地上へ
オーガは暫くこちらの様子を探っていたが、いきなり棍棒を振り上げた。
意外と素早い動きで間合いを詰めて、ウーコン目掛けて振り下ろした。
ガキンという音と共に棍棒が弾きとばされた。ウーコンが下からニョイボウで受けたんだが、膂力が違いすぎて相手の得物を楽々弾いてしまった。
「グオッ」
オーガは驚き戸惑っている。大きめの猿くらいにしか見えなかったウーコンに棍棒をとばされるとは思わなかったんだろう。
しかし、好戦的なオーガは逃げることはないようだ。素手でウーコンに殴りつけてきた。
ウーコンは彼我の力量差を見切ったのだろう。そのまま動かず、オーガのパンチを額付近で受けた。
「グゴ」
オーガは一瞬きょとんとした表情をしたようだった。ウーコン同様目も小さく、表情が読みにくいが、きょとんというのが適切な雰囲気だった。一瞬間をおいて、
「ゴッ、ガゴオオ」
右手がかなり損傷したんだろう。左手で強く押さえて唸っている。骨折したかもしれない。俺ではこんな芸当はできないが、ウーコンは石猿って言っていたからな。
「はは、俺の石頭を殴ればただでは済まないだろうよ」
ウーコンがニョイボウを横に振ると、ゴンッといい音がしてオーガは横倒しに倒れた。
まあ、相当手加減したんだろう。意識はないようだが、死んでいるわけではなさそうだ。
「どうする」
「ああ、リードの話じゃ、皮を剥いで売るとか言っていたと思うが、妖怪退治の練習だからな。お師匠様じゃないが、俺もむやみな殺生をしたいわけじゃない。リードが殺して皮を剥ぐって言うならそうするが」
「いや、今は荷物を増やしたくもないから、このまま置いていこう」
「はは、こいつは命拾いしたってわけだな」
ウーコンの肩慣らしもできたので俺達はモンスター退治はまたにして、出口へ急いだ。ウーコンに雲、キントウンと言ったか。それを出してもらった。
「これに乗るんだな。俺はウーコンにしがみつけばいいのか」
「いや、乗る分には誰でも乗れる。善人しか乗れないって言うやつもいるが、ニウ魔王も似たような雲に乗っていたからな。これはたんなる術だから、リードも乗れるだろう」
俺はおっかなびっくりでウーコンに続いてキントウンに足を乗せた。固いわけでもないが、どうにか俺の体重を支えてくれるようだ。ずぶっと踏み込むように乗ったが、手ごたえならぬ足ごたえは無い。丁度舞空術で体を浮かせたり、飛行術で飛ぶ時のように、ただ浮いているという感じだな。だが、慣れないのでこれで空を行くのは少々怖い。
「じゃあ、行くぞ」
ウーコンが言うや否やキントウンは宙に浮き、俺達を乗せて飛んで行った。本当は鳥よりもずっと早く飛べるようだが、見通しもききにくいダンジョンの中なので、馬くらいの速さで飛んでいく。
俺が方角を示し、暫く飛ぶとフロアの端に着いた。そこで雲から降りて上の階層に続く階段を上った。それを続けてどんどん上の階に進み、やがて俺達は地上に到達した。