囮
「ここは随分広いな」
俺達は3層から4層に降りてきた。中層は急に洞窟が広くなる。
「イザベラは初めてだったな。中層はこんな感じだ。当然モンスターも強くなる。一応気を付けてくれ」
だが、広い場所が多いので、角を曲がってモンスターと鉢合わせなんてことは少ない。そういう意味では斥候の役割は随分変わるな。上層では出会いがしらの注意が一番重要だが、中層以下はもう少し広い索敵が必要になってくる。まあ、俺やウーコンには何が来ても問題ないが。
その時遠くから叫び声が聞こえてきた。
10メートル程先を右に曲がったところから聞こえてくるようだ。
「助けてくれー」
「急げ、急いで逃げろっ」
直ぐに角を曲がって3名の冒険者が走ってきた。軽鎧が2名、魔法使いらしいローブ姿が遅れて1名。
「待って、待っててば」
3人は息も絶え絶えに走ってきた。
俺達に気付くと、
「おおお、あんた達、ミノタウルスの群れだ、早く逃げろ」
声をかけたが、血相を変えたまま、俺達の横を通り過ぎて行った。
冒険者達はすぐ見えなくなった。無事に上層に登ったんだろうな。
振り向くとミノタウルスが1頭走ってきた。5メートルくらいの巨体で、右手に大きな斧を持っている。
「ミノタウルスだっ」
イザベラが決死の顔つきで迎撃の構えを取る。4層でミノタウルスはあまり見ないが、奥から連れてきちまったかな。
ミノタウルスもこっちに気が付いたようで、イザベラの手前で止まり、斧を振りかぶった。
ゴンッ。
直後にミノタウルスは横倒しに倒れた。
ウーコンがニョイボウを伸ばして殴り倒したんだな。問答無用ってやつだな。
「ニュー魔王に似ているから手加減したが、イザベラに手を挙げるようじゃ、本気でやったほうが良かったか」
「まあ、確かに似てはいるがモンスターだから手加減抜きでも構わないがな」
「じゃあ」
ボクッ。
ミノタウルスは最初の軽い一撃で脳震盪を起こしていたようだが、気が付いて上半身を起こしたところで撲殺された。牛の頭が体にめり込む程の一撃だ。
「さっき逃げた奴らは気になることを言ってたな」
「んっ。なんだったかな」
「ミノタウルスの群れって言ってただろう」
「ああ、そうだったか」
「残りのミノタウルスが来ないとなると、まだ、誰か戦ってるんじゃないか。ウーコンキントウンを出してくれ」
直ぐに3人でキントウンに乗り込み、あっという間に洞窟の奥へ進む。
200メートルも行くとミノタウルスの群れが居た。
4頭のミノタウルスが円陣を組むようにして斧を振るっている。その中央には土の山のようなものが盛り上がっている。なにか笑いながらその土の山を削っているように見える。
「とりあえず倒すか」
俺とウーコンで4頭に襲い掛かる。背後から斬りつけたがなかなか皮が厚いな。一撃では倒しきれず、3合4合と打ち合って、やっと右手を斬り落とした。怯んだところを心臓に突きを見舞う。
「ふうっ」
俺が息を吐いて呼吸を整えると、
「終わったか」
うん。ウーコンは3頭を倒し終わっているな。本当に強いな。最初は俺と同じくらいの腕だと思っていたが、見損なっていたよ。こいつはS級以上の本当の化け物だ。敵でなくてよかったよ。
「これは土魔法かな」
イザベラが土の山を見上げている。
「おい、誰か中に居るのか」
気配はする。
「はい。助けにきてくれたですか」
声が聞こえた。冒険者なんだろうな。
「おお、ミノタウルスは退治した。この土をどけても大丈夫だぞ」
少しして、土の山が小さくなっていった。土魔法で土壁を築いたんだな。中々の腕前だ。
中には小柄な冒険者がしゃがみこんでいた。
「た、助かりましたです」
女というか少女のようだな。獣の耳が生えている。獣人の少女冒険者のようだ。
「さっき逃げてった3人がいたが、仲間か」
「はい、はいそうです。突き飛ばされて、囮にされたです」
そんな気がしてたぜ。いやな話を聞いちまった。こんなところで強いモンスターに襲われれば、誰かが犠牲にってことは考えるだろうが、無理やり囮にするってのは腹が立つな。
「それは大変だったな。怪我はないか」
「ええ、かすり傷です。でも、生きた心地がしなかったです」
「うん。だけど、土魔法は見事だったな」
「ありがとうございますです。ミノタウルスが本気で潰そうとしなかったみたいでした。笑ってたみたいなので」
そんな感じだったな。猫が鼠を甚振るようなつもりだったのかもしれない。まあ、そのせいで退治されちまったんだから自業自得だな。
「お前名前は」
「ノラです」
ああ、野良って感じだな。名は体を表すってやつか。いや、笑っちゃ駄目だ。
「俺はリード、こっちはウーコンとイザベラだ」
ノラはウーコンを見るとギョッとして目を見開いた。
「あ、ああ、命ばかりはお助けくださいです」
土下座を始めちまった。ちょっと勘違い野郎かもしれない。
「はは、俺が怖いか。心配するな、お前のような可愛い子に手出しはしないさ」
うん。ウーコンも女の子には優しいんだな。
「あ、ありがとうございますです」
「じゃあ、ダンジョンから出るか。ノラは怪我はたいしたことないようだが、早く休ませてやったほうがいいだろう」
一応ヒールを掛けておく。
「おおお、おおおおおこれは凄いです」
イザベラが俺の足にしがみ付いて座っているのと同じように、ノラはウーコンの足にしがみ付いていたが、怖いと言うより楽しんでいるように見えるな。
キントウンのお陰であっという間に出口に着いた。
そこからもキントウンで街に一直線だ。




