩前に出て、左手を突き出した。右手にはカタナを下げている。
シロウが呪文を呟くとオーク達の興奮が治まったようだ、黙ったままボーっとしている。目が虚ろに中空を眺めているようだ。
「ハアッ」
イザベラのアイスダガーが一本、右端のオークの喉元を貫いた。
殆ど同時にシロウが中央のオークに斬りかかり、真っ向唐竹割りに斬って落とす。
「グガアッ」
「ゴオオオッ」
残りのオークも我に返ったように騒ぎ出した。俺は風魔法ウィンドカッターで左端のオークの首を跳ばした。
後の2頭もシロウとイザベラが一太刀で斬り捨て、オークの屍が枕を並べた。
「イザベラ、初めてのアイスダガーいいじゃないか。練習して、何本か投げられればかなりの戦力だぜ」
「ありがとう。シロウがオークを押さえてくれたから、落ち着いてできたわ」
「あれはスリープとも違うようだが、バインドの魔術なのかな」
「私の国では幻術と呼ばれている技術のひとつです。魔術や魔法との区別は線引きが難しいかもしれませんが、相手の心に働きかけるだけなので、たいしたことはできません」
いや、とてもたいしたことだと思うけどな。
「あれだけのことができれば、火の国でも相手に相当攻め込めたんじゃないのか」
「いいえ、今もそうですが、戦いになれば、相手は正気を取り戻してしまいます。乱戦でも使いようは有りますが、所詮は目くらまし程度のものです」
俺には使いようで恐ろしい技に感じるがな。
「それと、こちらの世界ではそういった技術に慣れていないようですので、魔物達にも術をかけるのが容易ですね。日の本の魔物はもう少し大変でした。ただ、そういう意味では、私もこちらの世界でお役に立てるのかもしれません」
うん。とても役にたつだろうな。人間相手に凄い効果があるような気がするぜ。
「しかし、みんな強すぎて怪我をする様子がないから、聖女様の出番がないな」
ウーコンが軽口をたたく。
「いえいえ、無事なのはありがたい話ですです。私の出番がないのが一番です」
ノラははにかむように言うが、確かに回復役が必要になってくればこんな和やかにはいかないな。
俺達が魔石と素材を取っていると、後方から馬蹄の音が聞こえた。
索敵をする間もなく、1頭の馬が草を掻き分けて近づいてきた。
「おおっ、ほかのグループも来ていたのか」
馬上からそう声をかけてきたのは燃えるような赤髪の女、皮の鎧を身に着けている。その後ろに跨っているのはチェインメイルに顔出しの兜をかぶった男。大きめの馬に二人で乗ってきたようだ。
「こんにちは。パーティジェミニのお二人ですね」
「ああ、私達を知ってくれているんだな」
二人が馬から降りてきた。どっちも2メートルくらいの巨漢だ。女が数少ないSクラス冒険者、双剣のヴァレンティーナ。男はAクラスで確かジョナサンだったか。姉弟だと聞いたが。
ヴァレンティーナは目鼻立ちがくっきりして、眉がきりりと上がった美人だが、その巨体も含め、人間としての圧が凄い。これがオーラってやつなんだろうな。一方のジョナサンは兜をかぶっているせいもあって顔は見えにくいが平凡な顔立ちのようだ。ヴァレンティーナのオーラが凄すぎて、その影のように感じる。
「ジェミニのお二人を知らなければ潜りですからね」
「私も君の名前は知っているぞ。リード君だろう。今や飛ぶ鳥を落とす勢いだと聞いている。
確かソロだと思ったが、パーティを組んだんだな」
ヴァレンティーナはぐるりと周りを見回した。
「なかなかユニークなパーティメンバーじゃないか」
確かにユニークだろうな。
「特に君」
ヴァレンティーナがウーコンの方を向き、ずかずかと近寄って行った。
「君は猿人かな。凄い力が有りそうだな。これだけのパワーを持った冒険者はほとんど見たことがない。まあ、私以外にはという意味だがな」
