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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
98/133

先代神の力は伊達じゃない①

 


 翌朝、起こしに来たケイティにカーテンを開けられ、眩しい朝日を室内に差し込まれジューリアは目を覚ました。思い切り伸びをして眠たげに目を擦る。



「おはようございますお嬢様」

「おはようケイティ……ふあ……」



 今日はフローラリア邸に一度戻る日。行く気は更々なかったがジューリアも“浄化の輝石”を一度見て見たい気持ちがあり、嫌な気持ちと見たい気持ちに天秤をかけた。結果——見たい方に重きが行ってヴィル達と行くことになった。

 ヴィルとネルヴァ、ヴィルが行くなら自分も行くとヨハネスも同行。大天使の祝福が込められているので魔族であるリシェルは留守番となる。


 一度目が覚めて、動いてしまえばベッドに引き籠らずに済む。ベッドから降りたジューリアは準備された桶に手を入れた。程好い微温湯にホッとしつつ、朝の支度を始めたのだった。


 


 ――着替えも済ませ、部屋の外に出たら扉の横にヴィルが立っていた。



「おはようヴィル」

「おはようジューリア」

「眠いね〜もう少しゆっくり眠りたかった」

「フローラリア家から戻ったらまた寝たらいい。ほら、朝食を食べに行こう」

「うん」



 差し出された手を取って食堂へと足を向けた。神官達の朝はとても早く、既に朝食を食べ終えた人が殆どの為、今食堂には誰もいない。



「甥っ子さんがいないね」

「神官に寝ていたら叩き起こして良いよって言ってあるから、その内来るんじゃないかな」

「あはは……」



 相変わらず容赦がない。

 適当な席に座り、ケイティが食事を運んで来るのを待つ。



「今日の朝食は何かな。食べ終わったらフローラリア邸に行くから、体力がバッチリつくのがいいな」

「どうだろうね。少なければお代わりでもしたら?」

「あったらいいよね〜」

「あるんじゃない」



 他愛ない話を続け、ケイティを待った。


 


 


 


「……来ないね」

「そうだね」



 待っても待ってもケイティが来ない。厨房で何かあったのかと二人は食堂から移動した。厨房の中を覗くと二人分の食事と飲み物がカートに載せられており、中は誰一人いない。

 荒らされた形跡も爭った形跡もない。水場には、この後使用するつもりだっただろう野菜が水の入ったボウルに浸けられている。



「何があったの……」

「……」

「ヴィル?」



 突然無言になったヴィル。端正な顔立ちには似合わない険しい表情。



「魔族の仕業?」

「違う。魔族ならすぐに分かる。人間の仕業でもない」

「それって——」



 つまり。



「ヴィル様ちっさいね〜!」

「!」



 ぐにゃり、ぐにゃりと歪む天井。聞き覚えのない軽快な声色。嫌な予感がバシバシと感じるジューリアは当たってほしくない予感を必死で否定した。一人冷静なヴィルに抱き付いて歪む空間から現れた男に深く項垂れた。

 薄い金色の髪を頬の下辺りで均等に揃え、右目が長い前髪で隠れている男の背には天使の証たる翼がある。色は緑色。先日出現した熾天使ガブリエル程ではないにしても、並の天使ではないと物語っていた。

 唯一出ている左の金色の瞳が愉快げにヴィルを視界に入れると細められた。



「やっほーヴィル様〜。とっても可愛らしくなられましたね」

「鬱陶しい減らず口をすぐに閉ざすなら、生きて天界へ戻してやってもいい」

「ひっどい。折角休暇を満喫していたのに、アンドリュー様から命令が下ったんだ。人間界へ逃げたヨハネス様を天界に連れ戻せって。ガブリエルが行ったのに失敗したと聞いた時はお腹抱えて笑っちゃったよ〜」

「……」



 愉しく、愉快に笑う男と正反対でヴィルは一つも笑みを見せない。冷たく、嫌悪を隠そうともしない。



「建物内にいた人間達を何処へやった?」

「邪魔だから違う場所にいてもらってるよ。ほら? アタシ達天使は人間に危害を加えられないでしょう? もしも加えたらそれだけで重罪だもの。人間達が怪我をしない様動くのは面倒だから、安全な異空間にいてもらっているの。勿論、ヨハネス様の説得に成功したらすぐに解放するわ」



