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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
99/134

先代神の力は伊達じゃない②

 



 純粋で濃度の高い神力は魔族にとっては猛毒に等しく、人間にとってもそれは同じ。魔王が盾になってくれているとは言え、濃度が濃くて息苦しく、気持ち悪さが込み上がる。ヴィルも魔王も平然としているのに自分だけなのに理不尽とは思わない。自分は人間、二人は神族と魔族。違って当然なのだから。



「大丈夫? ジューリア」



 心配するヴィルに笑って大丈夫だと言いたいが今回ばかりは我慢がきつくて無理だと悟り、顔色の悪いジューリアは首を振った。



「それもそっか。遠い場所……っていうのが無理なんだ。あいつが大教会を覆う結界を貼ってくれたおかげで」

「吐きそうになったら言うよ……」

「そうして」



 外へ逃げようにも魔王の姿を認識した直後に結界を貼られてしまい、カマエルを倒さないと結界は解けない。

 魔王がふと、ある旨を零した。

「天使が神族にあからさまに敵意を向けて良いのかい?」と。



「あいつはちょっと特殊なんだ」



 説明を始めようとした直後、強風が発生し体勢を保てず地に足がつく。気分が悪いだけではなく、強風に晒され余計悪くなって本気で吐いてしまう。手で口を押えると体が浮いた。ジューリアとヴィルを両脇に抱えた魔王が大教会の中に入った。



「外にいるよりかは、ネルヴァくん達の神力に当てられずに済む」

「あ、ありがとうございます」



 外から届く轟音。大教会内に自分達以外の人がいれば、巻き込まれていた可能性は大。

 幾分か気分がマシになったジューリアは口から手を離した。

「ふう……。あの、天使の結界を破って外に出るのは……」と魔王を見上げながら聞くが首を振られた。



「今は外に出ない方がいいだろう。二人に巻き込まれて被害が拡大してしまう」

「じゃあ、破ろうと思えば破れますか?」

「まあね」



 もしも、最悪の状況になれば結界を破って逃げる。智天使カマエルの相手をしているのはネルヴァ。神族の中で一番強い神力を持つ。ネルヴァが負けるとは思えないとはヴィルの台詞。



「いくらリゼル=ベルンシュタインにボコボコにされたって言っても子供の頃の話だし、兄者はああ見えて強い。負ける心配はしなくていいかも」

「じゃあ、私達はこれからどうする? ヴィルの兄者が勝つのを待っとく?」

「取り敢えず、ヨハネスに外へ出るなって連絡を送らないと」



 結界を貼られた状態では外への連絡手段がない。通信蝶を使おうにも、魔族の魔力を纏う蝶では結界によって消滅させられる。何度か思念で語り掛けているが結界のせいで遮断されてしまう。



「一部だけ結界を破って通信蝶を送ろうか?」

「そうだね。それが確実かも」



 魔王の提案を受け入れたヴィル。裏口から外へ出るとヴィルは結界に触れた。



「魔族が触れたら大火傷するね」

「天使の結界だからね」



 ヴィルが結界から離れると魔王が近付き、結界に触れないギリギリで手を伸ばし、魔力を込め本当に一部分だけ結界を破った。隙間に通信蝶をヴィルが放つと結界は瞬く間に修復された。



「自動修復までつけたか。まあ、後はちゃんとヨハネスに届いてくれればいい」



 今頃、宿でお腹一杯パンケーキを食べているだろうヨハネスを想像すると今の状況と全然合わない。

 建物の中に戻ろうと魔王が提案した直後、一際大きな爆発音が響いた。



「うわ!」

「カマエルがぶっ飛ばされたかな。見に行こうか」

「うん」



 音に驚いたジューリアが尻餅をつきそうになったのをヴィルが支え、方向からしてネルヴァ達が戦っている方だと分かるとすぐに向かった。

 正面出入口に到着したジューリアが見たのは、出入口が破壊された跡だった。

 風によって砂塵が消えると姿を見せたのはネルヴァ。体を纏っていた銀色の神力は消えていて、服に汚れはなく無傷である。



「兄者。カマエルは?」

「あっち」



 ネルヴァが指差したのはやはり破壊された正面出入口。多数の瓦礫の下にカマエルが埋まっている。

「ネルヴァくん怪我は?」と魔王。



「ない。智天使如きに遅れは取らないってば」

「そっか。ところで、天使の彼が神族の君を攻撃しても良いの?」

「あいつはちょっと特殊でね」



 曰く、天界の番人を担う智天使の内、カマエルは先々代の神に天使と神族に裁きを下す特別な役割を与えられている。今回ネルヴァが魔族の王と共にいるのをルール違反と見做した為攻撃が可能となった。力ではネルヴァが圧倒的に上だった為、ああして返り討ちとなった。



「異空間に閉じ込められている人間達を解放させないとね。カマエル、起きているだろう。さっさと人間達を解放するんだ」



 積み重なっていた瓦礫がネルヴァの声によって吹き飛び、多数襲い掛かる。結界で難なく防いだネルヴァの冷めた銀瞳は額から頬にかけて血を流すカマエルだけに集中している。

 最初登場した際の麗しい姿はどこへ消えたか、子供なら泣いて逃げ出す形相でネルヴァ達を睨み付けていた。



「先代の神の座にいながら、アタシを殺す気で攻撃しましたね!? アタシが天界で重要な役割を担っていると知っていながら……!」

「私の父が神だった頃に与えられた役割だろう? 私としてはどうでも良かったから、役割をどうこうする気はなかったけれど……。カマエル、人間達を人質にした時点で重大なルール違反だとは思わないかい」

