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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
85/133

不幸な事だけじゃない

 



 大教会に戻った後は、出迎えたセネカに明日ヴィルとヨハネス以上の天使様が来るからと伝え、司祭に報告へ急いだセネカを見送る。部屋に戻り、ケイティにもセネカと同じ話を伝えると大層驚かれた。立て続けに天使様が三人も帝国へ来るのだから驚くのは無理もない。



「少し前に大教会の方々が天使の祝福が街に広がったと大騒ぎだったのもその天使様が……?」

「そうだよ。ヴィルや甥っ子さんがお世話になってるからって」

「滅多に見られないので私もつい見入ってしまいましたが……天使様が授ける祝福というのは、とても美しいものですね」

「ケイティは見たことなかったの?」

「恐らく神官様や司祭様、皇族の方くらいしかお目に掛かれないかと」



 となると、あの銀色の光が天使(実際には神)の祝福だと気付いている関係者以外は果たして何人いるのだろう。と、同時に思い出すジューリオの件。すぐに気分が悪くなってしまい、しかめっ面をしたのでケイティに訝しく思われてしまった。訳を話すとケイティは一寸考えた後、ジューリオの矛盾の多い行動や言葉はジューリオ自身の無自覚が原因ではと口にした。



「無自覚って?」

「殿下はお嬢様を無意識に好きなのではありませんか?」

「ええー……」



 ドン引きしつつケイティの言葉には一理あった。ジューリオの心の声を呼んだヴィル達曰く、魔族に体を乗っ取られ無事魔族を追い出した際、目を覚ましたジューリオが最初に見たジューリアの太陽に照らされた海面の如く光る青緑の瞳。強い癒しの能力を持つメイリンの濃い青の瞳よりも美しく、口や態度では嫌っていてもジューリアの瞳の美しさが忘れられずにいる。

 知るか、と声を大にして言ってやりたい気持ちを抑えつつ、心当たりはあると言うとケイティに一つ提案をされた。



「お嬢様は殿下と仲良くなる気はないのですよね?」

「ない」

「メイリンお嬢様は殿下をお慕いしているようですし、メイリンお嬢様が皇子妃に相応しいと周囲に分からせる実績を作れば、フローラリア公爵様や皇帝陛下もお認めになるのでは?」

「それいいね!」



 懸念材料はメイリンの婚約者であるフランシスだとケイティが指摘すると「大丈夫。フランシスは他に好きな人がいるから、メイリンとの婚約が無くなっても落ち込まないよ」と問題ない旨を伝えた。



「メイリンはああ見えて努力家だし、将来癒しの女神になるのは多分大丈夫。なら、早めにメイリンの実力を周囲に見せれば話は決まりそうだね」

「ただ、あくまで私の予想であって現実的とは言えません。お嬢様と殿下の婚約は皇帝陛下と公爵様が決めた政略結婚ですから」

「いいのいいの。私は殿下の婚約者のままでいるつもりはないし、仲良くなる気も全くない。私とメイリン、どちらに利があるか分かれば皇帝陛下だって変更を認めるよ」



 実績作りで定番と言えば、やはり癒しの能力の強さ。以前街で魔族が暴れて以降は平和な帝国。戦争を仕掛けている国もなく、基本大きな争い事は起きない。



「癒しの能力って怪我人を癒すのに特化してるよね」

「ええ。病人になると聖属性の魔力を持つ神官様が頼りとなります」



 どこかから怪我人を引っ張って来てメイリンに治療させる訳にもいかず。良案だと言うのに、肝心の実績になりそうな怪我人がいない。



「お嬢様。焦らずに、他にも方法があるか考えるのもありかと」

「そうだねえ……実績作りは頭の片隅に置いて、ケイティの言う通り他の方法も探すよ」



 とは言ってみるがジューリオの意固地を解すのはかなりの難問だ。ネルヴァが城に行った時にジューリアが大嫌いだ、婚約解消したいと言ってくれればヴィルのお気に入りたるジューリアを婚約者無しにしたいネルヴァは皇帝に進言してくれた。

 実際はジューリオが婚約解消を拒否したせいで叶わず。あの頭の中身を覗いて見たい。

 内心嫌っていても表面に出さずにいてくれたら、誰も要らぬ苦労はしなかったのに。



「面倒くさい……あの殿下……」



 誰に、何と言われようと、絶対に仲良くなってたまるか、とジューリアは空腹を訴えたお腹を擦りながら夕食を食べに行こうとケイティの手を引いて部屋を出た。


 