 応じない場合はどうするのか、と訊ねられると「殺さないわよ~失礼ね」と頬を膨らませた。大の男がやっても可愛くないと一蹴される。



「子供姿になったヴィル様がやったらとても可愛いのかしら。……時にヴィル様」



 金色の瞳がヴィルの隣にいるジューリアへと移動した。鋭さはないものの、相手を絡めとり動けなくする威圧を放つ視線により、無意識に体が強張ってしまう。



「そこの人間の子供。非常に綺麗な魂を持っているわ。天使や神族が食らえば、力が増幅するほどの」

「だったら何。この子を食べるって?」

「嫌だ~人間を食べたら即死刑よ死刑。アタシ寿命で死ぬって決めてるの。死刑なんて絶対嫌」



 ただ、と男はジューリアには重罪を犯してでも食べたくなる価値があると告げた。



「力を求める天使に狙われないといいわね~」

「……そうだね」

「さて。お喋りは終わり。ヨハネス様は何処にいらっしゃるのですか?」

「自分で探せば?」

「大教会内にいるのは知っているんです。ヴィル様、アタシに教えてくださいよ」

「自分で探せ」



 基本ヨハネスは朝は遅めに起きて大量の朝食を食べるとすぐに眠ってしまう。この時間帯ならまだ寝ている率が高い。異変に気付いて来られても困る。最悪の状況になる前に天使を退けたい。



「そうだ。ヴィル様、無駄な抵抗は無しですよ? いくらヴィル様でも、ヨハネス様に神力を封印されて子供になっている今アタシには勝てませんよ」

「へえ。なら、戦闘経験が皆無なヨハネスや子供姿の俺はどうやってガブリエルを撃退したの?」

「……あ~……そう言われると……どうやってしたんです?」



 意外と話に乗せられやすいのか、言われてしまうと疑問に思っただけなのか、あっさりと信じた天使がヴィルに訊ねつつも思考タイムに入った。

 今の内だと神力の波を把握したヴィルの力で天使の周囲の時間を一時停止した。



「ジューリア、大教会を出るよ」

「うん!」



 制限時間はたったの三分。建物内を知り尽くす二人は急ぎ外へ出て正門を目指し走った。



「ね、ねえ! 外に出られるかな!?」

「あいつは熾天使の下の智天使。天界の番人の役割を担ってる。ガブリエルより弱いから外へは出られる筈」



 周囲の時間を止めた挙句、逃げられない結界を貼ったガブリエルと同等の術は使えないというのがヴィルの考え。大教会内の人間を異空間に飛ばすだけで多量の神力を消費する。周囲の空間にまで接触する余裕は智天使にはないという予想は当たった。正門前まで来られると一旦足を止めた。



「はあ、はあ、つ、疲れた。久しぶりの全力疾走っ」



 膝に手を置いて呼吸を整えるジューリアと微かに息を上げるヴィル。大教会の方を睨むヴィルに「もう動いてる?」と聞き、まだだと首を振られた。

 ここはネルヴァの出番だと言うヴィルの言葉に頷き、ジューリアは宿を目指そうと決めた。直後、のんびりで困っている声色が二人を呼んだ。



「ヴィルくんとジューリアちゃん? そんなに慌ててどうしたの?」

「ヴィル~、お嬢さん、おはよう」



 タイミングが悪い人と良い人が同時に現れた。

 魔王とネルヴァは大慌てで大教会から出て来た二人を訝しむも、建物の方向から感じる神力に警戒心を露にした。



「ああ……ネルヴァくんの言っていた上位天使、かな」

「間違いないだろう。はあ……面倒くさい」

「えっと……君の甥は、街のカフェでパンケーキを食べているから安全と言えば安全だね」

「危ないのは君の方だよ、エル君。私の予想が間違えていなかったら――」



 行方を知らないヨハネスが珍しく早起きをして魔王の所に突撃するなりパンケーキを食べたいと叫んだらしい。第六感というやつで自身の危機を察知したが故に行ったのだろう。呆れた、と言いつつヴィルはどこか安堵している。

 予想通りの相手であってほしくないと面倒くさがるネルヴァの期待を裏切るように智天使は姿を見せた。



「ひっどいヴィル様! 時間を止めるなんて!」

「最悪。うわ、最悪」

「あ、ネルヴァ様!? 側にいるのは……は?」



 自己紹介をしなくても上位天使は現魔王の姿を知っている。目にした途端、陽気な相貌は消え失せ蟀谷に幾つもの青筋が浮かび上がった。



「……尊き神族とあろうお方が魔族の王と何故一緒に?」

「お前に話す義理はないよ、カマエル」


「二人共、こっちに」



 神力を急上昇させ、周囲の空気を震わせるネルヴァの側から離れようとした時、魔王の一声により二人は側へ寄った。



「大教会の人達は?」

「あの智天使が異空間に閉じ込めています!」

「智天使……熾天使の下の天使か。成る程……熾天使ではなくても厄介だな」





 

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