ヴァレンティーナはさっと右手を差し出した。多分革製だろう、小手を嵌めている。
ウーコンは小首を傾げながら同じように右手を差し出した。その手をガっと掴む。
「私はヴァレンティーナ。Sクラスの冒険者だ。弟とパーティジェミニを組んでいる。よろしく」
「ああ、俺はウーコンだ。この間、Dクラスに昇格させてもらったよ」
ふたりはがっちりと握手を交わした。並みの冒険者なら手を握り潰されているだろうが、二人ともニコニコしている。ヴァレンティーナの笑顔は燃え盛る炎を思わせる。
ヴァレンティーナは手を放し、
「君達もオーク狩りを受けてきたんだな」
こういった、多めのモンスター退治の依頼は同時に複数のパーティが受けてしまうことが有る。範囲も広いし、どこまで狩るかも目標があるわけじゃないからな。こういったバッティングはままあることだ。
「ええ、今5頭ほど狩ったところです。4キロくらい先に50頭程居るようですが」
ヴァレンティーナはそちらを眺め、
「ああ、そうだな。その50頭は譲ってもらえるか」
「ええ、どうぞ。でも、Sクラスの方が、オーク辺りも狩るんですか」
「たまにはな。レベルは低くてもいいから、50頭、100頭あたりを叩き殺さないとストレスが溜まるんだ。じゃあ、ちょっと行ってくる」
二人は馬に前後して跨るとあっと言う間に駆けて行った。
「ストレス発散でオークの群れを狩るんですね。少しオークが可愛そうな気がしますです」
俺も同感だ。殺戮狂だな。それに似たような奴はうちにも居るが。
俺達は前方へ進みながら、6頭のオークの群れを狩った。暫く進むと、かなりの喧騒が聞こえてきた。
「ブモオオオオッ」
「グオオッ」
「ガッ、ブブ」
殆どオークの叫び声、呻き声と、オークを狩る剣の音だな。
状況が見える位置まで進むと、ヴァレンティーナが両手にそれぞれ大剣を振り回して戦場を駆け回っていた。その一振りで1頭か2頭のオークが吹っ飛ぶ。まさに殺戮ってのはこういうものだな。
その傍らではジョナサンが馬の長い手綱を引きながら素材を採取していた。血を洗う戦場で巨漢がチマチマと素材採取している光景はシュールだな。
ジョナサンもAクラスだから強いのだろうが、この様子を見ると、戦いは姉に任せて、素材採取などの雑用をこなしているということか。普通だと戦っている最中は流れ弾が危険だから採取なんかは行わないが、この男は平気なだけの実力があるんだろうな。まあ、ここではオーク程度だからってのもあるかもしれないが。
暫くすると戦闘というか殺戮が治まり静かになった。
「やあ、私の活躍を見に来てくれたのか」
「ええ、噂に違わぬ実力を見させていただきました」
「何を言ってる。オークくらいじゃ、君達だって同じようにできるだろう」
ほぼ同じことができる奴は一人いる。
「倒すだけなら、まあ、そうですが。なかなか、こうはいかないでしょう。まさしく無人の野を行くようでした」
「はっは。そんなに格好良かったかな」
「弟さんは戦闘はされないんですか」
「ああ、弟は私程戦いが好きではないようだ。まあ、それなりには戦えるがね。一番の理由は今やってる採取が私が嫌いなことと移動手段だな」
「馬のことですか」
「そうだ。私達は飛行の魔術とかは得意ではないので移動に時間がかかる。それで馬を使うんだが、昔、二人で戦っていたら馬が怖がって逃げちまってね。木に縛っておいたりもしたんだが、今度はモンスターに喰われちまった。仕方ないから、ジョナサンには雑用を専門にやってもらうことにしたんだ」
ジョナサンも手馴れているのか、そんな話をしているうちにかなりの量の素材を採取し終わった。俺と同じようにマジックバックに素材をしまっているようだ。高額だが、Sクラスでは当然だろうな。