 ●〇●〇●〇


 


 夕食も終わり、お風呂にも入り、後は寝るだけとなったジューリアは今大教会の外にいた。微かな眠気しかなく、ベッドに寝転がっても眠れないと踏んで周囲を散歩していた。灯りを出す程度なら出来るようになったので同行者も必要ない。



「魔法って便利だな〜」



 前世では漫画や小説、アニメ、映画等、架空の物語でしか存在しなかった魔法。それが転生した世界では現実となっているのだから面白い。



「もっと沢山練習して色んな魔法を使えるようになりたい」



 そして何時か、元の体に戻ったヴィルと一緒に帝国を出て行き世界を回る。ヴィルが一緒なら絶対に楽しい。



「ジューリア」

「ヴィル」



 夜空も無数の星で埋め尽くされているのを見ていると前世とは全く違うと感動していると背後からジューリアを呼ぶヴィルの声が。振り返るとキョトンとした顔がジューリアを見ていた。



「どうしたの? こんな夜遅くに」

「眠くなるように散歩しようかなって」

「眠れないんだ。気になる事でもあるの?」

「そういうのじゃないよ。多分、疲れてないからかな」

「俺も行っていい?」

「勿論」



 一緒に行こうと手を差し出すとヴィルの手がジューリアの手を握った。

 一人も良いが隣に誰かいると話し相手となってくれるから退屈しない。



「ヴィルはどうして?」

「気分転換。後はジューリアと同じ。俺も疲れてないから全然眠くない」



 二人とも疲れる行動は取っていないので眠気を感じるまで時間が掛かる。ヨハネスは安定の満腹後爆睡している。お腹一杯になるまで食べてこなかったのかと訊ねるとそうだろうと返された。意外な顔をしたら、幼い頃から大人向けの味付けばかり食べさせられていたヨハネスの食は一般より細めという認識でいた。人間界に来てから大食いに目覚めたのは、単に天界で食べていた食事がヨハネスの好みとは程遠く見目に反してまだまだ幼い彼自身を表している。

 最初に会って一緒に食事をした際、人間の作る料理に感激していたヨハネス。きっと、初めて食べた美味しい料理が嬉しかったのだろう。



「甥っ子さんのお父さんが甥っ子さんの話に耳を傾けていたら、甥っ子さんも脱走まではしなかったのかな」

「どうだかね。あの親子に関しては興味が失せているから、ヨハネスが神の座に就いてからは放置してた」

「ヴィルの兄者もヴィルも放任主義っぽいもんね~」



 反対にヨハネスに構い倒すネルヴァやヴィルも想像が難しい。



「ジューリアは」

「うん」

「自分が『異邦人』で良かったって思える?」



 前世、不幸だった事が転生した先では幸運となるのが『異邦人』の大きな特徴であるのに、自身だけ同じく不幸なままのジューリア。『異邦人』なのに不幸な現実を実際ジューリア自身どう思っているのかヴィルは興味があった。

 問われたジューリアは考える間もなく「思うよ」と微笑んだ。



「だって、もしも前の……樹里亜だった時の自分を覚えていなかったら、今の私はいなかった」



 膨大な魔力を持っているのに魔法も癒しの能力も扱えず、家族や使用人に見放され冷遇されている環境を諦めて受け入れていた。魔法が使えるようになり、今まで冷たくしてきた家族に謝罪されやり直しを提案されていたらきっと自分も泣いて喜び受け入れていた。これから家族と過ごせると。



「想像しただけで寒気がして風邪を引いちゃう。それくらい私にとっては有り得なくて鳥肌もの」

「そっか」

「どうして前世の自分を覚えているか不思議だったけど、『異邦人』って聞かされてその意味も知れて私は良かったって思ってる。今は散々だけど生まれたばかりの時とか無能の烙印を押されるまでは家族を知れたから」



 決して悪い部分だけじゃなかった。前世では決して知れなかった家族を体験出来た。父や兄という存在が自分にとって脅威ではないと初めて知れた。

 七歳までの幸福がジューリアの一生分の幸運を使い果たしてしまったのなら、それはそれで受け入れるつもりだ。



「それとヴィルに会えた。不幸だらけじゃないよ」

「ジューリアがそう言うならそういう事にしておこう」



 淡々とした口調であるがヴィルの声色には、安堵の感情が含まれている。手を握り直し、大教会を三周して二人はそれぞれの部屋に帰った。




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