「魔族の王と一緒にいる時点で極刑もののネルヴァ様に言われたくないわよ!」



 天使や神族が天敵たる魔族に心を許した時点で堕天の兆候があると見られ、即刻処刑されるルールとされている。心配そうにネルヴァを見やる魔王の心情をよそに、はあ、と溜め息を吐いたネルヴァは呆れた眼をする。



「忘れた? 私は一度魔界に行って魔族に半殺しにされたって」



「これ、魔王の補佐官のこと」とジューリアに小声で説明するヴィル。



「瀕死にされたとは言え、此処にいるエル君が手厚い看病をしてくれたお陰で生き延びた。ただ、怪我が治っても暫く彼の家に滞在したんだ」



 怪我が治り次第、天界へ帰還する予定だったのを先延ばしにしたのは理由があった。大量に浴びた魔族の魔力、魔界に充満する魔力を身体から除去するのに想像以上の時間がかかった。天使が汚れに弱いように、神族も弱い。常に天界にいる神族は下手をすると天使よりも弱い。奇跡的に汚れに強い体質だったらしいネルヴァはゆっくりと時間を掛けて身体に溜まった魔族の魔力を取り除けた。

 魔族と親しくしても堕天の兆候が一切見られないのも子供の頃の出来事のお陰。

「そうだったんだ」とは魔王。



「魔界に充満している魔力については、天界に帰還してすぐに除去すればバレずに済んだ」

「魔王が統治する王都は魔界で最も安全な場所にあるから、空気中に漂う魔力粒子も薄い。そうか……ネルヴァくんが魔界で過ごせたのは偶々耐性があったからだったのか」



 リゼルに瀕死の重傷を負わされたネルヴァであるがリゼルの方も無傷では済んでいない。ネルヴァ程ではなくても、魔力が全快するのにかなりの時間を要した。

「さて」と意識をカマエルに再び向けたネルヴァ。信じられないと言いたげな姿を見ても何も浮かばない。



「今すぐに人間達を解放すると言うなら、このまま見逃してやる」

「っ、ネルヴァ様が見逃そうとそもそもアタシはヨハネス様を連れ戻せとアンドリュー様に命じられているのっ。此処を去ったってヨハネス様の所に行くわよ!」

「はあ」



 今ヨハネスは魔王が滞在している宿にいる。側にはビアンカとリシェルもいる。

 ヴィルの袖を引っ張ったジューリアがそっと耳元で囁く。



「ヴィルの兄者や魔王さんに意識が集中している間に、私とヴィルで街の方へ行けないかな?」



 脱出を拒む結界の一部分に捻れが発生している。ネルヴァの言葉に感情を乱され、結界の維持が難しくなっている。「いけるかも」結界を凝視し、判断したヴィルに手を繋がれる。



「こっそりと行くよ」

「うん」



 ネルヴァと魔王もカマエルに意識が向けられ、ジューリアとヴィルの二人が動いても気付いていない。

 中心から離れ、捻れの強い部分に神力の波を把握しているヴィルの手が加えられたことにより子供一人通れる穴が完成。即座に潜ると結界は歪ながら修正された。



「気付かれたかな」

「いや……結界の向こうが騒がしくないから、まだ気付かれていない。ヨハネスのいる宿に行こう」

「うん!」



 ヴィルと手を繋ぎ、急いで街へ向かいかけた直後、ハッとなったヴィルが足を止めた。「ヴィル?」と呼ぶと上を見てと促され空を見上げた。「げっ」と声を出したのは仕方ない。多数の天使が大教会の上空にいた。

 視線を下へ戻すと大教会すぐ近くには参拝者がいる。

 ただ、誰も大教会に行こうとしない。付近にいるだけ。



「カマエルの仕業か」

「え」

「いくら大教会の外側に結界を貼ろうと外から来る人間を拒む力まではない。下位天使達に人間達の意識を意図的に逸らさせたんだ」



 上空にいるのもその為。下位天使の内の一人が二人の前に降り立った。



「お前達! 何者だ。どうやって結界から抜け出せた!」

「……え?」



 槍をジューリアとヴィルに向けて威嚇する天使。彼に倣って他の天使達も地上に降り、矛先を二人に向ける。



「ヴィルのこと知らない……!? あ、子供だから……?」

「いや? 神族の姿を見られるのは大天使以上。こいつはそれ以下ってこと」

「そ、そうなんだ」



 お目に掛かれない天使ならばヴィルを知らないのも納得。けれど、その身に宿す神力から神族だと見抜ける筈だと呆れているヴィル。



「どうしよう……」

「神族なら、天罰として片づけられるけど……」



 神力の波を見極めての戦いは、他に強い協力者がいて成せる芸当。ネルヴァと魔王は未だ結界の内側にいる。どうしたものかと溜め息を吐いた時、一人の天使が「魔族だ!」と叫んだ。



「あ……!」



 見て見るとリシェルが一人でいた。きっとネルヴァか魔王が来ているから、彼女も来てしまったと見える。タイミングが非常に悪い。

 ジューリアやヴィルだけではなく、多数の天使もいて、驚きで体が固まったリシェルに天使達が迫る。慌てたジューリアがヴィルの制止の声に耳を貸さず駆け出した。





読んでいただきありがとうございます。



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